6.1_その日
藍野達の警護が始まって、もうすぐ3か月目を迎えようとしていた10月下旬。
レイは博士と二人、家族水入らずの時間を穏やかに過ごしていたが、最近の白鳥博士は日課だった散歩も庭を見ながらのお茶もせず、ベットにいる時間が増えた。
医者を呼ぶ頻度も増え、状態はゆっくりと確実に悪くなっており、いよいよ別れの日が近づいているのを誰もが感じていた。
レイもとうとう仕事を自宅勤務に切り替え、食品や日用品は通販やネットスーパーを頼り、時折家事サービスや訪問看護を頼み、一日の大半を父の側に寄り添って過ごしていた。
彼女は博士の前や護衛達の前では決して暗い顔を見せず、気丈に明るく振舞っていたが、1階のキッチンでこっそり泣いているのを、痛ましい思いで藍野は見ていた。
レイは自宅勤務でも、出社しなければ解決しない事もあり、そんな日は護衛チームの誰かしらがレイの送り迎えをしていた。
明日はそんな日で、ちょうど藍野が担当だった。
「レイさん、明日の出社は私が送ります。どこか寄りたい所などありませんか? お連れしますよ」
閉じこもってばかりでは、ふさぎ込みたくもなるだろう、せめて気晴らしになればと、藍野はダメ元で提案した。
「じゃあ、帰りにちょっとスーパー、行っていいかしら?」
レイは会社の帰り道から少し離れた、会員制のスーパーマーケットの名をあげた。
父の好きだったクラムチャウダーの材料とあるメーカーのクラッカーを買いに行きたいのだとレイは言った。
「もちろんです。では、手配しますね」
ほんの少し、笑顔を見せてくれたレイにつられて藍野も微笑んで、警護計画を書き換えた。




