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作者: SATO(さと)

【第一話 土御門株式会社】


西暦2028年11月


都内の大学に通う俺、本郷ほんごう さとしはかなり焦っていた。


不採用通知


就職活動がこれほど大変だとは思わなかった。今までに足を運んだ企業は30社以上。最終面接まで残った企業は一つだけだ。その最後の希望であるN社から届いたメールを見て俺は溜息を吐いた。


(はぁ………。これ……かなり不味くね?)


身長174cm、平凡な顔に平凡な体格。大学のレベルは中の中。高校時代は野球部に加入していたがレギュラーになった事は一度も無い。自慢出来る事と言えば可愛い妹が一人………。


(いや、これは妹の自慢であって、俺の自慢では無いか………。)


とにかく何の取り柄もない平凡な大学生、さとしにとって人生最大のピンチが訪れようとしていた。


(ちっ!一から就活のやり直しかよ………。)


カチカチ


聡はパソコンの画像をクリックし、社員を募集している掲示板を次々と開いて行った。


(………!)


社員急募!!

最低年収1000万円保証!!

希望者全員採用!!


「なんだ……こりゃ?」


思わず独り言が口から溢れた。年収保証に全員採用など破格の条件だ。


会社名は『土御門株式会社』


(つちみかど?………聞いた事も無い会社名だな。)


仕事内容『簡単な霊媒など』


霊媒れいばい………嘘くせぇ………。)


ようするにアレだ。死者を降臨させたり、お祓いしたと嘘を付いて庶民を騙すアコギな商売。一言で言えば詐欺。それなら高年収って言うのも頷ける。


(ふん。誰がこんな会社に務めるかって言うんだ!)


「他を探そう………。」


聡はカチカチとパソコンをクリックする。




2時間後


『土御門株式会社』


聡は事務所の前に立っていた。

別に年収に目を奪われた訳でも、他に就職先が無いから焦っていた訳ではない。


(単なる興味本位さ。)


聡は心の中で自分に言い聞かせる。


事務所の場所は東京都心の一等地。

辺りを見渡せば超高層ビルが立ち並び、その間に挟まれるようにして小さな建物がポツンと建っている。建物の一階は空き家らしく、聡は二階へ続く階段を昇る。


随分と古びた建物は、構造こそコンリート造りであるが、壁のアチコチに亀裂が入り地震が来たら崩れそうな勢いだ。今日は晴天だと言うのに窓から見える空は心なしか赤暗く見える。


ピンポーン


ようやく二階に辿り着いた聡は、事務所のインターホンを恐る恐る押してみた。


……………。


反応が無い。


(何だよ………誰も居ないのかよ……。)


内心ほっとした自分がいた。やはり詐欺のような怪しい商売は良心に反する。帰ってもう一度、就活サイトでもあたってみよう。聡がそう思った時………。


「やぁ、いらっしゃい。」


「!!」


後ろから声が掛けられた。階段から俺の後を付けていたのか、しかし足音は聞こえなかった。


慌てて振り向いた俺のすぐ前に立っていたのは派手な金髪の30歳前後の男だった。


「お客さん……の訳が無いよね。となると就職希望者か。まぁ、入ってくれたまえ。インスタントコーヒーで良いかな?」


何とも怪しい男だ。


男の名は土御門つちみかど 健太郎けんたろう。土御門株式会社の社長であり会社の創業者だ。土御門は大学を卒業しすぐに会社を起業したと言う。


「まずは、こちらの書類にサインを頼もうか。履歴書代わりだと思って貰えれば良い。」


「ほぉ、本郷ほんごう さとし君か……良い名前だ。この職業は名前が大事だからね。」


シュボッ!


土御門がタバコの先端に火を付けた。


(あれ?今、どうやって火を付けたんだ?)


ライターを取る素振りは見られなかった。マッチなんてモノも見当たらない。


「それにしても嬉しいねぇ。開業して6年経つけど、就職希望者は君で二人目だ。」


「いや、まだ就職を決めた訳じゃ………。」


「そうなの?うん、まぁ体験して見ないと分からないよね。」


土御門はそんな事を言いながら嬉しそうにタバコの煙を吐いた。


「体験………ですか?」


俺は質問する。就活サイトで見た仕事内容は霊媒など、素人の俺が霊媒など出来るはずがない。体験なんて何をやらせようと言うのだろうか。


「大切なのは素質なんだよ。」


土御門は言う。


「経験とか知識とか、そんなものは素質の前ではゴミに等しい。いやゴミは言い過ぎか………。経験は積めば良い。知識は覚えたら良い。しかし………。」


土御門は断言する。


「君には素質がある。それもとびきりの素質だ。君はこの職業に向いている。」


何でそんな事が分かるのか。初めて会った男に素質と言われても嬉しくも何ともない。


「まぁ良いさ。それより体験だったね。そろそろ白音しらね君が帰って来る。彼女に同行したら良い。」


「シラネ?」


白音しらね りん。うちのエース、稼ぎ頭さ。彼女に任せれば大抵の仕事は解決する。今日はもう一件仕事があってね。」


バタン


「ただいま………。」


帰って来た。


「へ……?子供?」


事務所の入口から入って来たのは子供だった。年齢は15歳くらいだろうか。真っ黒な長髪は地面に付きそうなほど長い。顔立ちは整っているが、まだあどけなさが残る。


「彼女は由緒正しい巫女の家系さ。子供なのは当然だね。何せ巫女ってのは処女じゃなきゃ務まらない。大人になれば力が失われるって言うから……。」


シャキーン!


ビクッ!


