■chapter1-7 「フェノール」
◇後書きにTopics
――数日後。
無事ネオンのベッドも届き、3人での生活にも慣れてきた頃。
「捻挫は良くなったみたいですね」
「あぁ、もう痛みも無いし良かったよ」
「……動かないように止めるのは大変だった気がするがな」
「ニトロ……いや、すまない。つい」
「えっと……ほら、クロムさんは、面倒見がいいからついつい体が動いちゃうんですよだからその……」
「悪化しては元も子も……いや、いいか。治ったならひとまずいいんだ」
「じゃあ珈琲でも入れて……」
ピンポーン
「誰だ? ここに人なんて来ないはずだ」
「ほぼほぼ隠居状態だからな」
ピンポーンピンポーンピンポーン
「凄く連打してるな」
「……ちょっと様子を見てくる」
「その……気をつけてくださいね」
「あぁ」
未だチャイムが鳴り続けている玄関に音を立てぬように近づく。
ドアチェーンを掛けてからそっと扉を開く。
「どちら様ですか」
「あっよかったーおらんのかと思った!……ってドアチェーン付けとるやんか……まぁそりゃ警戒もするかぁ」
「……えっと」
初対面……? のはずだがどこかで聞いたような声をしている。
「あっごめんごめん僕ばっか喋って……僕、こんなだけど一応警察、警視やからそこそこ偉いでー、名前はフェノールって言います」
「それ、見ず知らずの俺に話してもいいのか?」
「えっ見ず知らず……? あっそっか目は合ったけど喋ってはないし姿も見てないんか……」
目は合った……?
そういえばこの話し方、聞き覚えがある。
それに、警視と言っていた。
まさか……あの時は見逃してくれたようだが、信頼は出来ない。
「……悪いが、俺は警察に提供できる情報は持っていない」
ネオンが危険かもしれない、と考え扉を閉じようとするが手を差し込んで強引に扉をこじ開けてくる。
力が強いな……俺より年下に見えるのだが。
「まぁ待って待って、別に僕は"影"っぽい子に危害を加えようとは思ってないんやって、ただちょっと謝りたいのと、警察に追われることの危険性を話そうと思ってやな」
「……謝る? 警視であるお前がわざわざ?」
「いや……これ言うたらダメかもしれんけど、僕、警察嫌いやねん。特に親父」
「警察嫌い? ……警察なのに?」
「まぁ、ゆっくり話さん? このままやと詳しく話せんし……」
「……分かった」
ドアチェーンを外し、フェノールと名乗ったその人物を迎え入れる。
やはり俺より幼く見えるのだが……警視になる事が出来るほどの才能があるのだろうか?
見た目で決めつけるのは良くないからな。
「お邪魔しまーす」
「えっ、あ……その……」
「ん? 客か?」
ネオンを庇うように立ち、事情を説明する。
「……まぁ、大丈夫じゃねぇの? 勘だけど」
「ニトロの勘はよく当たるからな」
「〈能力〉は使わなくても大丈夫か……ネオンが拒否した時点でお帰りいただくからな」
「まぁ……うん、そうだな」
「警察……僕を追ってきた……?」
「ネオン、大丈夫だ……フェノール、警視……と呼んだ方がいいか?」
「いや呼び捨てで頼むわ」
椅子を引き、座るように促す。
すまんなー、という軽いお礼をしつつ着席したのを確認して俺も席に着いた。
ちなみにネオンは俺の隣に座らせている。
「フェノール、何故あの時俺たちを見逃した?」
「その子が追われる理由が無いと思ったから……というのが半分、あと半分は……警察が嫌いやからやな」
「警察が嫌い? 警察なのにか?」
「白衣の兄ちゃんと同じこと言うなぁ……警察はな、夜区域に対する差別が過ぎるんよ」
「……差別か。確かに色々言われたな」
「……夜区域に住んどるってだけでゴミだのクズだの……僕には理解出来んくてな、まぁ、この立場は利用価値が高いから仕事はちゃんとしとるけど」
「やっぱ仕事してんだな」
「失礼やな!? ……最近はグレイストリートでの連続殺人の調査で何人か出張しとるし、僕も色々調べたり……ってこの話はどうでもええんや」
「問題なのは囚人への扱い。……他の区域やとせいぜい牢屋に閉じ込めて生活を厳しく管理するだけに留まる。物理的に殴ることも貶す事もあんまりないな。模範囚であればある程度自由な行動もできる位やし」
「夜区域だと扱いが違う、という事か」
「そう、囚人への拷問はしょっちゅうあるし、暇な職員のサンドバッグにされる事もある。僕ですら噂を聞いただけなんやけど……どこかにある工場に何かの実験台として連れていかれて二度と帰ってこん……なんて話もある」
「僕の親父は警視総監……つまり、警察の中でも1番偉い人なんやけど、差別意識が特に酷くてな、僕はそういうのは嫌いやから陰でこうやって好きなようにやってるんやけど」
