8.4_再び
今回は現地を午前中に出たおかげで、夕方には少し遅い19時半過ぎに到着した。
到着口には制服姿の藍野が迎えに来ているのが見えて、レイはびっくりして、黒崎を引き留めた。
「ちょっ…ちょっと待ってよ!! どうして藍野さんが迎えに来てるって教えてくれなかったのよ!」
「社に戻るだけだし、誰でもいいと頼んだからな。何がまずいんだ?」
見た目は普通だが、この顔は絶対嘘だとレイは悟った。
機内の十何時間かでそれくらいはわかるようになったから。
「まずいというか……今はまだ顔を合わせたくないというか……こ、心の準備ができてないのよ」
オロオロと視線をさまよわせ、心なしか耳が赤いレイをわかりやすいと思い、黒崎は追い込む一言を言った。
「相互理解から、だろう?」
自分が苦労した何十分の一くらいは苦労させようと、にやりと黒崎は笑って言った。
「いずれ顔を合わせるんだ。早くても遅くても変わらん。さっさと話すなり謝るなりしろ」と黒崎は到着口に向かった。
レイも慌てて後を追って到着口を抜けた。
※ ※ ※
レイと黒崎が連れ立って到着口を出ると、二人に気づいた藍野が近づいてくる。
やっぱり顔を合わせづらいと、レイは子供のように黒崎の後ろに引っ込んだ。
そんなレイに目もくれず、藍野は黒崎に声をかけた。
「おかえりなさい。黒崎先輩」
「出迎えご苦労様。車はいつもの所か?」
そうですと藍野は言うと、鍵を寄越せと黒崎に言われたので、藍野は黒崎に鍵を渡した。
「先に行ってる。お前に話があるそうだから、聞いてやれ」
そう言うと藍野の視線を遮っていた壁はどこかに行った。
「ちょっと! 黒崎さん!!」
置いていかないでほしいとは言わせてくれず、さっさと黒崎は立ち去ってしまった。
隠れるところもなくなり、せめて視線から逃げようと藍野に背を向けた。
「おかえり、レイ。帰って来てくれて安心した」
藍野はレイの背中に言ったが、何の反応もなかった。
「レーイ?」
藍野はにゅっとレイの横から顔を覗き込んだ。
レイは耳まで真っ赤にして俯いていた。
「そ……その。あの……ですね……」
どうしよう、どうしようと頭はいろいろな言葉が無限ループで脳みそに負荷がかかる。
ぎゅうとスカートを握りしめた。
心にも無限ループを抜けるポイントが作れればいいのに、とレイは思う。
「うん」
もじもじとするレイの姿が小さな子供のように可愛い反応なので、藍野はもう半笑いなのだが、肝心のレイは全く藍野を見てないので、気づく様子はない。
「だっ…黙っていなくなって、心配、かけて、本当にごめんなさい……。あの…、怒って、るよね?」
顔を上げて口から出たのはごく普通の謝罪の言葉だった。
もっとちゃんと言いたいこともあったのに、きれいさっぱりすっ飛んでしまった。
「叱ってほしいなら、その辺は後でお説教してあげる。まあでも……」
ぽん、とレイの頭を撫でて「元気になったみたいで、ほんとによかった。おかえり、レイ」と藍野は笑う。
やっぱり怒られるのは確定なのか、とレイは少々へこんで、へにゃっと笑い返した。




