11.5_お出かけ2
本当は中華街で本場に近い料理を出す店にしようと思ったのだが、治りかけであの状況を忘れかけてるシアを刺激するのもと、子供メニューもありレイもまだ行ったことがない大手チェーンのファミレスにした。
お昼には少し早い時間だったためすんなりと座れたのだが、場所柄、すぐに家族連れで込み合いはじめた。
「タイミング良かったわね。ねぇ、藍野さん。ずっとシアを抱えてて大変じゃない?」
貰ったメニューを広げながら、レイはシアにも子供メニューを渡してやる。
シアは興味津々で受け取ったメニューを眺め、おとなしく座っている。
「シアは軽いから全然平気。だけど今日の護衛はいいなぁ。くふふふふふっ」
同じくメニューを開いてニヤニヤしながら、乙女かとツッコみたくなるような身悶えをしていた。
「あら、どうして?」
「客層見てよ。みーんな家族連れでしょ? ひとりで座ってるのは紫藤だけ。これはつらいねぇ~」
優越感にひたりつつ「聞こえてますよ、先輩」と紫藤が無線で入ってきても、今の藍野には余裕で無視てきてしまう。
レイの外出に付き合う体なので、ロープロで控えの紫藤は少し下がって、別テーブルにぽつんと一人で座って食事をしている。
傍から見ればファミリー層ばかりの店内で独身男がさみしく食事を取ろうとしている風にしか見えなく、時折同情めいた視線が投げられていた。
「なら紫藤さんもここに呼べばいいじゃない。私、気にしないわよ」
ねぇ、とシアに聞き、シアもこくんとうなずく。
「だーめ。俺も紫藤も、勤・務・中、なんです!」
これも修行の一つだと、丁寧にお断りし、無線ではぶぅぶぅ文句を言われていた藍野だった。
※ ※ ※
楽しく食事を終え、いよいよメインイベントである観覧車前にやってきたが、レイの顔色はいささか冴えなかった。
「ねぇ、レイ。シースルーのゴンドラがあるって。足元とか座る部分まで透明なの。これでもいいかな?」
「え? い、いいわよ……」
藍野が振り返れば、レイは観覧車を見上げ、ちょっとぎこちない素振りを見せる。
「おーい、レイ?」
藍野に声をかけられてはっとし、目線をそらして小さな声でレイは藍野に言った。
「な……何?」
「もしかしてレイって高いところ苦手?」
「ぜ、全然そんなこと……ないわよ。ほら、行きましょ!」
言い淀みながらも、レイは先頭を切ってチケット売り場に向かうが、予想通りの事がレイの身の上に起きてしまった。
※ ※ ※
観覧車を降りたレイは真っ青でフラフラとベンチに向かい、腰を掛けて頭を下げている。
想定通りレイは高いところが苦手、なのにシースルーのゴンドラに乗り、どこを向いても地獄な15分間を経験した。
シアの方は全く平気らしく、終始ニコニコとご機嫌でずっと窓に張り付き、藍野と共にゴンドラに備え付けのタッチパネルを操作していた。
「もぅ。無理しないで、紫藤と待っててくれても良かったのに。ちょっと飲み物買ってくるから、紫藤とここで待ってて」
藍野は視線で紫藤を呼び、護衛を代わってもらうと近場の売店へ飲み物を買いに向かった。
「大丈夫ですか、レイさん?」
隣ではシアも心配そうにレイを見上げている。
「まぁ、予想よりだいぶ怖くて……。上を見て素数数えてみたけど全っ然、落ち着かなかったわ」
素数を数えて落ち着くものだろうかと紫藤には疑問だったが、そこはツッコまなかった。
「ああ。先輩、戻ってきましたね」
紫藤が目線を投げた先に、藍野がペットボトルと他にも何かを買ったようで、ビニールの袋をぶら下げて戻ってくる。
「じゃあ、ボク戻ります!」
紫藤はそう言ってレイに背を向けた時、係員の制服を着た男性がレイに近づいて、チラシを手渡した。
「こちら、特設スケートリンクのサービス券です。良かったらどうぞ!」
レイが受け取り、チラシを開くと一枚の小さな付箋メモが挟み込んであった。
そこには、
『明日のAM9時、HRF裏手の公園で待つ。この事は誰にも話さないように。紅谷』とあった。
レイは息をのんで、そっとメモを手の中に隠した。
男はレイ以外にもチラシを配りながら、どこかへ立ち去っていく。
振り返って係員を確認したいが、今振り返れば、きっと前後にいる藍野や紫藤の目はごまかせない。
レイはおとなしくチラシを見るふりをした。
「どうしたの?」
「ううん、そこのスケート場のサービス券もらっただけよ。どうする、シア?」
シアがこてんと首を傾げたので、レイは近くにあるスケートリンクを指差した。
「スケートか。今日はゆっくり歩くだけって言われてるしなぁ……。俺が抱えて滑ればいいし、行こっか!!」
「じゃあお買い物はなしで、スケートね!」
3人は藍野が買ってきた飲み物やクレープを食べ、少し休憩してからスケートリンクに向かった。
今度はレイの得意な方で、ひとしきりスケートを楽しんだ。
ただ、戻ったシアが珍しく楽しそうにテンション高くスケートをしたと能條に話したので、藍野はとても叱られた。




