10.4_ファイル
「これ、俺が頼んだより詳細に調べてある……」
開かれたファイルは以前、藍野が依頼したコウ・ユウハンとゴンドセキュリティサービスの資料だった。
彼らはセキュリティサービスを謳っているが、まともな警備業を行っておらず、所属は殆どが軍人で強引な手法のスパイまがいの活動をしている事、今回の件の首謀者、今後の予定などが記されていた。
「完全に諜報員用の隠れ蓑……。そんなもんだろうとは思いましたが……」
開いたファイルを一緒に覗き込みながら、水谷も香港で見かけた、一人では太刀打ちできなかった彼らの姿を思い返す。
どれもこれも内部にいないとわからない情報ばかり。
厳重にプロテクトをかけて返却物に混ぜた訳も理解できた。
「おい……。これ本当かよ」
ページの最後の方に、博士やレイを入手した後の計画もあり、彼らは日本でサヴァン化の人体実験をするつもりだったらしく、何人か連れてきて、どこかに閉じ込めている。
中には年端もいかぬ子どももいた、間に合うなら助けてやってくれ、と紅谷は結んでいた。
「藍野さん、どうにかできます?」
期待を込めた目で水谷は藍野を見ると、うーん、と腕を組んで考えこんだ藍野は、理由を何とかひねり出す。
「紅谷捜索の延長線上にいたことにしよう。捜索の途上で人道上助けが必要な人間がいるなら、会社だって無視できないよ」
水谷は頷いて同意し、デスクにおいてあったカレンダーを見る。
「つまりどちらも年内中に何とかしないといけないって事ですね。ゴンドの方、ハックしてみますか?」
黒崎からの期限は年内中、それまでに何とか結果を出して再度の延長か、調査続行を認められる状況を作るか、紅谷を見つけないと、捜索も打ち切りとなる。
打ち切りとなった所で、藍野も水谷も諦めるつもりは毛頭もなかったが。
「頼めるか? 俺はこっちのリストの方、当たってみるよ。あ、これデータ貰っていい? 部長に報告してくるから」
水谷が頷くと、藍野はいったんファイルを閉じて、ファイルを自分のフォルダへコピーした。
「何かわかったら連絡します。藍野さんも無理しないでくださいよ」
「ヘーキ、平気! 水谷よりは頑丈だからね!」
ひらひらと水谷に手を振り、やるべきことがはっきりして目標が定まったおかげで多少足取りも軽く、藍野は部長室に向かった。