りんが握っていたのは真紅の短剣。その刃が容赦なく土御門の喉へ突き付けられた。


「変な事を言うな。凛を子供扱いするなと何度も言っている。私はもう高校一年生だ。」


「いや、すまんすまん。その短剣は洒落にならない。ちょっと避かして貰える?」


「ふん………。」


(…………何なんだこの会社は………。)


本郷ほんごう さとしは、二人のやり取りを呆然と眺めていた。






本日の仕事は、病に掛かっている大病院の理事長の娘を助ける事だ。


「は?何だって医者の娘を助ける必要があるんだ?病気なら自分の所の病院で治せば良いだろ?」


「お前はアホなの?医者では治せないから私が呼ばれたのよ。」


白音と言う少女は何とも生意気な女だった。


現代医学では治せない未知の病は想像以上に存在する。なにせ原因が分からない。大抵の医者は原因不明の病気をストレスとして片付ける。処方される薬は精神安定剤が関の山だろう。


それで回復するなら問題はない。しかし、未知の病で命を落とす患者は後を絶たない。


その病気の原因の多くは『悪霊』だと言う。


「凛は悪霊を祓うスペシャリスト。黙って見ていなさい。」


「悪霊ねぇ…………。」


ギロリ


「うっ!すみません………。」


子供のくせに妙に迫力がありやがる。巫女って言うのはもっとおしとやかで清純なイメージなのだが、白音しらね りんはクソ生意気なガキだった。


聡は隣を歩く凛をチラリと見た。


(しゃべらなければ、まぁ可愛くない事も無いのだが………。)


目的の病院は、それほど遠くない都内の総合病院だ。凛が言うには、人出が不足している為に近場の仕事を優先して引き受けているらしい。まぁ当然だ。


逆に言えば、土御門株式会社へ依頼される仕事は山のようにある。依頼主は大企業の社長であったり代議士の先生であったり、病院の先生だったり。とにかく仕事には事欠かない。


「凛が引き受ける仕事はそうね……。成功報酬は最低でも1000万円。」


「いっ!1000万円!?」


「何を驚いてるのよ。人の命が掛かっているのだから当たり前でしょ。1000万でも安いものだわ。」


(詐欺だ…………。)


やはり、こいつら悪徳業者だ。だいたい悪霊なんてものは存在しない。金持ちから金を騙し取る詐欺師。こんな会社に長くは居られない。体験が終わったら退散しよう。


そう心に決めた聡が病室のドアを開けた。


ドン!


「!」


重苦しい空気が聡の身体を締め付けるようにのしかかった。ベッドの側で娘に寄り添うのは患者の母親だろう。少し離れた椅子に腰を下ろしているのは依頼人である父親か。


「失礼します。土御門株式会社の霊媒師『白音しらね りん』です。」


「おぉ!来てくれたのか。有り難い!」


椅子から立ち上がり、手を差し出すのは患者の父親、この病院の理事長にして医者。仕事の依頼主である。


「まずは患者の顔を見たい。」


凛は無愛想に告げると、ベッドの側へと歩み寄った。患者である娘の顔色からは生気が感じられない。やせ細った身体は見ているだけでも悲壮感が漂う。


(うわ………。こんなの助けられるのか?)


聡は思わず目を背けた。病気の事は詳しく無いが、不味い状態だと言う事は分かる。もはや食事も喉を通らないのであろう。


「私の診察では持って3日。しかし原因が分からないのです。処方の仕様が無い。」


父親の言葉は実に悲しげであった。


凛はじっと患者である少女を見ていた。時に目を細め、軽く頭を傾げる。


(おい、どうするんだよ。こんなの治せる訳がない。早く謝って退散しようぜ……。)


(黙ってて………。気が散るわ。)


(…………。)


凛の表情は真剣そのもの。とても詐欺師には見えない。カチコチと時計の音がやけに耳に響く。


「時にお父様………。」


凛がようやく口を開いた。


「大変でしたね。奥様が亡くなられて、今度は娘さんまでこんな状況で……。」 


(!?)


「おい!白音!何を言っている!奥様はここに!失礼にも………。」


「はい。しかし、なぜ妻が亡くなったのをご存知なのでしょう?」


「!?」


ドン!


病室の空気が一層の重みを増した。


さとし。そこを動かない方が良いわ。動けば呪い殺されるわ。」


ゾクゾク


悪寒が走った。


「霊感が強過ぎると言うのも厄介ね。普通の人間には見えない少女の母親が貴方にはハッキリ見える。だから、何の警戒も無く母親の近くに立っている。」


「は?」


聡は凛の言葉の意味が理解出来ない。それではまるで、俺の隣に居る少女の母親が幽霊みたいじゃないか。


「地縛霊の一種よ………。彼女の場合は土地ではなく人間に取り付く幽霊。娘さんの事が心配で成仏出来なかったのでしょう。」


幽霊?


まさか

 

(どこからどう見ても普通の人間に見える。現に父親にだって見えているはず………。)


すると少女の父親が、驚いた表情で凛に告げる。


「母親………。加奈子か?加奈子がここに居るのですか?」


少女の母親の名前は加奈子と言った。看護師でもある加奈子は医者の妻としてよく働いた。一人娘の少女の事を溺愛し、とても仲の良い家族であった。不幸が起きたのは半年前だ。不慮の事故で加奈子さんが病院へ運ばれた時には既に命を失っていたと言う。運ばれた病院はこの病院………。


「うわぁあぁぁ!!」


あまりの出来事に俺は叫び声をあげた。


「うわ!お化けって、おい!近寄るな!」


「ちっ!馬鹿者が!」


凛が動き出すより早く、少女の母親『加奈子』が動いた。その動きは意外なほど早い。華奢な両手を伸ばした加奈子は聡の首をグイッと締め付ける。


「なっ!?」


(何て力だ………。)


聡は必死で加奈子の腕を振り払おうとするが、聡の腕力では振りほどけない。


「ぐほっ………。」


「霊の力は意思の強さ『思念』によって決まる。腕力では振りほどけないわ。」


「し……ねん……?」


「本当は説得する予定だったけど仕方がないわね。」


ブワッ!


凛は羽織っていた上着を脱ぎ捨て、全身を覆う真っ白な衣装が現れた。巫女装束だ。


「神具『紅桜べにざくら』!」


取り出された真っ赤な短剣は、土御門の野郎が洒落にならないとか言っていた真紅の短剣だ。


「千本桜!」


ブワッ!!


透き通る凛の声が技の名前を叫ぶと同時に室内に桜吹雪が舞い上がる。


「ぐ!ぎゃわぁぁぁあぁぁ!!」


ズバズバズバズバズバズバズバズバッ!!


