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2.4_雑談

 藍野は部長室を出ると杜山のいるデスクに足を向けた。

 紫藤が杜山と共に詩織の護衛に入るのは、明日の午前から。

 今日中で杜山に引き継いで、チェック済みの警護計画と共に紫藤を引き渡さなければならない。


(それにしても詩織様、せめて見送りくらい行けるといいんだけど……)


 詩織がアメリカに発つまであとひと月ほどの時期に、この極秘案件。

 時間も手間も労力もかかりそうで、詩織とまともに話す機会などもう作れないだろう。

 どうしてこうも自分ばかりが忙しいのかと、どんどん身動きが取れなくなる状況に泣きたくなってしまう。


 視界の端に捉えた杜山は、デスクにペットボトルの水を置き、近くに座る1課のメンバーと何やら楽しそうに話をしていた。

 杜山は1課の手伝いから始め、ひと月ほど前にようやく念願叶って異動となった。

 異動後も順調にやっているようで、最近はめきめきとランクを上げていた。


「よぉ、杜山……今から30分位、打ち合わせいいか?」


 この世の全不幸を背負っているような暗い顔の藍野に、杜山は言った。


「おはようございます、朝から暗いのはよしてくださいよ。紫藤の引き継ぎですね。C会議室抑えますか?」

「悪い、頼むよ」


 杜山が手早く会議室予約を行っている間に、藍野は手近なデスクの電話から紫藤を内線で呼び出し、打ち合わせをするからC会議室に来いと伝えた。


 ※ ※ ※


 悶々とした様子で歩を進める藍野に、杜山はニヤニヤと笑いながら「随分ヘコんでるようですが、そんなに詩織様の担当、楽しみだったんですか?」と言った。


「ああ、いやさ……ちょっと心配なんだよ。親しい人も作らず、山ほど講義取ってるようだから……」


 ため息交じりで藍野は答えた。

 入学当初は確かにサークルにも参加していたし、飲み会にも行っていた。

 まだ少ないがらも友人付き合いをする人だっていたのに、この変わり様。

 藍野はその変化に正直戸惑っていた。


「ああ、それですか。詩織様、相当無理して留学から転学に変更されたそうですよ。できるだけ日本で単位を取って9月の新学期を迎えたいそうです」


 だからじゃないですか、と杜山は答えた。


「おい、ちょっと待て! 留学じゃなくて転学? それ本当なの?」


 聞き捨てならない単語に藍野はぴたりと足を止め、ものすごい勢いで杜山を揺さぶった。


「ほ、本当ですよ。直近の担当に聞いたらそんな事を言ってました。もしかして知らなかったんですか?」

「初耳だよ。報告書には一切載ってなかったし!」


 杜山は思い起こしながら「そういえば報告書に記載はなかったかも。ランク引き下げ後はタクシーも使えるようになりましたからね」と言った。


「ところで転学って、やっぱり大変なんですか?」


 転学の大変さがいまいちわからない杜山に藍野は答えた。


「うーん、大学のレベルによるかなぁ。向こうって入るのはともかく、卒業が難しいんだよ。大学にもよるけど4割から半数は卒業できなくて退学。まぁ向こうは学費が高くて退学ってケースもあるけど、いくら学費の心配はない詩織様でも、言葉の壁はやっぱり厳しいだろうな。なんで突然転学な訳?」


「さすがにそこまではわかりませんよ。先輩こそどうして突然、詩織様の指名全部外されたんですか? 僕のはちゃんとありましたよ?」


「それこそ分からないような、思い当たる事はあるような……」


 藍野はシャーリーと会っていた詩織の行動を思い出してみた。

 あの日は何だか避けられていたような気がしたが、お披露目の時、殲滅依頼を社外秘だと突っぱねた事に気を悪くしただろうか、それとも告白の断り方に失礼でもあっただろうかと考え込んで、黙り込んだ。


「何、なに、何ですか? やっぱり詩織様と何かあったんでしょ? 素直に吐いた方が楽になれますよ、先輩!!」


 沈黙した藍野に何かあると踏んだ杜山は、急に生き生きし、話すよう誘導したが、そんな杜山をじぃーっと見つめ、藍野は言った。


「あってもお前には絶対言わない!」

「えーーっ!! ケチケチせず教えてくださいよ。元パートナーでしょ!」


 言ったが最後、ある事ない事、社内に広められそうな予感がする藍野であった。

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