「バレたら不味いんじゃねえの? 今ここにいることとか」
「いやーバレたら自主的に見回りと聞き取りをしてただけってとぼけるつもりやから大丈夫」
「……大丈夫なのか……?」
「大丈夫、こう見えて僕、仕事は出来るから僕を失うのはかえって面倒事になる……って考えてもらえるはずやから!」
「……まぁ、本人がそういうならいいか」
「あ、そう……ここからが本題」
「まだ本題じゃなかったのか」
「まぁまぁ、……えっと……ネオンくん、で合ってる?」
「ひっ……僕、ですか?」
「ちょっと"フェノール警視"として話すよ? あの時、うちの部下のせいで怖い目に合ったんやろ? ……本当に申し訳ない、この通り! ……許して欲しいとは思ってない。でも、もう同じような目に合うことは無いと思うから、安心して欲しい」
立ち上がったかと思うと、ネオンに向かって土下座をしていた。
突然の事で俺もネオンも、ニトロまで困惑している。
「えっと……え? あの……顔、上げてください」
ネオンに促されて漸く顔を上げた。
変わらず正座はしたまま。
カーペットがあるとはいえ足が痺れそうだ。
「警視さんの土下座なんてそうそうないぞ」
「……同じような目に合うことはない? 何か手を打ったのか?」
「うん。もし同じような特徴を持つものがいたなら非常に危険なので絶対に、"絶対"に近寄らず、気付かれないように僕に連絡をする事。連絡をしなかった場合、その事が分かり次第罰を与える、と僕の部下全員に通達した」
「お父さんが警視総監なんだろ? 気付かれないのか?」
「お父さん……やとは思ってないけどな……警視総監様は区域①の偉い人達との対応が殆どやから、その仕事の殆どを部下に……僕に任せ切りにしとるんよ」
「お前は警視なんだろ? 他に任せられるような……もっと上の役職の人とか」
「息子なだけあって色々と楽なんやろね……いざとなったら切り捨てる腹積もりやろうとは思っとるけど、まぁ使える物は全部使ってその子守るよ! 守る、ってよりは隠蔽かな」
「……そうか」
「あっあの……その……床はその、汚れてますから……立ってください」
「……ええんか?」
「確かに怖かったですけど……クロムさんやニトロさんに出会えたので、いいんです」
「おたく、人生2回目? ってくらい人柄がええな……ありがとう」
「ネオンもこう言ってるし、椅子に座ったらどうだ?」
「せやなー、って痛っ……足痺れた……」
「あ、やっぱり……大丈夫か? って足つった!痛……」
「クロムさん……何もしてないのに……なんと言うか、流石です」
「ここ数日大人しいと思っていたが突然くるなぁ」
「何もしてないのにつることってあるんやなぁ」
ちょっと足を引き摺りつつ椅子に座ったフェノールにまでからかわれてしまった。
いや、何もしてないんだよな……本当に。
「それじゃ、僕は時々こっちに来て情報共有するわ……後これ、連絡先交換しとこ」
「ん、そうだな」
「待ってそういえば僕、ネオンくん以外の名前把握してない」
「あれっそうだったか?」
「そういえば名乗ってないな」
「俺はクロム。能力は……簡単に言えば感情操作だな」
「俺様の名前はニトロ。能力は洗脳、とだけ言っておこう」
「えっと、僕はネオン、です。もう知ってますよね……能力はまだ、自分でも分かってないです」
「そういえばまだ分かってないな……近いうち色々試してみるか」
「改めて僕はフェノール。一応警察本部の警視やってるよ。能力は拘束……って感じかなぁ……鞭みたいなんを操って相手を雁字搦めに出来るで」
「へぇ、犯罪者を捕まえるのに適してるな」
「おかげで警視なのに見回りさせられたりするよ……まぁ好都合やけどな」
「それで数日前も外にいたのか」
「そうそう! 偶然やったけど何とかなってよかった」
「それじゃ、昼飯でも食ってくか?」
「おっええの? ちょうどお腹減ってきててな」
「捻挫も治ったし、俺が作るよ」
「えっ大丈夫ですか……?」
「いや流石に大丈夫だろう」
……この後、見事に不慮の事故で火傷し結局ニトロが作る事になる上、不幸体質である事をフェノールに知られて散々からかわれる事になる。
まぁ、立場的にも心強い人物が味方になった、と考えておこうか……。
◇Topics◇
【フェノール】
5つの区域における警察全体のトップである
警視総監の息子。
夜区域に対して差別的な両親を嫌っている。
警察としての才能は秀でており、若いながらも
特別に警視の階級を与えられている。
【警察】
各区域に支部があり、本部は
区域⑤【レッドゾーン】に設置されている。
細かい動き方は各支部長に任せてある。




