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13.6_藍野vsコウ2

 藍野達はだいぶ持ち弾を減らしながらも、エレベーター近くまで進めていた。

 2階は早々に方がついて柴田が2階から援護しつつ小清水と氷室と藍野が3人を相手にし、藍野は見覚えのある坊主頭の男に手を焼いていた。

 博士の家で見かけ、藍野へ硝煙の臭いに苦労すると言った、コウ・ユウハンだ。


「粘るな、あいつ。さっさと降参してくれないかな……」


 貨物コンテナの影から応戦しつつ、藍野はぼそりとつぶやいた。

 もう少しでエレベータ前に辿りつけそうなのに、あと一歩及ばない。たどりつけない。

 こちらの方が一人多いというのに。

 着実に減らされる弾数に苛立ちが募る。


「コウだけに、降参(コウさん)ですか? 一ノ瀬が聞いたら情けなくて泣きますよ、藍野さん!」


 がしゃっと空になったマガジンを床に落として、新しいマガジンに差し替えながら、小清水は答え、


「なぁ、小清水。そこは泣いて喜ぶの間違いじゃね?」


 氷室はコウを追い立てるよう、立て続けに撃ち込む。


 いつ死ぬかわからないというのに、どこかの男子高校生のような緊張感のかけらもない、軽口の応酬のような会話に柴田は少し頭痛がした。


「ちょっと、三人とも! 何ふざけてるんですか!!」


 柴田もスコープを覗いて引き金を引くと、ようやく1人にかすったようで、藍野達には微かに呻き声らしきものが聞こえた。


「消耗戦じゃ弾薬に限りがあるこっちが不利だ。リアム、レイは杜山達と合流したか?」

「うん。今、レイのスマホ回収してる」


 藍野は少し思案すると、杜山に指示をする。


「悪い杜山。少し作戦変更。今建物の外に出ればコウとかち合う可能性があるから、こっちが指示するまでそこで待機」

「了解。沖野と一ノ瀬さんが戻ったらその場で待機します」


 藍野はスマホを取り出し、先ほどの監視カメラ映像のうちの一つを選択し、カメラを動かして確認する。

 柴田が放った弾丸は確かにコウに当たっていて、応急手当なのか右腕に布を巻き付けていた。


(片手なら俺一人でもいけるか……?)


 一瞬の思案の後、藍野は作戦をメンバーに伝える。


「コウを抑えて二人を止める。小清水はコウの目線をなるべく引きつけて。氷室は二人の分断、柴田さんは二人の援護」


 小清水は返事の代わりに藍野と場所を交代し、殊更見せつけるように貨物コンテナの間からコンテナに移動した。

 藍野は小清水と同時に貨物コンテナの影からコウの背後に躍り出て、傷を負っていた右腕を痛めつけるようにひねり上げる。

 痛みでうめき、取り落とした銃を蹴りだして藍野はコウのこめかみに銃を突きつけた。


『動くな! 全員銃を床に置いて、頭の後ろで手を組め!!』


 藍野が言うと、二人はぴたりと動きを止め、顔を見合わせ、そっと銃を床に置く。

 2人のうち一人が銃を置くふりをして、銃を取り上げようとしゃがみ込んだ小清水をつかもうとしたが、それは2階の柴田によって阻止された。

 小清水と氷室も油断なく二人に銃を向けながら、ゆっくりと二人とコウの銃を回収する。


『お前の負けだ。引け』


 藍野は冷たく言い放つ。


『認めましょう。ミスター藍野は良い部下をお持ちのようだ。条件は?』

『ここを放棄して立ち去れ。戻る事は許さない』


 藍野はそのまま非常口へ歩くよう促す。

 コウはゆっくりと非常口へ歩を進め、それに続いて2人も小清水や氷室に押されてついていく。

 コウに非常口を開けさせ、3人からスマホや無線の類を回収して、両手を後ろ手にして結束バンドで縛り非常口から外に出した。


『レイと紅谷は返してもらうぞ。お前たちの悪行は必ず世界中に知らしめてやる。覚悟しろ!!』


 クローゼットで死にかけていたシアや、本牧のビルで亡くなっていた者達、紅谷の家族を人質に取って脅していたこと。

 そのどれもこれもが藍野にとって許し難い事だった。


『国際的な非難など、私個人は痛くも痒くもありませんよ。お優しいミスター藍野』


 背筋がうすら寒くなるような笑顔をコウは見せつつ、吐息が感じられる程、その顔を藍野に近づけ、睨み付けた。


『ここで私を生かした事、必ず墓の下で後悔させてやる!!』


 呪詛のようなコウの言葉にも、藍野達は誰一人反応しない。

 コウ達は小突かれて、非常口から外に通じる数段の階段を降りる。

 藍野は3人がゆっくりと敷地から出ていくのを、姿が見えなくなるまでじっと見つめていた。

 

 ※ ※ ※


 1階の監視は3人に任せ、藍野は3階のレイがいるだろうと思われていた部屋に向かう途中、杜山達に保護されてエレベーターに向かうレイがいた。

 藍野が近づくと、レイは藍野に駆け寄った。


「レイ。無事で良かった。怪我はない? アイツら戻ってこないうちに杜山達と……」


 藍野はレイをエレベーターに向かわせようと背中を押すが、レイはそれを押しとどめた。


「藍野さん、紅谷さんと会えた?」

「いや、会ってないけど……」


 レイはほんの少し思案顔をして、藍野に話す。


「なら紅谷さんは、絶対に一度ここへ戻って来る。紅谷さんを連れ戻したいなら、これが最後のチャンスかもしれない」

「最後って……?」


 レイは悲し気に目を伏せ、紅谷から聞かされた事を藍野に伝える。


「彼、私を中国に連れていくって。一緒に自分もついていくって言ってた。きっと紅谷さん、日本から出ていくつもりなのよ……」


 聞かされた藍野は片手で目を覆い、下を向いた。


(お前は俺の敵になるつもりなのか? 紅谷……)


 仲間を裏切り、博士を死なせ、レイを連れ去って――。

 藍野は紅谷を信じたかった。人一倍繊細で、戦場に決して向いてるとは言えない紅谷が、こんな事(・・・・・)をするべき状況になっただけだと。


 だけど、心にはごく小さな点のような疑念もあった。

 本当は紅谷が進んで敵に回ることを選んだのではないか、という事を。


 違う、そんな事はしないと藍野は強く否定し、点を白く塗り替える。

 あれはレイの言葉であって、紅谷自身の言葉ではない。

 だから自分は紅谷に直接会うことにこだわってきた。

 会って話をして、本当の気持ちを知りたい。

 今はその一心に突き動かされていた。


「杜山、これ預かってて。俺は紅谷に会う」


 藍野は左脇から自分の使っていた銃を取り出してロックをかけて杜山に渡そうとしたが、杜山は驚いて押し止めた。


「藍野先輩、丸腰なんて絶対ダメです! 持っててください。あいつら戻ってきたら、自分の身はどうやって守るつもりです!?」

「俺は親友に会って話すだけだ。親友と会うのに、こんなの必要ない」


 そう言って藍野はいささか強引に杜山の手に自分の銃を押し付けた。


「レイを連れて先に戻れ。後は頼む」

「もぅ。言い出したら聞かないんだから……」


 杜山はぶつぶつ言いながら、腰のベルトに藍野の銃を差し込んだ。


「悪いな」


 藍野は杜山達を見送ると、エレベーターで1階の倉庫へ戻った。

 

 親友を迎えて、一緒に帰るために――。

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