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6.3_侵入2

 今日の紫藤はとてもやる気に満ち溢れていた。

 主任の一ノ瀬を差し置いて、藍野と杜山が戻る数時間だけだがリーダー役を任されたからだ。

 難案件だが数時間で戻るし、各案件で最低1度はリーダーを経験させるのが藍野の育成方針だった。


「紫藤、あんまり気負うなよ。なんかあったら一ノ瀬に相談、いいな?」


 方針とはいえ、自分が不在時であることに少々の心配を見せつつ、まるで我が子を初めて学校に送り出す気分で藍野は任せた。


「もう……わかってますよ、藍野先輩。ほら、レイさん出てきちゃいますよ!」


 早く行って下さいと紫藤に押し出され、藍野はレイを迎えて久しぶりの外出に同行した。


「もう……。藍野先輩は心配ばっかり。ボクそんなに頼りないかなぁ……」


 そりゃあ銃はまだ下手くそだけど、殴り合いなら自信あるのにと少々ヘコみつつ、藍野達の乗った車を見送った。


「ああ。あいつは初めて新人に任す時、いつもあんな感じや。将来ハゲるで」


 至極真面目な顔で腕組みをして、一ノ瀬は関西弁で藍野の頭髪の将来を心配した。


「ほら、紫藤リーダー。次の指示は?」


 小清水は紫藤をせっついた。

 紫藤は事前に藍野と相談して組んでおいた配置図通りに指示して、各員を配置し、自分は玄関側に陣取ってちょっぴりドヤ顔しつつ持ち場を巡回していた。


 ※ ※ ※


 藍野達が出発してから、それほど時間をおかずに訪問看護の女性、星野(ほしの)柚羽(ゆずは)が大きなバックを持って尋ねて来た。

 今日の星野は看護師のユニフォームに薄手のトレンチコートを羽織り、長い髪をふわふわしたお団子にまとめて、見てるだけで紫藤は癒やされる。


「おはようございます。紫藤さん。今日はこっちなんですね」

「おはようございます、星野さん。そうなんですよ。今開けますね」


 別に紫藤が開けなくても星野は鍵を預かっているし、センサーにも登録済みなのでわざわざ声をかけて開ける必要もないのだが、何とか仲良くなるきっかけが欲しい紫藤は先輩達の目を盗んではこっそりと挨拶を積み重ね、こうして他愛ない会話をするまでに至ったのだ。


 紫藤はちゃちゃっと鍵を取り出して、玄関を開けると「はい、どうぞ。博士の事、お願いします」と星野を通した。

「お任せください。いつもありがとうございます」


 ぺこりとひとつお辞儀をし、星野は靴を脱いで博士の寝室のある2階へ上がった。

 階段を上がる姿を見ながら玄関を閉めて、今日はツイてる日だと内心でニヤついた。


(やっぱカワイイなぁ。今度のお休み聞いて、そろそろデートとか誘っても平気かなぁ……)


 紫藤はほわんと二人で出かけている妄想をしてみた。

 アウトレットでのショッピングがいいか、王道の映画か、それともテーマパークか、野外フェスなんかもいい。

 どれにしても私服の星野が見られる、そんな妄想がいっぺんに覚めるような一報が無線に飛び込んできた。


「こちら上川、不審者……」

「同じく雨宮、……」

「えっ? 上川さん、雨宮さん。応答してください!!」


 ほぼ同時に無線が飛び込んだかと思えば、雑音がして無線が切れ、応答しなくなった。


「一ノ瀬さん、小清水さん、沖野さん、返事してください!!」


 紫藤は慌てて3人を呼んだが、3人も応答しなかった。


(えーと、えーと……。こんな時は状況と情報をつなげて推測する、と)


 紫藤はせわしなく考え始め、不審者という文言と他のメンバーが連絡できない状況に陥っていることだけは認識した。

 そしてここには病身で動けない博士と女性看護師とまだひよこな警護員の自分しかいない事に一瞬呆然としたが、数歩戻って玄関に入り鍵を掛けた。

 ドアスコープから確認しても、特に変わった様子はないのに、再度無線で呼びかけても誰一人応答しない。


(ど、ど、ど、どうしよう! 藍野先輩呼ぶ? それともエマージェンシー出す?)


 一瞬迷って、スマホを取り出す時間すら惜しかった紫藤は、エマージェンシーコールを選択し、コールサインを叫んだ。


『コールE、ID159243! こちら紫藤。至急応援願いますぅ!!!』


 紫藤の耳には機械応答で『ID159243、コールE受信確認しました』と返答が聞こえたと同時に、紫藤は靴を脱いであわてて二人の元へ駆け上がった。


 ※ ※ ※


 紫藤は博士の寝室をノックもなしに開けると、博士と星野は飛び込んできた紫藤に何事かと顔を見合わせた。


「白鳥博士、不審者が侵入しました。ここから退避します。星野さん、博士を移動させたいから手伝って!」


 星野はきょとんとした顔だったが、博士だけは事情を察したらしく、こう言った。


「いや、私は残るよ。奴らは私に用があるはずだからね。紫藤さんは星野さんを連れて逃げなさい」


 その方が君たちの時間稼ぎにもなるだろうと、博士は言った。


 星野は「ダメです、患者さんを放りだして逃げるなんてできません」と博士に返したが、博士は、


「星野さん、事情があって私は簡単に殺されないから心配することはない。早く行きなさい!!」と2人を急き立てた。


 紫藤はうなずいて了承すると「わかりました。星野さん、さあ行きましょう」と星野を促した。

 始めは嫌だと星野はごねていたが、二人の真剣な雰囲気の飲まれて折れ、ドアへ歩き出した。

 紫藤もほっとしてついていき、振り向きざま言った。


「白鳥博士、必ず助けに戻りますから、なるべく交渉を引き延ばして下さい」

「ああ、星野さんの事、頼むよ。紫藤さん」


 紫藤はそっとドアを閉め、星野を連れて1階のキッチンにある裏口に向かった。

 階下に降りれば玄関からガチャガチャと音がして、ドアを開けようとしている様子が伺えた。


「し……紫藤さん。あれ、入って来ちゃうんじゃ……」

「いいから、急いで!!」


 紫藤は星野の手を取り、まっすぐキッチンの裏口へ向かい、そっと耳をそばだてた。

 ドアスコープはないから人数を確認できないが、外から人の気配を感じられる。


(まずいな、でも星野さん一人なら何とか逃がせるかな)


 あまり迷っている時間はない。

 紫藤は星野を振り返った。


「星野さん。ボクが奴らを引き付けておくから、逃げて警察を呼んで欲しい」


 紫藤は内ポケットからスマホを取り出して、星野に手渡した。


「は、はい。やってみます……」


 星野は青い顔でコクコクとうなずき、ポケットにスマホを入れた。


「じゃ、行くよ!」


 紫藤はドアノブと鍵に手をかけ、両方を同時に開けた。

 急に開いたドアに激突した男が驚いてよろめいたところを、紫藤は男の腕を引っ張りこんで引き倒し、抑え込んだ。


「星野さん、行って!!」


 星野は条件反射のように裏口を抜けて走り出した。

 が、その足はすぐに止まり、じりじりと後ずさった。

 紫藤が異変を感じて顔を上げれば、もう一人の仲間がいて、その手には銃が握られていた。

 二人はおとなしく手を上げるしかなかった。

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