13.4_救出
リアムの真偽はともかく、味方であればとても心強い存在だった。
宣言通りたった一人でアジトを突き止め、レイの囚われている場所を特定し、ビルの警備システムもあっさりと掌握して見せた。
リアムの性能がすごすぎて正直作戦もクソもないと藍野は思ったが、楽になるなら歓迎すべきことだ。
舞台となるのは、本牧ふ頭にある、外から見れば3階建てのコンクリートでできたビル。
場所柄、縦より横に広いタイプで、1階の真ん中の奥にはエレベータがついている。
1階奥には天井から吊り下げられたリフトがあり、通常はこのリフトを使って荷物の積み下ろしをする。
1階と2階は背の高い貨物トラックごと入れる吹き抜け型の倉庫、2階部分は建物のメンテナンス用にコの字型の幅の狭い通路があり、1階から2階への通路へは左右の階段で移動できる。
3階は事務所スペースとなっていた。
事務所スペースは真ん中に廊下とエレベーターがあり、大きさもバラバラな10部屋程が廊下を挟んで並んでいた。
部屋はすべてテンキーを使った電子キーだったが、実力排除すれば問題ない。
倉庫の持ち主はゴンドセキュリティの親会社であるチョウヤングループで、資材置き場なのかいくつかの貨物コンテナが積み上げてあった。
雨に濡れない、頑丈なつくりがウリの倉庫で、派手にやっても迷惑は掛かりづらそうな最高の造作で藍野達にも好都合だった。
「で、藍野先輩。レイさんの保護、どうします?」
緊急招集された面々のうちの一人、杜山は会議室のモニターに大写しされたビルの図面の北側にある一部屋を指差す。
その部屋の出入口は廊下の1か所しかなく、窓もない。
ここに行くには非常階段を使うか、内部のエレベーターだけだ。
「俺が囮で正面から入って引きつけながら3階に向かう。小清水と氷室は俺のバックアップと援護、沖野と杜山、一ノ瀬がその間に非常階段から侵入してレイを保護。侵入はリアムにも手伝わせる。紫藤と上川は別命まで車内待機、雨宮は柴田さんの援護とバックアップ、柴田さん、運転手頼める?」
名を呼ばれた者は各々頷き、藍野から背後からの援護を振られた柴田は力強く請け負った。
「了解です。任せてください!!」
今回は作戦と呼べるほどのものでもない。
藍野達は正面から倉庫内へ派手に車で乗り付け、できる限り彼らの目を引きつけておき、その裏でリアムにサポートさせつつ、別動隊の杜山達がレイを確実に保護したら囮は撤退する。
ただ、囮組は遮蔽物が車か建物の柱、貨物コンテナくらいのシビアな撃ち合いで引き付けなければならないので、長期戦が想定された。
「作戦は以上だけど、質問は?」
藍野は見回したが、特に誰も手を上げなかった。
が、紫藤は空気を読まない一言を言った。
「でも、杜山先輩より藍野先輩がレイさん迎えに行った方が、絶対好感度上がると思います!」
きっとレイさんも先輩を待ってますよと、と紫藤はニヤつきながら言うと、藍野と杜山の二人から拳骨をお見舞いされた。
「痛ってーー! 二人ともヒドっ!!」
「質問ないなら出発!!」
さっきの紫藤の発言はなかったことにされ、各員が三々五々、地下駐車場に移動するためエレベーターに向かう中、一ノ瀬だけがすすすっと紫藤に近づいてこう囁いた。
「紫藤はチャレンジャーやなぁ。滑りを恐れない根性、ワイ気に入ったで! 今度俺と一緒にコントの予選出てみぃひんか?」
いえ、遠慮しますと言ったにもかかわらず、しばらくの間、紫藤は一ノ瀬の勧誘に悩まされることになった。




