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5.1_説得

 藍野は紅谷との通話を切ると、そのまま黒崎のアカウントに連絡を入れると、黒崎はすぐに応答した。


「お疲れ様。報告を聞こうか」

「はい。警護や送迎については二人とも私達には協力的ですし、近隣とトラブルになったと報告もありません。この警護体制で今後も進めます」

「わかった。報告書では接触が増えているようだが?」

「はい。予想はしていたので、マニュアル通り対応していますが、最近、客人達の質が変わりつつあるのを実感しています」


 藍野はここ最近の訪問者達が企業の一般人から、諜報員などのプロの多さに、対応人数の増員を求めたい旨を報告した。


「始めの想定よりだいぶ増やしてしまうので、この案件は完全に予算オーバーです。俺の分、紫藤や他の奴の2課の教育枠に振り替えてください。それなら予算達成できますので」


 藍野はそう言った。

 教育枠とは主に新人育成に使われる教育費で、2課で予算が別に計上してある。

 これを使い、高単価の藍野を半額にして、その分を新人の教育費として充てる方法だ。

 紫藤と杜山が行った詩織の警護も、本来なら杜山が入っただけで低ランクの予算オーバーだが、新人の紫藤の教育目的で、杜山を半額で投入した。

 これで見かけ上は杜山一人分が捻出できて、会計上、予算も達成できる。

 同じことを藍野でやれば、当初予算でギリギリ達成、評価も下がらない。


「いや、増員による予算超過は認める。通常通り増額請求を上げてくれ。博士達はグループの重要人物だ。金はかけても失敗はするな」


 成果を押さえられれば十分貢献できるはずだ、と言った。

 それよりな、と前置きして「客人の多さは情報流出もあるのではないか?」と黒崎は言った。


「そうでしょうか? クラッキングか我々の動向から推察されているだけでは?」


 痛いところを突かれたような顔をして、藍野は言い募った。


「お前は都合の悪い事には目を向けたがらないな。本当は気づいているんだろう?」


 誰かが故意に漏らしているのではないか?と言外に含みを持たせ、黒崎は言った。


「仲間を疑うなんて……悪趣味ですよ」


 藍野は目を伏せた。


「だが、このままにしておいて警護の隙をつかれて二人にまで被害を出してからでは遅い。この件は関係者に調査を入れる」

「承知致しました。調査は黒崎部長が?」


 内偵調査は藍野自身も関係者で調査対象となる。

 調査はプライベートも絡むから、大抵案件統括か部長が主導する。


「ああ。私が内偵を引き受ける。お前は引き続き、博士と娘の護衛を頼む」


 黒崎はタブレットに書きつけながら答えた。


「了解しました。引き続き護衛に当たります」


 報告を終えて通話を切ると、藍野はしばし車内で空中を見つめ、これから始まるであろう内偵調査の事を考えていた。


 ※ ※ ※


 藍野から報告を受けた黒崎は、早速彼らの案件に関わっていない4課と5課の者に尾行をさせ身辺調査を始めた。

 藍野を始め、案件に関わる彼らは追跡や尾行に対する対処法も知っているので躱されやすい。

 ましてや身内などすぐにわかってしまうから、自社の人間はあくまで囮で、外部の別会社にメンバーの尾行と調査を依頼してある。


 そちらで彼らの目を引いている間に、同時に彼らのスマホやPC、銀行口座、人間関係や不審な動きの人間が周りいるかどうかなどプライベートや各自の社用PCの通信状況等を洗い出す。

 合わせて各課のサーバーやPCのログ、削除データの復旧をさせてチェックし、怪しいログインや動きがないかも同時に確認していった。


 そんな風にチェックされ、いち早く潔白が証明された水谷は、黒崎から依頼を受け、各員の情報系の内偵調査を行っていた。

 いつもはオンラインで報告する水谷だが、今日は資料を持参して、部長室に来ていた。


「水谷、進捗は?」

「全体の8割程完了。沢渡主任や紅谷課長のPCに入り込むのが難物で、まだパスワードが解析できていません。その……」


 水谷は言い淀みながら、一枚のプリントした紙を黒崎に渡した。


「……紅谷課長の私物スマホの削除履歴から、不審なショートメッセージと番号を検出しました」


 黒崎は手渡されたプリントに目を落とした。

 番号はもう使われていないもので、メッセージはなく、隠し撮りのようなアングルで紅谷の家族の写真だけが送られていた。

 そのすぐ後、数件の公衆電話からの着信がある。

 いずれも数分の短い通話時間だ。

 紅谷の子供はまだ4歳だし、妻もスマホは個人所有している。

 基本、公衆電話で話すことはない。


「決まりだな。情報を流しているのは紅谷だ。調査は終了、紅谷を監視してくれ」


 表情も変えず、機械的に黒崎は言った。


「待ってください! 部長は紅谷課長が犯人だと思っているのですか?」

「紅谷の性格には合わないが、そうせざる得ない状況がこれだろうな……」


 黒崎はプリントされた写真を指し示した。


「人質ですか……酷いことをする」


 水谷は嘆息して、表情を曇らせた。

 これでは相談も助けの声も上げられないだろう。

 紅谷の心情を思うと、やるせない気持ちになった。


「水谷、頼みがある」


 黒崎の改まった声に、水谷の背筋が少しばかり伸びた。


「お前が香港へ行って紅谷の家族を直接調査してくれ。一体どこがそんなことをしているのか知りたい。可能なら家族と連絡手段の構築まで、やれるか?」

「もちろんです。至急香港で確認、連絡手段をを構築します」


 水谷は復唱すると、踵を返して4課に戻り、紅谷に本社へ出張になったと伝え、PCやタブレットなどの準備を始めた。


 ※ ※ ※


 黒崎は水谷を送り出すと、椅子に深く沈み込み、ため息をついた。


(何とか連絡をつけて家族ごとアメリカに移動させ、保護したいものだが……)


 できるだろうかと、写真を見て思った。

 黒崎はちらりと制服の襟についている社章を見た。

 HRF、|遠くに届く手《Hand Reaching Far》、社名の由来通り、何とか彼らを守ってやりたい。

 黒崎はデスクの受話器を取り、4課に内線をかけた。


「紅谷、話がある」


 紅谷から了承の返事をもらい、黒崎は電話を切った。

沢渡主任のコソコソ話

ゲーマー沢渡君、PCやタブレット、スマホは長くて複雑なパスワード使ってました。

しかもマシン事に好きな押しキャラや押し色で染め上げてます笑

(こっそり社内PCも!)

沢渡君、その推しキャラに寄せてパスワードを作る癖があり、しかも推しキャラが変わる頻度が早くて、ログインパスワードをよく変えていました。

忘れさえしなければ、ある意味安全で正しい方法です笑

おかげで水谷も解析中に変更されてしまい、とても苦労しました。

結局部長指示で調査は中止なので、実質沢渡君の勝利です。

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