8.6_A棟2
今日はもう寝るだけだし、夕飯は機内で食べたというので、藍野は社内にあるカフェテリアへレイを連れ出した。
キッチンにはまだ何も入れてなかったので、カフェにでも連れ出そうかと思ったが、社外では聞かれたくない話もあるので、社員用カフェテリアにした。
ちょうど夕食の時間帯でメニューは充実していて、社員達で活気があった。
一人で食事しながら仕事をする者、一角を占有して誰かとミーティングしながらとレイにも見慣れた風景がそこにはあった。
「はい、これ。レイのゲストパス。社内は全部これ使って。もちろん料金請求されないから安心して」
さっきのエレベーターも部屋の入り口のセキュリティーもここの清算もすべてこのカードを使えばいいと藍野は言った。
受け取ったレイはスカートのウエスト部分に着けると、あたりを見回した。
ざわめく雰囲気と空気感が研究所を思い起こさせて、何故か落ち着いた。
「なんだか久しぶりだわ。研究所の食堂もこんな感じだったの。こんなに大きくはなかったけど」
研究所もこんな風にあちこちで食べながら議論したり、考え事をしたりする人がいた。
時折職員の家族もいて、一家そろって楽しそうに芝生で食事をする姿もあった。
「明日はちゃんとした夕飯食べに行こう。嫌いなものとかある?」
「ううん、ない。私、アイス食べたい。藍野さんは夕飯食べたの?」
冷凍ケースからバニラアイスを取り出して、カードをかざしながらレイは聞いた。
「迎えに行く前に済ませた。じゃあそれ食べたら……」
藍野は言いながら、レイの手の中にあるカップとレイの顔を見比べてにっこりと笑った。
「お待ちかねのお説教の時間だ」
そりゃあもう懇々と切々と延々と途切れる間のない説教だったとレイは思い返し、特大のため息をつきながら、やたらと豪華な風呂に浸かった。




