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6.6_別離

 藍野が追いついて博士の家の前に着いた頃、レイは既に到着していて、玄関を開けようとしているところであった。

 藍野は駆け寄り「なんて無茶するんだ! あんな事はもうしないと約束してくれ」と、敬語も礼儀もすっ飛ばして怒鳴りつけたが返事はなかった。


「おい、聞いてるのか? レイ!!」


 右肩に手を掛けて振り向かせようとしたが、全く意に介さず、バックをひっくり返す勢いで鍵を探していた。

 レイは震える手で見つけた鍵を差し込んで回すと、かちゃんと鍵がかかる音がした。

 慌てて再度回して開錠して靴を投げ捨てるように脱ぎ、レイはまっすぐ二階の寝室に向かった。


「父さん……父さん!!」


 彼女の探し求める父親は、いつものようにベットに横たわっている。

 レイは駆け寄り、揺さぶって起こそうとした。


『父さん…ねぇ、父さん……』


 沢渡の報告通り、フォローに入った者が米田医師を呼んでいて、側で眼球に光を当てて死亡確認をしていたところだった。

 藍野はレイの肩をそっと引き寄せ、医師と場所を入れ替える。

 米田医師は一通りの診察をし、腕時計を確認した。


「14時55分、ご臨終です」


 米田は静かに言って、レイにお辞儀し、寝室を出た。

 レイは呆然として米田医師を見送り、父親に駆け寄った。

 跪いてそっと父の手を取ればまだ温かく、頬をなでれば目を開けそうな姿だったが、目も開けないし、握り返しても来ない。

 本当に死んだのだとようやく理解した。


「レイ……」


 藍野はそっと声をかけ、離れるよう促す。

 もう少しそばにいさせてやりたいが、状況的に警察へ通報も必要になる。

 その際、遺体も検死に回される。

 あまり触れれば証拠も消えてしまいかねない。


『……どうしてよ』


 促されるまま、藍野に支えられてよろよろと立ち上がり、俯いたままでぽつりとレイは言った。


「ねぇ、どうして父さんが死んだの!」


 激しい感情のせいか、いつもなら使い分けられているはずの言語がごちゃ混ぜで発せられ、支えていた手は払いのけられた。


 自力でレイは立ち、藍野に向き直ると『あなたは守ると言ったのに、父さんは死んだじゃない。嘘つき!!』と、激しい憎しみのこもった目で睨み付ける。


『返してよ……』


 言葉を発する度、睨んでいた目はどんどんと涙でいっぱいになり、遂には溢れてぱたぱたと零れ落ち、絨毯にしみを作る。


「父さんを返して!!」

『返してよ!!』


 嗚咽交じりで父を返せと繰り返し、それを黙って藍野は受け止めた。

 その姿は一生忘れられないものとして、紫藤と杜山の心に刻まれた。

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