13.5_藍野vsコウ1
藍野達は本牧ふ頭にある倉庫近くにいったん車を止め、作戦の最終確認を行う。
手順は杜山達を非常階段に待機させ、藍野達囮役が車両ごと強引に倉庫へ入り込んで人目を引く間に、リアムが警備システムを止めて、杜山達が侵入し、レイを保護する段取りだった。
「リアム。警備システムの無力化、頼むぞ」
藍野はリアムに警備システムを止めるよう指示する。
「うん。計画通り3分後に止める。レイの事、頼むね」
リアムが藍野のスマホから姿を消すと、杜山達は藍野と顔を見合わせてから、裏口に回り込んだ。
警備を止めるまでの3分の間に杜山達が先行して3階に駆け上がり、3階フロアに通じるドアの前に張り付くのを待った。
「こちら杜山。配置完了しました」
グループ通話に杜山から配置完了の一報が届くと、柴田はパキパキと指を鳴らす。
「じゃあ、行きますよ。しっかりつかまっててくださいね!!」
柴田は言うと一気にアクセルを踏み込む。
警護用の防弾加工のため分厚い車体は重量があり、勢いをつけてシャッターにぶつかれば、倉庫の薄いシャッターなどあっさり壊れた。
柴田はそのまま車をドリフトで倉庫の真ん中にある貨物コンテナに横付けすると、素早く車両から下り、氷室の後を追う。
藍野は車から降りるとそのまま車両の 影に潜み、小清水と雨宮は右、氷室と柴田は左の壁際の柱の影に身を潜めると、藍野の対角線上に4人を配置した形になった。
ここは吹き抜け型で2階の通路から1階を覗けば、真ん中にいる藍野の姿はよく見える。
反対にバックアップ組は柱や通路の影に隠れてしまえば2階からは撃たれにくい。
囮の藍野が奥のエレベータに向かう間に、2階の通路へできるかぎり相手を誘い出し、藍野を狙おうと通路に出てきたところを左右の4人に挟撃させる。
これが囮組の基本作戦だった。
身を潜めると同時にガンッという轟音が響き、バラバラと足音が聞こえてくる。
「早速歓迎か。警備は止めたというのに、反応早いな」
進行方向には3人ばかり姿が見え隠れしているが、あと何人隠れているのか。
(一人で3人相手はキツいな。なるべく上に集まってくれよ……)
藍野は愛用の銃のロックを解除して、早速1人目に狙いをつけて引き金を引き、車両の影に隠れると真っ黒な画面のスマホに話しかけて、リアムを呼び出す。
「リアム、倉庫内の監視カメラ映像を寄越せ!」
藍野の声に反応し、ぱっと9画面ほどの画像が現れ、いくつかをタップしたりスワイプして確認する。
(1、2……。さっきのが当たっていれば1階は3人、2階は……8人くらいか? 3階は……動きなしか。うまい事こっちに引っ張れたかな?)
大方想定通りだが、もう少し2階へ行ってくれた方が良かったと思いつつ、内ポケットにスマホを入れて藍野は動き出す。
車両とガラスの隙間からそっと覗けば、1発目は無事に当たっていたのか、誰かが引きずっていく足が見えた。
「こちら藍野。監視カメラ映像から推測すると、1階3人、2階8人。作戦通りカウント後に杜山達は侵入してレイの保護。囮は奥のエレベータを侵攻」
誰も死なせたくない。作戦がいつだって自分達の味方な訳ではない。
この瞬間だけはいつも緊張で震える。
「こちら杜山、了解です」
バックアップの4人からも「了解!!!」という返事と目線が返ってくる。
「カウント開始。5・4・3・2・1……」
藍野はそっと車両の影から再度前方の敵の動きを確認する。
「ゼロ!」のカウント終了と同時に車両から3発ほど放ってから、右手に走り込み、貨物コンテナを盾にして前方と撃ち合いを始めた。
※ ※ ※
カウントと同時に階下から銃声と足音が響いたかと思えば、足音は止んだ。
ドア付近で耳をそばだてていた杜山は躊躇なく引き金を引いて鍵を壊し、右足で力いっぱいドアを蹴破った。
ドアはあっけなく外れ、冷たい風が建物の中に吹き込む。
レイがいるのは窓のない、北側の部屋。
杜山達はまっすぐ北側に向かうと、途中の部屋からレイの声とドアを叩く音が聞こえた。
「誰か! 藍野さん、ここよ!!」
ガンガンとドアでも蹴っているのか、なかなか派手な音させていて、藍野を呼ぶ声であったが、本人でなくて少々申し訳ないと思いつつ、杜山はドアを叩き返して答える。
「レイさん、杜山です。聞こえますか? ドア壊しますんで、耳ふさいで、できるだけドアから離れてください」
「わかったわ」
小さな足音が消えたのを確認すると、先ほどと同じようにカギを壊して、ドアを蹴破った。
「レイさん。お待たせしました。さあ、帰りましょう」
一ノ瀬は見事な標準語でレイの背を押して、連れ出そうとした。
「待って、一ノ瀬さん。私のスマホを取り返したいの」
レイがそう言うと、杜山のスマホが着信を知らせる。
ポケットから出すと、勝手に通話がつながり「レイ!」と呼ぶリアムの声がした。
杜山はスマホをレイに渡した。
「リアム、私のスマホはどこ?」
「この部屋から左に3番目の部屋。本当に良かった、レイが無事で。レイもいなくなっちゃうかもって思ったらボク……」
リアムは言葉にならず、映像は半泣きの顔をしていた。
「ごめんなさい、リアム。心配させちゃったわね。でも泣くのは後よ。頼みがあるの。今から言う番号、押さえておいて」
レイは11桁の何てことはない電話番号をリアムに伝えた。
「わかった。追跡できるようにしておくよ。これって紅谷の電話番号?」
紅谷の一言に杜山達は顔を見合わせた。
「今現在はね。これからどうなるかわからないけど、ないよりましでしょ。リアムはもう少しみんなを手伝ってあげて」
「うん。レイもそこから早く出るんだよ」
そう言ってリアムは通話を終了し、レイはスマホを杜山に返した。
受け取ったスマホをポケットにしまいながら、杜山は言った。
「レイさん。スマホは私たちが回収します。ここで待っていてください」
レイが反対するはずもなく、こくりとひとつ頷くと、沖野と一ノ瀬がリアムの指示した部屋に行った。




