13.2_SOS
沢渡がやられたように、今度は藍野の耳がリアムの大声で死にそうになった。
『お願い! レイを助けて、ミナト!!』
藍野が電話を取ると、リアムは開口一番、切羽詰まった声で叫んだ。
『またお前か。何故それをお前が知っているんだ!』
藍野はリアムに負けじと大きな声で怒鳴り返す。
『ボクがレイに何があったか知ってるからだよ。紅谷って君の探してる友達だろ。彼に連れてかれたんだ。場所送るよ』
紅谷の単語に喉から否定の言葉が出かけて、藍野は唇を噛み締めた。
(ソイツは絶対紅谷なんかじゃない!)
自分の知る紅谷は物腰も柔らかく、弱い立場の者に気遣いを見せる人物だ。
そんな人間が父を亡くして傷心のレイを連れ去るなど、藍野の知る紅谷ではないと思いたかった。
だが、家族を人質に取られて追いつめられている状況なら……?
(絶対に違う! 紅谷から直接聞くまで絶対信じない!)
リアムの言は一時的に頭から追い出して、スマホに表示されたレイの現在地を確認する。
『これ……レイのスマホ? バッテリー持つのか?』
腕時計は既に5課が回収済み、それ以外にGPS発信のできるものなどスマホくらい。
だが、あれはバッテリーを食う。
その辺を藍野は心配した。
『そう。さっき電源はGPSだけに変更した。他は切ったから多少持つけど、タイムリミットはあと3時間くらいだね』
藍野は腕時計を見た。
現在11時50分、およそ15時までにレイを保護しなければならない。
地図を広域モードに変更すると、レイは早いスピードで本牧方面に南下している。
やるべき事は明確になったが、藍野にはもう一つ聞くべき事があった。
リアムがGPS表示に使用しているアプリは、HRFのみで使われているもの。
以前レイのGPSをいじって護衛をまいた件から、システム周りを再チェックし、4課によってセキュリティーをあげたと水谷から聞いていた。
なのにパスワードもサーバーの場所も知らないはずのリアムは、またもやしれっと入り込んでいる。
一体彼はどうやって社内に侵入しているというのだ。
今日こそ聞き出そうと『おい、お前……』と問いかけたが、リアムは藍野を無視し『レイ、今日はボクのプログラムをメンテするって言ってたのに……』と、すねた声でボソりとつぶやいた。
『は? お前のプログラム?』
聞き間違えたのだろうかとオウム返しのように問うと、
『そうだよ。僕のプログラム!』とイラついた声でリアムは藍野に返す。
僕のプログラムという文言に妙な違和感を感じ『お前は誰だ?』と藍野は尋ねる。
が、リアムは斜め上よりも衝撃的な一言を発した。
『だ・か・ら・! 僕はレイに作られたクラウド型アシスタント“ウィリアム”人口知能なんだよ!! 手足のない僕じゃレイを救えない。お願いだ。レイを助けてよ、ミナト!!』




