7.3_apology
リアムの告白以降もレイは母親の眠る墓地に通い、時折研究所内にいる友人と話し、ゆっくりと自分を取り戻していく。
時間が経つほどに元気にはなったが、同じくらい護衛達に申し訳ない事をした気持ちも同じく育ってきた。
紫藤達を騙すようにして日本を出たこと、あれだけ手伝ってくれた黒崎の事、父の死で藍野を責めた事も。
父の死は決して彼らの責任ではなかったのに。
スマホを手に取って、藍野の番号に連絡してみようかと思ったが、手が動かなかった。
いくら考えても「藍野さん、ごめんなさい」以降がうまく言えない。わからない。想像ができない。
プログラムのシミュレートならいくらでもできるのに、彼に再び会った時のシミュレートが全くうまくいかない。
彼は許してくれるだろうか、それとも怒るだろうか。
レイにとっては生まれて初めての感情で大いに戸惑っていた。
(きっと怒ってる、かな……)
レイは思い出す。
父の死を知ったあの日の行動を顧みれば、本当に悪い事をしたと思う。
藍野だけでなく、担当してくれた全ての警護員は自分や父の身の安全の為に体を張ってくれ、しかも騙すようにボストンに帰ってきた。
いくら仕事とはいえ、他人に命をかけるなんてそう簡単にできる事ではないのに。
――でも。いてくれて嬉しかった、な。
思い出せば、胸のあたりがほわりと温かくなる。
自分の悲しみで何も見えなくなっていた時でも、藍野がずっと傍にいて、何くれとなく面倒を見て、親身になってくれた。
ずっと彼が側にいて、レイの事だけを考えてくれた時間は何物にも代えがたい事だった。
だけど今は、会うのが少し照れくさい。
(さ、先に仕事場へ連絡しよう!)
レイは職場へ連絡を入れて、父の埋葬のため現在ボストンにいること、しばらくはリモート対応するということで落ち着いた。
職場からは大変な事でもあるし、一度辞めて落ち着いたらまた来てくれるのでもいいと遠回しに退職を勧められ一瞬青くなったが、リモートでも決してパフォーマンスは落とさない、こちらで埋葬と手続きが終わり次第すぐに日本に戻るので問題はないことを精一杯アピールしてリモートを勝ち取り電話を切ると、大きく息をついた。
『危なかったわ。失業寸前だったなんて。とにかく頑張らないと!!』
レイは気合いを入れるとリアムに連絡し、遺骨の埋葬許可や墓石の手配などをしてもらった。
それらが全て終わった、2日後の日本行を取ってもらい、外に出た。
レイはあたりを見回し、自分の護衛達に近づいて言った。
『私、日本に戻ります!』
レイは結局、連絡はせず、顔を見て直接謝る方を選択した。
そうでもしないと怖気づいてまた逃げ出すような気がした。