それは一瞬であった。『加奈子』の全身が切り裂かれ全身からドス黒い血が噴き出した。


(安心なさい。この状況は霊感の無い父親には見えていません。もちろん娘さんにも………。)


凛は耳元でそっと呟くと今度は真っ白い札を取り出す。


「お父様。これから加奈子さんを成仏させます。動かないで下さい。」


「は!はい!」


もはや、15歳の少女とは思えない気迫。


「元柱固具、八隅八気、五陽五神、陽動二衝厳神、害気を攘払し、四柱神を鎮護し、五神開衢、悪鬼を逐い、奇動霊光四隅に衝徹し、元柱固具、安鎮を得んことを、慎みて五陽霊神に願い奉る!」


足元まで伸びる黒髪がゆらりと空へ浮び上がる。


ビカッ!


同時に真っ白い札が光り輝いた。


(「白音しらね りん。うちのエース、稼ぎ頭さ。彼女に任せれば大抵の仕事は解決する。」って何者だよこのガキ!!)


シュン!!


すると、加奈子であった霊は真っ白い札に吸い込まれ、跡形もなく姿を消し去った。


「…………。」


しばしの沈黙。目に見えている俺でさえ何が起きたのか理解出来ないのに、何も見えない父親が呆然としているのも無理は無い。


「あの…………。」


「無事に成仏出来ました。娘さんも次第に回復するでしょう。」


「ほ、本当ですか。ありがとうございます!」


「支払いはこちらの口座へお願いします。3日以内に入金が確認出来ない場合は娘さんの命の保証は出来ません。」


(おい………それは脅しだ。)






聡の職場体験とやらは終わった。既に日が暮れて月明かりの中、聡は凛と共に事務所へ向かう。


「なぁ、お前…………。」


「………………。」


「なぁって、聞こえてんだろ?」


「お前では有りません。私の名は白音しらね りん。白音さんと呼びなさい。」


「年下相手にさん付けで呼べるかよ。」


「…………。」


「なぁ、凛………。」


「いきなり下の名前で?しかも呼び捨て?失礼ね。」


「お前だって、俺の事を呼び捨てにしてたじゃねぇか。」


「……………。で、何の用よ。」


聞きたい事は山ほどある。霊の存在。真紅の短剣。変な術式。今回の報酬のこと。しかし聡が一番聞きたかったのは他でも無い。


「凛、お前まだ高校生だろ?何でこんな仕事をしてるんだ?」


巫女の家系だと言うのは聞いた。しかし、未成年の子供がやる仕事じゃあない。凄腕なのは認めるが危険な仕事だ。聡は改めて加奈子の霊の姿を思い出してゾッとする。最初は普通の人間のように見えたがアレは違う。聡の首を締め付けた加奈子の顔は明らかに化け物だった。


「契約よ。」


凛はボソリと呟く。


「霊の魂を100体集めて土御門社長に渡すのが私と社長との契約。」


「魂?どう言う事だ?」


「成仏させたなんて嘘よ。さっきのは霊の魂を呪符に封印しただけ。成仏させるのは社長の仕事なの。」


「ふぅん。何か面倒なのな。で、今までに何体集めたんだ?」


「…………。変な事を聞くわね?そんな事、聡には関係無いでしょ。」


「ん………。まぁね。俺には関係ない。俺はこんな会社はまっぴらゴメンだね。」


「…………。入社しないの?」


「当たり前だろ。」


俺の名前は本郷ほんごう さとし。どこにでも居る平凡な大学生だ。確かに就活には苦戦しているが、お化けを相手にする商売なんぞ、やってられるか。


「まぁ、最初は詐欺みたいなアコギな会社だと思ったが、、、詐欺では無かったみたいだな。」


「……………。当たり前よ。」




事務所に着いた俺達を出迎えたのは土御門社長だ。金髪野郎は嬉しそうに凛から呪符を受け取ると俺の顔をチラリと見た。


「ご苦労だったね、本郷君。職場体験はどうだったかな?」


「職場体験?冗談じゃない、死ぬ所でしたよ。」


「ほぉ………。白音君に助けられたか。まぁ気にする事は無い。最初は誰でもこんなものさ。」


「最初は?…………悪いが俺は入社しない。」


詐欺では無かった。しかし入社するかどうは別問題だ。


「いや、でもさ。」


土御門は話を続ける。


「言ったろう?君には才能がある。」


「才能って、今日初めて会った俺の才能なんて何で分かるんですか。」


「分かるさ。」


「?」


土御門は楽しそうに話を続ける。


「本郷君。君はこの事務所に辿り着いた。言ったろう?開業して6年。この事務所を見つける事が出来たのは君で二人目だと。白音君と本郷君の二人だけ。それ以外の人間は、この事務所を見つける事すら出来なかった。」


「…………?」


「結界を貼ってあるのさ。普通の人間にはこの事務所は見えないんだよ。特に霊感の強い特殊な人間のみが辿り着ける事務所、それがこの土御門株式会社なのさ。」


「な…………。」


窓から見た空が赤かったのは結界に遮られていたからか。しかし………。


「霊感が強いって言われても、とにかく俺は入社しない。他をあたってくれ。」


「ほぉ………。」


それでも土御門の余裕の笑みは消えない。


「でもさぁほら。契約って大事じゃない。」


「契約?」


凛も言っていた契約。確か土御門社長と契約したって。


「俺は入社の契約なんてしませんよ。」


「うん、そうだね。でもさ………。」


土御門はヒラリと一枚の紙を広げて見せた。あれは確か履歴書の代わりとか何とか言って俺に名前を書かせた……。


「さっき署名したじゃない。『魂の契約』」


「は?」


「君は100体の霊魂を集めて来ないと、長生き出来ないよ。これは魂を捧げる契約なのさ。」


「おい!ちょっと待て!!そんな契約した記憶なんて!!」


「ダメだよ本郷君。書類にはちゃんと目を通さなきゃ。ねぇ、白音君。」


「貴方、ロクな死に方しないわ。」


「……………。」


(詐欺じゃねぇか………。)




西暦2028年11月


どうやら俺は悪質な詐欺師に引っ掛かったらしい。





【第二話 白音 凛】


西暦2029 年2 月


「元柱固具、八隅八気、五陽五神、陽動二衝厳神、害気を攘払し、四柱神を鎮護し、五神開衢、悪鬼を逐い、奇動霊光四隅に衝徹し、元柱固具、安鎮を得んことを、慎みて五陽霊神に願い奉る!」


ブワッ!


