6.2_侵入1
そして次の日。
時刻は昼も近い頃、レイは予定通り短時間の勤務を終え、帰り道にリクエストのあったスーパーマーケットに寄って買い物を終えた時刻だった。
レイの護衛についていた藍野や杜山の無線へ、沢渡からの緊急連絡が入った。
「藍野さん大変です! たった今、紫藤からエマージェンシーコールが発せられました。至急、レイさん連れて社に戻ってください!」
「何だって!!」
連絡を聞いた藍野は声を荒げ、後ろについていた杜山は藍野に駆け寄った。
驚いた通行人の幾人かが何事かと振り返って藍野を見る。
その中にはレイも含まれていた。
「先輩……」
エマージェンシーって本当ですか? と目線だけで訴え、杜山はじっと藍野の指示を待った。
藍野は杜山に「至急、戻って現場のフォローと連絡。俺はレイさん社に送ったら行くから」と耳打ちした。
「了解しました。戻って確認、連絡します」
杜山も小さく復唱し、その場を離れた。
「レイさん、すみません。今からあなたを社にお連れします」
「急にどうしたんですか、一体?」
藍野の大声に驚きながら、レイは尋ねた。
「博士の護衛を任せていた者達から緊急連絡がありました」
藍野は今、護衛が襲われたこと、エマージェンシーコールという特殊な連絡方法が取られた事、博士の護衛チームと連絡が取れない事、レイ自身の安全のために社内にいてほしい等を簡単に話した。
話すうち、レイはみるみる青ざめた。
「襲われたって……ねぇ、待って。じゃあ今、父さんは?」
はっとして、レイはスマホを見た。
この時間はまだ訪問看護が来ている時間。
父親だけじゃない、看護師も巻き込んでしまっているかもしれないと恐怖に震え、藍野に尋ねた。
「わかりません。博士の護衛チームと携帯も無線も繋がりません。現在、社からフォローが入ってますので、そこからの連絡待ちです。こちらも杜山を見に行かせました」
「そんな……」
レイは絶句して立ち竦んだ。
「レイさんは社にいてください。私が送ります」
さあ、と藍野が背中を押す手を払いのけて、レイは言った。
「嫌よ! 家に帰る。父さんの無事を確認するまで、安心できない!」
ここからなら家までそれほどの距離はないし、横浜に行く方がよほど時間がかかる。
そう言っても藍野は首を縦に振らなかった。
「ダメです! あなたに何かあったら白鳥博士に申し訳が立ちません!!」
珍しく藍野は声を荒げた。
飛んで帰りたいのは藍野も一緒だ。
だが、携帯も無線も通じない環境で、滅多に使われないエマージェンシーを出すほどなのだ。
状況確認しないまま連れていくことなど到底できないと、じっとしたままのレイに言い聞かせるよう話し、「さあ、レイさん。我々も参りましょう。安全が確認されたら必ずお連れします」と藍野はレイを再度促して駐車場に向かった。
(一ノ瀬、小清水、紫藤、沖野、上川、雨宮。頼むから全員無事でいてくれよ……)
今日の警備担当メンバーを思いつつ、押し込むようにレイを乗せると、車を横浜にあるグループA棟に向けた。




