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7.2_will

『レイへ。

 お前がこれを目にしているなら、私は自分でプログラムを実行したのだろう。

 そうなったとき、最後にレイへ何も残せないのは悔しいからな。

 リアムに遺言として預けることにした。

 リアムが説明しただろうが、これは私がリアムに無理を言って作らせたんだ。

 リアムを責めないでくれ。

 研究成果はデータを暗号化し、パスワードをかけて、すべてリアムに預けたよ。

 パスワードはレイも知っているものだ。

 データ復号はレイの生体認証と遺伝子情報を鍵にしてある。

 レイが生きていないとデータを開けられない。

 詳しい開け方はリアムに聞きなさい。

 私が死んで成果が行方不明になれば、後はレイの体を調べるしかその方法は探せない。

 それには絶対に生きているレイが必要だから、差し当たって殺される心配はなくなっていると思うが、生きている以上、いつかまたどこかに狙われたり、脅されたりする時が来るのは避けられない。

 レイとリアムでも、どうにもならなくなったら、研究成果を使ってグループの保護を受けなさい。

 一生あいつら(HRF)と縁は切れないが、お前が死ぬより生きていてくれる方を父さんは望むよ。

 日本支部ならレイもリアムも、きっと悪いようにはしないだろう。

 怜司の事はレイが気にする必要はない。

 これは父さんと怜司の問題だ。

 潔癖なあの子には、レイを姉さんの身代わりにして、レイ自身をないがしろにしているように見える事だったんだろう。

 それでも父さんにはレイが必要だったんだ。

 許してほしい。

 レイが5歳までしか生きられないと知った時の絶望を思えば、これだけ長くお前と一緒にいられた事が奇跡だったんだ。

 ここで死ぬ事になっても、私はもう十分満足している。

 レイといられて倖せだった。

 誰が何を言おうと、レイは父さんの誇りだ。

 だから生きて幸せになりなさい。

 それが父さんの願いだ。

 今も、この先もずっと愛してる』


 レイは読み終えると、ファイルの最終更新日を見た。

 日付は9月上旬。スケジュールを確認すると確か黒崎と直接会い、別れた妻の墓参りをしたいと言っていた時期の頃にあたる。

 レイはリアムに電話をし、使われたプログラムの最終更新日を聞いた。


『一番新しいのは今年の1月だよ』


 その頃に博士は余命宣告を受け、レイも同じく病気のことを知って管理プログラムを作った。

 余命通りになればそれでよし、日本に戻ることを決めていたから、こんな風に狙われることまで想定して追加機能を作ったのだろうか。

 そのときまで、父は墓場まで成果を持っていくつもりだったのだ。

 だが、遺書は9月に書き換えられた。

 彼らに出会った事で、父も信頼できる誰かに自分と成果を預けようという気になったのだ。


『父さんの最期、映像か音声、残してある?』


 リアムはうなずいて、映像が残っていることを伝えた。


『最期の映像ではね、“データは渡さない。自分もレイも絶対に渡すものか”、そう言ってたよ。犯人の顔も映ってる。ボクからミナトに渡そうか?』


 今のレイが映像を見るのはつらいだろうしと、リアムは言ったが、


『私から渡すわ。クラウドにアップしておいて』


 レイはリアムの提案を断り、一人で考えたいと電話を切ると、長い間、母親のそばで博士の残した遺書を眺めていた。

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