静寂の中で響く白音しらね りんの声に力がこもる。相も変わらず15歳の少女とは思えない気迫だ。


さとし!何をしている!早く呪符を!」


「わかってらぁ!」


俺は凛に言われるがままに呪符を取り出し、抜け出した霊魂に向かって走り出した。


「ぬぉおぉぉぉぉ!!」


ブシュッ!


シュウ…………。


魂の塊が真っ白い呪符へ吸い込まれて行く。これにて今日の仕事は完了だ。


「随分と慣れて来たようね。もう一人でも大丈夫ね。」


白音しらね りんは、何とも言えない笑顔でそう告げる。俺と凛が出逢ったのは3ヶ月前、土御門株式会社なる怪しい会社に足を運んだのがキッカケだった。


二人は社長である土御門つちみかど 健太郎けんたろうに騙され霊魂を100体集める仕事を請け負わされている。


凛は不思議な少女だった。初めて出逢った時は胸くそ悪い生意気なガキだと思っていたが、一緒に仕事をこなすうちに聡の評価は変わっていた。凛には気高い強さがある。巫女と言う職業は、聡にはよく分からないのだが、凛はその職業が故に想像以上の苦労を経験している。


そして、何より凛は優しかった。


乱暴な口調や厳しい態度の奥に見え隠れする優しさを、聡は何度も経験した。そんな凛に、聡はいつしか惹かれていた。


地面にまでも届きそうな真っ黒な長髪を左手で払い凛はくるりと俺の方を見た。


ドキッとした。


顔立ちが整っているのは最初から分かっていたが、よく見ると凛はかなりの美形だ。土御門の野郎に騙され、こんな会社で働く俺にとって、凛は唯一の希望と言える。


そして凛は、もぞもぞと巫女装束の懐に手を入れる。


(何だ………?)


次の瞬間、凛は懐から真っ赤な札を取り出した。


「これを持ちなさい………。」


赤色に染まった札。


「これは?」


俺の質問に凛が答える。


「『護符』よ。しかも特別性。私の血液を染み込ませてあるから、低級の悪霊なら近寄る事も出来ないでしょう。」


「血……………処女の血。」


ボコッ!


殴られた。


「馬鹿な事を言ってんじゃないわよ。凛はそろそろ退職するから貴方を助ける事が出来なくなる。その代わりよ。」


「え?退職………?」


凛が集めた魂は既に90体を越えている。100体集めた段階で『魂の契約』は終了する。つまり凛が土御門株式会社に在籍する理由は無くなるのだ。


「そっか。残念だな………。」 


俺は素直に思った事を口にする。


「なによ………。」


凛は少し照れたように顔を背けた。


「とにかくその『護符』を肌身離さず持っていなさい。死にたくなければね。」


この日の東京の空気は、冴えるほど美しく感じた。





本郷ほんごう さとしは平凡な大学四年生だ。友達は既に就職先を決めて卒業を待つばかり。四年生の三学期、卒業間際となれば授業はほぼ無い。学校へ来ても仲の良い友達とダベって時間を潰すのが最近の日課だった。


「聞いたか聡。純のやつIT大手の『未来産業』へ就職するらしいぜ。」


「へぇ……。」


「すげぇよな。あそこの会社、スーパーコンピュータで世界最速の演算を誇っているって話だ。これからはAIの時代だ。近い将来、AIが人類を支配するって話もまんざらじゃないぜ。」


「あぁ、すげぇな。」


人の気も知らないで友達は笑顔で話し掛けて来る。


(こっちはAIどころか、悪霊退治の毎日だ。)


21世紀にもなって、霊魂が存在するなど信じる者はそうは居ない。信じていたとしても口に出す者は居ない。なにせ普通の人間には霊魂は見えないのだから。


「よぉ聡、これから皆でカラオケにでも行かね?」


呑気に話し掛ける友達に俺は答える。


「わりぃ、今日もバイトだ。」


「バイトってまたかよ。何のバイトをしてるんだ?」


(悪霊退治なんて言えるかよ。)


「たいしたバイトじゃねぇよ。」


俺はそう言って大学を後にする。


この日の午後は、今にも雨が降りそうな嫌な天気だった。今日から聡は一人で行動をする事になっている。いつまでも凛に頼ってはいられない。


(凛とも、そろそろお別れか………。)


そんな事を考えながら、一人虚ろな表情で都心にある土御門株式会社へ向かう途中、聡は強い気配を感じ取った。


ゾクゾク


「!?」 


(悪霊?)


霊感の強い聡であるが、特にここ数ヶ月はその感度が高まっている。土御門株式会社と関わるようになってからだ。


(どこだ!)


きょろきょろと辺りを見回した聡は、すぐに気配の正体を突き止めた。


子供だ。子供の背後に悪霊が取り憑いている。距離にして数十メートル。


(どうする?)


聡は自問自答する。凛に貰った呪符を貼り付ければ悪霊を退治出来る。しかしこれは仕事じゃない。一円にもならない悪霊退治をして何の得がある。


(いや、得はある………。)


霊魂を100体集めれば俺は解放される。しかし、一人で悪霊に立ち向かった事の無い聡は判断に迷う。


悪霊退治の方法は凛から教わっている。悪霊退治で一番難しいのは人体に取り憑く悪霊を人体から追い払う事。しかし、今回の悪霊は既に独立した姿で具現化している。


「本郷君、素質は大事だよ。君にはその素質がある。」


土御門の言葉が頭を過ぎる。


「呪符に念を込めて貼り付ければ良いのよ。霊感の強い聡なら出来るわ。私が保証する。」


凛は微笑みながらそう告げた。


何より今の俺には凛から貰った真っ赤な護符がある。たいていの悪霊であれば、聡には手出し出来ない。護符の加護があるからだ。


(よし………。助けるか………。)


そう思った矢先に大型トラックが目に飛び込んで来た。


キキィ!!


子供が轢かれる。


(間に合わない!)


損得の問題じゃない。これは子供を助けるかどうかの問題だ。聡が迷ったせいで、子供がトラックに轢かれる事を防ぐ事が出来ない。


正確には子供が轢かれるのは聡のせいではない。悪霊が見えているだけで、聡は何も悪くない。しかし聡の良心が心を酷く締め付ける。こんな時、凛がいれば素早い動きで子供を助けたに違いない。


(ごめん!)


心の中で子供に謝罪をした時。


ブンッ!


子供の目の前に人影が現れた。


「!」


(凛!)


