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13.3_正体と説得

 リアムは自分を人工知能、つまりAIだと言った。


「は?」


 我ながら間抜けな返しだと藍野は思った。


『は?って何! は?って! ボクの事、馬鹿にしてるの!?』


 姿が見えるなら地団駄を踏む様子が伺える不機嫌声でリアムは答えるが、

「馬鹿にしてんのはどっちだよ!!」とつい日本語で一喝した。


 スマホのアシスタント機能など、どれもこれも発展途上。

 ITに疎い藍野でも、さすがにこんな風に人と会話出来るアシスタントができているとはとても思えなかった。

 そんな頑なな藍野の態度に少々呆れて、リアムは言った。


『んもぅ。しょうがないなぁ。ちょっと見てて!』


 リアムは電話を切ると、たった今まで会話していたスマホに映像が現れた。


『はい、インストール完了。これで信じてくれる?』


 姿は若い男性で、髪は茶髪、目は黒く、ちゃっかりとHRFの制服姿。

 制服のせいか、藍野には見覚えがあるような、ないようなとても不思議な感覚だ。


『見た目は君達の姿を適当に合成したんだ。改めて自己紹介するよ。ボクはウィリアム、レイが作った自立型人工知能アシスタント。いつもはレイのスケジュールや研究の手伝い、データ管理をしているんだ』


 どうりで姿に見覚えがあるような気もするわけだと藍野は思った。

 よくよく見れば、髪型は杜山、目は藍野、鼻や口は黒崎など見知った者を混ぜた姿をしている。


『ウィリアム、で、通称リアムか。そりゃあ番人にピッタリの名前だな』


 インストールされたリアムと早速会話をしてみる。

 ウィリアム、確か古いドイツ語で「勇敢な守護者」という意味のはずだ。

 そんな事を留学時代、同じ名前の友人に聞いたことがあった。


『名前はレイがつけてくれたんだ! 博士やレイのデータ管理するボクにぴったりだからって』


 ふふんと得意気に語る姿は年若い姿のせいか、幾分子供っぽくも見えた。


「なぁ、お前は日本語もいけるのか?」


 ちょっとは困らせてやろうと、いたずら心を出して日本語で話しかけてみた。


「もちろんだよ!メジャーな言語は勉強したからね。でも、ミナトならこっちの方がいいかな?」


 リアムはぱっとレイの姿に切り替えた。


「あなたの場合、この姿の方が手の発汗量も心拍数も上がるのよ。こっちが好みかしら?」


 口調も声もほとんど一緒のレイの姿でにっこりと笑い、藍野はぼとりとスマホを落とした。

 衝撃吸収のカバーでスマホは無傷だったが。


「なーんて嘘だよ。ミナトのスマホにそんなセンサーついてないでしょ。ちょっと考えれば分かることじゃないか!」


 リアムはぱっと元の姿に戻り、大笑いする。


「でもジャイロセンサーで、ボクを落としたのはわかったよ。もう少し丁寧に扱ってよね!」


 画像でぷうっとふくれっ面で怒っても見せた。

 実は人工知能じゃなくて、本当に人間かもしれないとすら思えるほどの繊細な感情表現。

 どういう仕組みなのかわからないが、良く出来すぎて心臓に悪いと藍野は思った。


「と、とにかくだ。レイの移動が止まったらまた連絡してくれ!」


 藍野も装備変更や何やらで、一度横浜に行かなくてはならない。

 レイを迎えに行くには準備が必要だった。


「うん。車は本牧の方に向かってるから、もう少し時間がかかると思うよ。ミナトの準備が終わるまでにアジトを突き止めて調べとくね!!」


 リアムがぱっと消えると、いつもの社用スマホに戻った。

 一応調べたが、アイコン一つすら作られていなくて、本当にインストールされたのだろうかと思ったが、とりあえず置いといて、車を社に向けた。


 ※ ※ ※


 レイはリとの交渉後、紅谷によって同じ階の別室に移された。

 先程の部屋とは違い、小さな応接室のようだった。

 隣室に行けそうな扉が一枚あり、部屋の真ん中には皮張りの応接ソファとローテーブル、安っぽく見える衝立越しに冷蔵庫があった。


「少々手狭で申し訳ないのですが、ここにいてください。明日にはあなたを中国へ移します。欲しいものがあれば、今のうちにリクエスト下さい」


 紅谷は手首を縛っていた結束バンドをカッターナイフて切ると、朝もお昼も食べていなかったレイ用の食事の入ったコンビニ袋を手渡した。

 袋を覗けばペットボトルのお茶や水の他、お弁当にサンドイッチ、菓子パンやおにぎりと明らかに一人分の1回の食事量にしては多い。

 移動直前まではここに閉じ込めるつもりなのだと、レイは察した。


「そうね。化粧水とクレンジング、乳液が欲しいわ」

「わかりました。用意しましょう」

「私を中国にって……、パスポートもないのにどうやって連れていくの、偽造パスポートかしら?」


 レイは受け取ったコンビニ袋を応接セットのローテーブルに置き、ソファに座った。

 ソファには毛布まで用意してあり、本気で自分を外に出すつもりがないのだという意思を感じた。


『いいえ。中国政府が発行した正規のものですよ。1回限りの片道ですが』


 紅谷はよくあるパスポート盗難や紛失対応の一環で、帰国に限り発行されるものの事を説明した。

 中国に帰化したアメリカ人として、名前などは適当につけて発行したものだという。


「出国審査で助けを求めるのも無駄です。あなたは私や他の者が機内まで付き添いますので、そんなことはさせません。諦めてください」


 にこりともせず、淡々と紅谷は言った。


「出発まであと何時間か知らないけど、絶対に藍野さんは私を迎えに来るわ。彼と話して! お願いよ、紅谷さん!」


 レイは真剣なまなざしを紅谷に向け、紅谷の両腕に取りすがった。

 ここで止められなければ、二人はもう元には戻れない。

 だが紅谷はレイの手をそっと掴んで、離すよう促した。


アレ(藍野)が俺の邪魔をするなら、排除するまでです。最も俺の実力がどこまでアイツに届くかはわかりませんが」


 説得にも揺るがず、冷たく口の端を上げて答える紅谷を、レイは哀しく見つめ返していた。

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