12.1紅谷とレイ
明けて日曜日――。
レイは護衛達にちょっと近所へ買い物に行くと伝えて、近くの商業ビルまでついてこさせ、終えると地下駐車場入り口へ送ってもらい、レイはそのまま一人で部屋に戻ると見せかけ、こっそりとエレベータを地下に戻し、メモにあった公園へ来た。
冷たい海風が吹き付け、体が冷え込むのを感じながら、あたりを見回すと呼び出した本人が現れた。
「レイさん、お久しぶりです」
レイには見覚えのある姿だった。
日本に来た直後、護衛の件を相談させて欲しいと丁寧に申し入れ、博士とも話したいと請われて紹介もした。
そして今、藍野が必死で探している人物だった。
「紅谷さん! 良かった、無事だったんですね。藍野さんがとても心配してました。今呼んでき…ま……」
レイは紅谷の手に握られているものを見つめ、ぴたりと動きを止めた。
黒い銃だ。
紅谷はあの日、コウが博士へ銃口を向けたのと同じように、レイへ銃口を向けた。
「俺と一緒に来てください。理由は……言わなくてもわかるでしょう?」
レイは少し顔を曇らせ、銃と紅谷を見比べ、落ち着いた声で言った。
「私が行けば、あなたは藍野さんの所に戻ってくれるの?」
紅谷は無表情で首を振った。
「戻れません。あなたにこんな事をしている俺を、アイツが許すはずがない」
「許すかどうかなんて、あなたが決めるんじゃない、あの人が決める事だわ。あなたはあの人とちゃんと話すべきよ!」
レイの言葉に紅谷は眉一つ動かさず、親指でかちりとロックを解除する。
「……俺はあなたより、藍野より、家族の方が大事なんです。腕時計とスマホを渡してください」
痛ましい顔つきで家族の方が大事と言う紅谷に、レイは素直に腕時計を外して紅谷に渡した。
「スマホは渡すわ。でも捨てたり、壊さないと約束して欲しいの。きっとあなたの家族を救う切り札になる」
紅谷は言外の言葉に驚いて、ほんの少し表情を変えた。
「あなたが研究成果を持ってるんですか?」
レイはこくりとうなずいた。
「そうよ。だけど生きた私自身とこのスマホがないとファイルは開かない。これならあなたを縛り付ける所と交渉できるんじゃない?」
ファイルを開けるには生体認証が必要なのだと紅谷は察し、その端末にレイのスマホを使っているのだと理解した。
スマホを捨てるつもりだった紅谷は計画を少し変えた。
「……いいでしょう。目の前で電源を切って下さい。俺が預かります」
レイはバックからスマホを取り出して、画面を見せてから電源を切った。
(リアム、お願いよ……)
リアムなら電源を切った事に気づいてくれる。
気づけば誰かに伝え、それは藍野に伝わるはずだ。
藍野が知れば、きっと迎えに来る。
そう約束したのだから。
レイは信じて、スマホを紅谷に手渡した。
「では、行きましょうか」
紅谷は腕時計を手近なゴミ箱に投げ捨て、スマホをポケットに入れると、レイを近くに停めてあった車に乗せ、どこかへ走り去った。
※ ※ ※
レイが連れ去られて1時間程経った頃、リアムは用事があり、レイのスマホに電話を掛けた。
だが、電源が切られてると案内され、通話は切れてしまった。
(あれ、レイのスマホ、電源切れてる……。ははぁ、またうっかり電池切れだな)
レイは夢中になってしまうと充電することを忘れるため、スマホは電池切れになってしまう。
予備のバッテリーを持たせているから、特に問題はないけれど、本人が気づいて充電してくれないとお話しにならない。
予定を見ると今日は日曜で、昨日は藍野達と出かけたはず。
きっと疲れて充電器に戻さないまま、眠り込んでいるのかもしれないと、もう少し待ってからかけてみることにした。
(まだ電源入ってないや。レイってば一体どうしちゃったのかな?)
あれから更に一時間経った。
現在、日本時間の午前11時。
いくら朝寝坊のレイでもさすがに起きているはずなのだが、やはり電源が入っていないとのアナウンス。
おかしいと思いながらもう一度コールしてみるが、やはり同じアナウンスが流れた。
リアムは不審に思い、レイのスマホにリモートで電源を入れてみた。
(あ、電源入った。バッテリーの残り……83パーセントもある)
バッテリーも残ってるのに、レイは電源を切っている。
どれもこれもレイらしくない行動に、リアムは訝しみながらも、スマホの位置情報を取得した。
(何……これ。レイが移動している。今日はお休みでプログラムのメンテするって言っていたのに)
リアムは驚いて直前の会話履歴を探して聞き、事情を知るとリアムはGPSのみ起動させ、リモートで電源を切った。
今後の事を考えるとバッテリーは節約しないといけないが、GPS発信だけならバッテリーはだいぶ持つはず。
(どうしよう……。何とかしないとレイがどこかへ連れ去られちゃうよ!!)
リアムは慌てて藍野へ電話を掛けた。