一瞬、凛かと思った。遠目で顔は見えないが背丈は凛と似たようなもの。若い少女だ。


少女はまるでサーカスの曲芸師のような身軽さで子供を抱えて空を舞った。数秒後に大型トラックが何事も無かったかのように通り過ぎて行く。


間一髪助かった。


慌てて駆け付けた聡は大丈夫かと声を掛ける。


ゾクゾク


悪霊だ。


まだ終わっていない。


子供を轢き殺す事に失敗した悪霊の悪意が、今度は少女に向けられている。


(不味い!)


聡は直感する。少女には悪霊が見えない。このまま放置すれば今度は少女が狙われる。悪霊の悪意が巨大な黒い塊となり膨れ上がる。


「危ない!!」


聡が叫ぶのとほぼ同時であった。


「エナジークラッシュ!」


「!」


少女が叫ぶと同時に、右手に握られた拳銃のようなものから勢い良く光線が放たれた。


バシュ!!


「な!!?」


シュンと言う音と共に悪霊は一瞬で消滅する。これは呪符を張った時の効力と似ているが、霊魂を吸い込んだと言うより完全に消滅させたと言う感覚に近い。


「な、な、な、??」


言葉が出ない俺の方へと向き直った少女は、顔の上半分を覆う半透明のマスクを外した。


凛より少し大人びた少女。


しかし、その格好は少しおかしい。半透明のマスクもそうだが、全身を覆う青いボディスーツはピタリと身体に張り付いておりさながら競泳水着のようだ。


あわあわと慌てふためいている俺より早く少女が俺に声を掛けた。


「あなた………。今のエナジーソウルが見えていたの?ソウルカウンターも無しに?」


「へ?エナジー?ソウル?」


「あぁ、ここでは霊魂と呼ぶのかしら。私が装着しているマスクがソウルカウンターよ。」


もう何を言っているのか分からない。


「しかし、エナジーソウルが見えるなんて凄いわね。私の名前はイヴ。よろしくね。」


そう言って得体の知れない少女は右手を差し出した。



土御門株式会社


古びた二階建ての建物の前で、イヴと名乗った少女は目をパチクリさせていた。


「結界………?」


「あぁ、この建物は普通の人には見えないんだ。」


「確かに………。」


そう言ってイヴはソウルカウンターなるものを上げ下げして確かめる。


「カウンター越しでしか建物は映らないようね。不思議だわ。」


「まぁ、俺に言わせれば、そのカウンターとやらの方が不思議な道具だ。」


彼女は何者なのか?容姿は日本人に見えるがイヴと言う名前から判断するにハーフだろうか?トラックに轢かれそうな子供を助けた事から察するに悪い人間には見えない。


聡は横目でイヴの顔を見る。


(なんとなく凛に似てるんだよな………。)


聡がイヴを土御門株式会社へ連れて来た理由は単純だ。普通の人間には霊魂を見る事が出来ない。しかし、イヴはソウルカウンターとやらで霊魂を見る事が出来る。戦力になるかもしれない。


「この建物の二階だよ。俺の職場は。」


そう言って階段を登ろうとする聡の服をイヴは摘んだ。


「私、やっぱり帰るわ。私がここ東京に来た理由は人探し。他の事に構っている暇は無いの。」


「………そっか。」


そう言われて引き留める理由は無い。


「人探しか………。見つかるといいね。」


「ありがとう。」


そんな取り留めもない会話をした後にイヴは去って行った。




「これは少し厄介だね………。」


事務所に入ると土御門の声が耳に入る。部屋の中には土御門と凛の二人が揃ってテレビのニュースを見ていた。


「あら?聡、遅かったわね。」


「ん?あぁ、ちょっと寄り道してた。」


「そう………。」


素っ気ない会話をした後に俺もテレビのニュースに目をやった。


「土御門さん、厄介って何の事ですか?」


そう質問する俺に土御門は答える。


「本郷君、このニュースを見てごらんよ。上野公園の近くの団地なんだけどね。既に7人の死体が見つかっているらしい。」


「7人?」


「そのうちの一人は警官だ。近くの交番から駆け付けて殺されたんだね。」


(警官まで………。)


それは尋常じゃない。


「連続通り魔ってやつですか?」


土御門は首を振る。


「目立った外傷は無いそうだ。死因は心臓麻痺と報道してるけど………。」


「十中八九、悪霊の仕業よ。」


答えたのは凛だ。


「で、僕は止めたんだけどね。一円にもならない仕事は止めた方が良いって。」


つまり、こう言う事だ。上野公園での連続殺人事件の犯人は悪霊で、それを凛が退治に行くと言うのだ。土御門が言うには、7人もの人間を殺す悪霊は非常に稀で、相当な悪意に支配されていると言う。


思念…………。怨念と言うべきか。


「待てよ凛!それは危険だ!」


静止する俺の手を凛はそっと払い除ける。


「凛は日本古来から伝わる巫女の血統、その本流の正当な後継者。仕事以前に危険な悪霊を放置する事はままなりません。」


「しかし………。」


「社長………約束よ。霊魂を100体集めれば凛は解放される。」


「あぁ、そう言う契約だ。」


「あの悪霊が100体目。今日でこの職場ともお別れね。」


「え……?」


俺は悪霊の退治の話を聞いた時以上に動揺した。


(凛と会えるのも、今日が最後………。)


聡が凛と出会って3ヶ月。聡が土御門に騙されながらも職場に通い詰めたのは凛がいたからだ。聡は自覚する。


本郷ほんごう さとしは、白音しらね りんに惚れている。


「聡も早く契約を履行して、こんな職場から離れる事ね。」


「ちょっ………。」


「それでは、行って来るわ。」




上野公園


一見、何の変哲もない静かな公園から数百メートルほど離れた場所にある小さな団地。そこが事件現場だ。7人もの人命が不自然な死を遂げたとあって人の姿は見られない。


しかし気配を感じる。人のそれとは違う強い思念『悪霊』。凛は気配の感じる方へと歩き出した。


静寂な空気の中でピリピリと感じる悪霊の気配を凛は慎重に探し当てる。


(あれね…………。)


悪霊は既に実態と化し、人の姿はしていない。大きさは大人の人間の二倍程度。


(確かに大きい………。)


しかし予想していたほどの脅威は感じられない。これなら問題無い。


巫女装束を羽織った白音しらね りんは、真っ赤な短剣『紅桜』を取り出した。


神具『紅桜べにざくら


巫女の一族に伝わる伝説の剣。この剣で貫けぬものなど存在しない。最初から全力で行くと決めていた凛は最大奥義の技の名前を声高に叫ぶ。


「千本桜!!」


すると、見事な桜吹雪が大気中に乱れ咲いた。


「!!」


凛の存在に気付いた悪霊が慌てて攻撃態勢を取る。


「遅い!!」


ズバズバズバズバズバズバッ!!


