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11.3_名前

 クリスマスも間近になり、ニュース番組ではライトアップやクリスマスイベント情報が紹介され、世間のカップルが浮足立つ頃――。


 紫藤は元気になってきた星野とどこに行こうかと画策し、レイはハイテンションで与えられている部屋に大きなツリーを自ら飾りつけ、アメリカから来たカードを飾ってご満悦の様子。

 父親も亡くなったし、こちらには友人もそんなにいないとだいぶ落ち込んでいたのだが、ぽつりぽつりとアメリカの研究所や今の職場から、カードやプレゼントが自宅に届き、藍野からは「家族なら黒崎先輩()がいるじゃないか」と言われ、そういえばそうだったと黒崎にカードを送り、嬉しそうにプレゼントを用意していた様子だった。

 家族には敵わないのだが、藍野もプレゼントとカードをを準備して、こっそりとツリーの下においてきた。

 ただ、同じことをする警護員がレイの護衛チーム内に多発したので、結局藍野は埋もれてしまって歯ぎしりをする羽目になった。

 そんな風に社内でもそこかしこでシークレットサンタの企画やカフェテリアでのパーティーの案内を目にするようになった頃、もう一つのプレゼントを藍野は真剣に考えていた。


「なぁ、紫藤。これピンイン発音でもシアっぽい?」


 藍野は手近なメモ用紙に書いてみせた。

 そこには志亜(シア)と書かれていた。


「うーん、ギリいけるかな。こんな感じです」


 紫藤は発したピンインは藍野にはジィーヤァと聞こえた。

 まぁ、許容範囲だろうと、採用した。


「あの子の名前ですか?」

「ああ……うん。本社経由でアメリカに戸籍作るんだけどさ、やっぱり本人のルーツでもある中国っぽい名前にしたくて。どうかな?」


 藍野は悩まし気に腕組みしてボールペンを置く。

 ちなみに姓は中国でもメジャーな『(ワン)』にした。

 命名『王志亜ワン ジィーヤァ

 藍野は繰り返しぶつぶつと名前をつぶやき、PCのフォームに他の部分を書き込んでいく。


「まぁ……。いいんじゃないでしょうか」


 ものすごく真剣な表情の藍野には申し訳ないと思いつつ、頭をひねった割に読みが少しキラキラ感があると感じたが、養子先はアメリカだろうし、漢字なしなら許容範囲内かと紫藤は思い、止めなかった。


「よし、じゃあこれで決定!」


 藍野は名前に漢字と読みのアルファベットをを入力し、ファイルを沢渡にメッセージで送った。


「だけどシアって賢い子ですよね。ボクが教えた広東語も結構使えるようになってますし、単語とか挨拶程度なら英語や日本語も話し始めてますよ」


 現在、シアが来てから10日ほどたった。

 始めこそ渚澤も能條もスマホを介した北京語中心だったが、お試し気分で紫藤が広東語を教えたら、やっぱり中国語同士で近いせいか、あっという間に会話も様になってきた。

 英語は能條や藍野が、日本語は渚澤が相手をしている程度だが、今では一人で音声検索を使い動画サイトの幼児向け動画を楽しめる程度になった。

 中身というより、映像自体を楽しんでいる節はあるが。


「覚えが早いから、色々与えてみたくなるんだよな」


 デスクにおいてある、ラッピングされた大きな箱を手にすると、いそいそと席を立つ。


「それ、シアへのクリスマスプレゼントですか?」


 早速紫藤は名前を使って会話する。


「そ。今度は恐竜図鑑。英語バージョン。今はすごいものがたくさんあって、選ぶのも楽しいよ」


 むふふと笑って藍野は答える。

 恐竜が飛び出す凝った仕掛けで、自分で動かしたりもできる。

 多少読めなくてもスマホアプリを使ったり、自分が読んてやればよいかと思ってこれにした。

 ちなみに各ページにARコードが付いていて、スマホやタブレット画面に3D恐竜動画もちゃんと流れる。

 自分が子供のころにこういうのが欲しかったと、藍野は思う。


「すっかり教育パパですね。先輩」

「えー? 俺的には早く一緒に公園でサッカーとかしたいよ。昔、父親と一緒にやったからな!」


 藍野はPCを閉じて引き出しにしまい、上機嫌で席を立ち腕時計を見る。

 時刻は18時を少し過ぎた頃。


「じゃ、俺。18時から48時間の休暇、後はよろしく」


 途端に背筋を伸ばし、ぴしりと敬礼をする。


「お疲れ様でした! 藍野主任」


 紫藤も同じく返礼を返すと、藍野はスマホとタブレットを持ち、足取りも軽くクリニックに向かった。

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