「ゴホォギャォオォーン!!」


それは悪霊の悲鳴。如何に凶悪な悪霊と言えど、先に技を仕掛けられてれは為す術もない。


凛は瞬時に悪霊との間合いを詰めて左手に持つ『呪符』を悪霊に貼り付ける。


この『呪符』は土御門に作成方法を教わった。凛の実力があれば、その場で悪霊を浄化する事など容易い。しかし、それでは契約が成り立たない。土御門は呪符に封印した『霊魂』を自ら浄化する事を望む。

 

土御門は変わった奴だ。と凛は思う。


シュン…………。


断末魔を上げた悪霊が凛の持つ呪符に封印され、跡形も無く消え去った。これで凛が封印した霊魂は100体。土御門との約束は無事に完了した。


(終わった…………。)


凛は曇天模様の空を眺める。今にも雨が降り出しそうな薄暗い空。


(さっきまでは、もう少し晴れていたのに。これは雨が降るわね………。)


ゾクゾク!


(!?)


次の瞬間、凛の間近で強い気配を感じた。


(後ろ!?)


ズバッ!


「きゃっ!」


気付くのが少し遅れた。凛の背中は鋭い爪で切り裂かれ鮮血が飛び散った。


凛は慌てて臨戦態勢を取り、真紅の短剣『紅桜』を構え、前方の敵を凝視する。


ゾク


先程の悪霊よりも、一回り小さいが非常に嫌な気配がする悪霊だ。今まで出合った悪霊とは気配が違う。


「ほぉ………よくぞ躱したね。身体を引き裂く予定だったのだが。」


「!?」


(何だこの悪霊は………。)


物凄い違和感。


霊感の強い凛は霊魂と話す事が出来る。それは珍しい事ではない。しかし、この悪霊は普通じゃない。人間離れした姿は霊と言うより悪魔を想像させる。


「困るんだよ。私の獲物を横取りされちゃあ。」


「獲物?」


「そう。獲物だ。」


静かに告げた悪霊の口元は、何とも不気味に歪んでいた。


「あなた………何者なの?」


「ふむ。」


そして、凛の質問に悪霊は静かに答える。


「私の名は『アダム』。人間の『魂』を狩る者………。」







【第三話 未来産業】


西暦2029 年2 月


この時代、世界のAI技術は3つの大国によって覇権が争われていた。アメリカ合衆国、中華人民共和国、そして日本。


中でも日本国のAI技術は新興企業である『未来産業』が一手に引き受け、卓越した研究者の努力の甲斐もあり、日本国は7年振りに世界最高の演算処理能力を誇るスーパーコンピュータの開発に成功した。


『日本国民の皆さん。そして政府関係者の皆さん。我々のような新参者の企業が、このような名誉を獲得した事を大変嬉しく思います。ここに感謝の意を表明致します。』


「へぇ、凄いね兄ちゃん。この会社、創立してまだ5年なんだってさ。」


俺の妹、本郷ほんごう あかねが、呑気な事を言っている。


「そんな事より上野公園の連続殺人事件だ。ニュースの続報は無いか?」


未来産業なんて会社はどうでも良い。気になるのは白音しらね りんの安否。凛は今、7人もの人間を殺した悪霊と対峙しているはずだ。


「殺人事件?」


「そうだ。」


首を傾げる妹に、本郷ほんごう さとしは、強い口調で問い掛けた。すると妹は呆れた様子で口を開く。


「何言ってるのよ兄ちゃん。あれは事件じゃなくて心臓麻痺だってニュースで言ってたわよ。」


「は?」


「遺体に外傷は無く毒物も発見されなかったって。」


「だからって、7人だぞ?そんな大勢の人間が一度に心臓麻痺とか有り得ないだろ!」


「知らないわよ。そう発表してたんだから、私に言わないで!」


そりゃそうだ、妹にあたっても仕方がない。そして、捜査は打ち切られた方が良いのかもしれない。なにせ相手は悪霊だ。警察が束になっても敵わない。


(霊魂が見えない人間が現場に行けば、殺されるだけだからな…………。)


ならば、と聡は思う。


結局、凛の力になれるのは俺だけだ。何の為に3ヶ月の間、実践を積んで来た。惚れた女に戦わせ自分は安全な場所で待つだけなんて………。


「わりぃ茜!ちょっと出掛けて来る!」


「ちょっと兄ちゃん!何処に行くのよ!?」


「デートだ!」


俺はそう言い残し我が家を飛び出した。ブルルとエンジン音を響かせる愛車のカワサキ5000に跨り、急いで上野公園へ向かう。自宅から上野公園まではそう遠くない。飛ばせば30分程度で着くはずだ。




「副大臣、ようやく警視庁が納得したようですね。」


そう告げるのは40歳そこそこの男。特殊な覆面をしている為に素顔は見えないが、声色はかなり低い。


「ふむ。無能な奴らだよ。霊魂の見えない警視庁には何も出来ん。元よりこの事案は、経済産業省の管轄なのだ。他の省庁がしゃしゃり出て来る事自体が間違いだ。」


「おっしゃる通りです。」


覆面の男はそう返答すると、部下と思われる男に目配せをした。


ここは、上野公園近くの国道沿い。


公園をグルリと取り囲むように配列された装甲車両の数は13台。車両の側面には『未来産業』のロゴが記されていた。


『各車、電磁パネルシステム起動。』


部下の声が13台の装甲車内に鳴り響く。ウィーンと言う機械音と共に車両の上部を覆う装甲が左右真っ二つへと開かれ、中から巨大なアンテナが現れた。


日本国最先端の科学技術を誇るIT企業『未来産業』。その技術の粋を集めた『電磁パネルシステム』が起動すると、上野公園全域を取り囲むように電磁波の結界が現れた。


弥勒みろく隊長、準備が整いました。」


覆面の男の名は弥勒みろく 王師おうし。『未来産業』の取締役にして実働部隊の指揮官でもある。弥勒は目を細め面前のモニターを凝視した。


ぽつぽつと映し出される黄色い光は人間の『魂』を映し出す。


「避難勧告は出ているはずだが、随分と人がいるな………。」


「はっ!全ての住民を避難させるのは困難かと。」


「ふん。警視庁も役に立たない。」


それだけ言うと、弥勒はパネルを操作して目的の『魂』を詮索する。


(いた…………。)


無数に点在する黄色い光の中に、1つだけ異才を放つ巨大な光を見つけ出したのだ。


「『アダム』を発見した。かなり強い光だ。やはり『魂』を吸収したか。」


独り言とも受け取れる弥勒の言葉を聞いた副大臣が心配そうに話し掛ける。


「弥勒君。本当に大丈夫なのかね。」


すると弥勒は覆面に隠された口元を歪めて笑う。


「心配いりません。我が社の技術を持ってすれば『アダム』など産まれたての赤子も同然。その為の特務部隊。我々がいるのです。」


「隊長。」


すると、モニターを眺めていた部下が弥勒に報告する。


「『アダム』の側にもう一つ、『魂反応』が見受けられます。一般人でしょうか。」


「なに?」


よく見ると、巨大な光のすぐ横に小さな光が点灯している。


(馬鹿が………。こんな夜分に一人で外を出歩くなど、避難勧告を聞いていないのか。)


「手遅れだな、構うな。」


「はっ!」


「我々は手筈通り『アダム』を捕獲する!捕獲部隊、全員出動せよ!」



未来産業特務部隊


総勢20名からなる捕獲部隊の全員が特殊なゴーグルを装着し、強い光を発する霊魂『アダム』を目指す。ゴーグルに映し出されるのは光の塊。それが人間の霊魂だ。


ビビッ


「前方距離、およそ200メートル。間もなく『アダム』と遭遇します。」


「電磁パネルシステム異常なし。」


「電磁波動砲用意!」


捕獲部隊が持つのは中型の機関砲のような武器『電磁波動砲』だ。『未来産業』の科学技術により人間の霊魂を電磁波によって絡め取る事に成功した最新兵器。


(なんだ…………?)


弥勒は覆面の下に隠された目を細める。そこに映し出されたのは『アダム』と思われる巨大な光と一人の少女。


白音しらね りん


(馬鹿な………。あの女………。『アダム』が見えるのか?)


『未来産業』の最先端技術を持ってしても、人間の霊魂を正確に目視する事は出来ない。『電磁パネルシステム』の結界内でのみ特殊なゴーグルによって『光の塊』を確認出来る。


それをあの女。


目視するどころか『アダム』と戦闘を繰り広げるなど非常識にも程がある。


「信じられんな………。あの巫女装束の女、何者だ?」


「隊長、どうしましょうか?」


「…………。」


戦況はどうやら切迫している。『アダム』の損傷は分からないが、少女の方は全身が傷だらけだ。何者かは分からんが生身の人間が『アダム』に勝てる訳がない。


『アダム』は正真正銘の化け物だ。


(やむを得ない………。)


「状況が状況だ。我々は『アダム』の捕獲を最優先する。」


「あの女は?」


「構わん。死んだ時はその時だ。『アダム』を取り逃がす方がリスクが大きい。」


「はっ!」


「『電磁波動砲』最大出力!!」


ビビビビビビッ!!


20人の隊員が一斉に『電磁波動砲』の照準を『アダム』に向ける。


「撃て!!!」


ビカビカビカッ!!


雷のような電磁波の光が一直線に飛んで行く。


「「!!」」


その攻撃に凛とアダムが同時に気付いた。


「くっ!」


狙いは『アダム』。凛の反射神経があれば『電磁波動砲』から逃れる事は可能だ。凛は素早く身体を反転させ『アダム』から距離を取ろうとする。


「ふん。」


アダムは冷静に状況を察知した。電磁の波動は人間の魂に反応する。あの攻撃を躱す最良の手段は白音 凛を盾にすること。凛の魂を囮にすれば、あの攻撃が『アダム』を襲う事は無い。


グワッ!


アダムは神速の動きで凛の左手を鷲掴みにすると、思い切りよく電磁光線の方へと投げ飛ばした。


「きゃあ!!」


空中へ投げ出される凛。


「な!?」


慌てたのは特務部隊の隊員達だ。まさか少女を囮にして、波動砲の攻撃を躱すなど想定の範囲外だ。


「不味い!」


ビカビカビカビカッ!!


20本からなる電磁波の光線が『アダム』ではなく凛の魂へと集中する。


作戦は失敗だ。


少女の命など、どうでも良い。問題は『アダム』。最大出力の電磁波動砲を撃ったとならば次の攻撃に時間が掛かる。『アダム』に逃げる時間を与えるばかりか下手をしたら反撃に合う。


「総員!防御態勢!『アダム』が来るぞ!」


弥勒が叫ぶと同時。


「元柱固具、八隅八気、五陽五神、陽動二衝厳神、害気を攘払し、四柱神を鎮護し、五神開衢、悪鬼を逐い、奇動霊光四隅に衝徹し、元柱固具、安鎮を得んことを、慎みて五陽霊神に願い奉る!」


暗闇の中に少女の透き通る声が響く。


「な!?」


「!!」


「『紅桜』!悪しき敵を討ち滅ぼすが良い!!」


ズバッ!!!


「ぐわっ!」


狙っていたか!!


紅色の短剣は遂にアダムの身体の中心線を捉えた。どんなものでも切り裂く神具『紅桜』に貫けぬものなど存在しない。それは悪霊であっても同じ。一進一退の攻防を繰り広げていた凛は、アダムの隙を狙っていた。


『未来産業』の特務部隊、その捕獲部隊が攻撃を仕掛けた瞬間、アダムは凛の身体を投げ飛ばした。特務部隊の攻撃はアダムではなく凛を襲う。その隙にアダムは特務部隊に攻撃を仕掛ける。それが凛の狙いだ。


「貴様………。自分が攻撃される事を承知の上で、わざと私に投げられたか………。」


「あの程度の攻撃、私の前では無力に等しい。凛の魂は『護符』によって護られている。当然でしょう。何せ私は『魂』を喰らう悪霊と戦っているのよ。」


なるほど


(面白い女だ………。)


アダムの貫かれた傷口からは吸収した人間の『魂』がシュウシュウと音を立てて抜け出して行く。



(まさか…………。)


そう思ったのは弥勒。


(『電磁波動砲』が霊魂を攻撃する武器だと一瞬で見抜いたのか?あの一瞬で……。)


更にその攻撃を『護符』で防いだなど信じられ無い。


「『護符』……。」


そんな非科学的な方法で、我々『未来産業』の科学の力を防ぐなど有り得ない。


「貴様ぁ!何者だぁあぁぁ!!!」


怒り狂う弥勒は、懐から38口径のリボルバーを抜き出した。


「!」


ズキューン!!


「くっ!」


ぼすっと言う鈍い音が凛の左足に直撃する。


「隊長!何を!」


「うるさい!!」


驚く隊員達を怒鳴り付け、弥勒はもう一度銃口を凛に向けた。


「何をするか!」


傷の痛みに堪える凛は、弥勒を鋭く睨みつけた。


「我々『未来産業』は絶対なのだよ。我々に逆らう者は死あるのみ。それが日本の未来の為だ。」


「くっ………。」


(どうする………。)


アダムとの戦闘で満身創痍な上に左足を撃ち抜かれては歩く事も出来ない。


逃げる事は不可能。


シュダッ!!


「!」


その隙に逃げ出したのは『アダム』だ。凛から受けた傷は予想以上に深い。早く傷口を修復する必要がある上に、先程の『電磁波動砲』を再び撃たれたら厄介だ。


「待ちなさい!」


「動くな!!」


「!!」


しかし弥勒の持つ38口径の銃口は『アダム』ではなく凛に向けられたままだ。


「…………逃げられるわよ。」


「逃げられないさ。お前は俺から逃げれ無い。」


「何を……………。」


狂っている。


凛は思う。


悪霊『アダム』ではなく、生きた人間である凛を殺そうなど正気の沙汰ではない。凛はズキズキと痛む自分の左足を横目で見る。


(応急処置をする事も出来ないわね………。)


万事休すとはこの事だ。人間を殺す悪霊を退治する予定が、まさか人間に殺されるとは。


凛はそっと目を瞑った。




……………。



(………………この気配。)




………………。



(『護符』が………、近くまで来ている。)


この気配は紛れもなく凛のもの。


凛の血で染め上げた『護符』が一直線にこちらに向かって来る。



この護符は……………。




(…………………聡!)


そして耳を澄ます。


ブルン


ガガガガッ!


聞こえて来るのはバイクの爆音。


ザワっ!


凛だけでなく、その場にいた全員がバイクが向かって来る方向へと振り向いた。


「凛!!」


聡の声が響いた。


「隊長!危ない!」


ドガガガッ!!


「うぉ!?」


すんでの所でバイクの突進を躱した弥勒が、銃口をバイクへと向ける。


「隊長!相手は民間人です!」


「落ち着いて下さい!」


「放せ!馬鹿もの!!」


ズキューン!!


狙いの定まらない銃弾は虚しく夜空へと飛んで行く。


「聡!」


「凛!後ろへ乗れ!!」


ブルン


ガガガガガガガガッ!!


本郷ほんごう さとしは、アクセルを全力で踏み込んだ。


状況は全く分からない。あいつらが何者なのか。悪霊はどうなったのか。分からない事は沢山ある。


しかし


聡は思う。


後部座席から聡の腰へと回される凛のか細い腕は本物だ。


今はそれだけでいい。


暗闇の中、二人を載せたカワサキ5000の爆音だけがブルンブルンと鳴り響いていた。







【第四話 アダムとイヴ】


かつて人類は栄えていた。


高度に発達した文明は、人類が考え得る全ての想像を現実のものとし、不可能な事は無いかと思われた。人類は神にでもなったかの様に振る舞い、時に神の名を語った。


それから何百年が過ぎた頃だろう。


食物連鎖の頂点を極めた人類は子供を産まなくなった。その頃の人類の寿命は200歳を越えていたのだが、同時に生殖機能が著しく退化していたのだ。


巨大な金属の塊がピロピロと音を発し警告音を鳴らした。そこから浮び上がる文字は世界統一言語。そして金属の塊が言葉を発する。


『人類の寿命は残り170年。』


一時は200億人を越えた人口は既に1億人を下回り、ここ数年間は一人の子供も産まれていない。このままでは人類は滅びてしまう。


ならば『アダム』よ。


人々は人類の存亡を『アダム』と呼ばれる人工知能に問い掛ける。巨大な金属の塊は、ピロピロと警告音を鳴らしたままに世界統一言語で語り始めた。


『戦争を行え…………。』


ざわっ


「戦争………ですか?」


人々はざわめいた。


『平和過ぎるのだ。』


命の危険が無い状態では生命は繁殖しない。それが自然の摂理。


『アダム』は言葉を続ける。


『混乱を、破壊を、絶望を………。』


実に簡単な話である。戦争が起きれば人々は命の危険を察知する。


『殺し合うのだ。さすれば人類は助かるであろう。人類滅亡の危機が生殖機能を活性化させ、やがて人類は繁栄の時を迎える。』


それが世界最高の頭脳を持つ人工知能『アダム』の出した結論であった。







西暦2029 年2 月


土御門株式会社


「昨日は、よく無事だったね、白音君。」


土御門はタバコの煙をふぅと空中へ吹きかけた。


「今朝のニュースを見たかい?上野公園の連続殺人事件の続報だよ。」


そして土御門は告げる。


「またしても犠牲者だ。なんでも『未来産業』の社員が十数人ほど遺体で見つかったらしいよ。」


「………そう。」


凛はそれだけ言って、静かに目を伏せる。


「気にする事は無いさ。君のせいじゃない。」


「…………。」


「しかし、これで犠牲者は20人以上だ。普通じゃあ無いね。この悪霊は普通じゃない。」


「社長………。」


凛はそっと口を開いた。


「ん?どうしたんだい?」


「これを………。」


すっ


凛が差し出したのは悪霊を封印している『呪符』と呼ばれる札である。


「100体目の霊魂よ………。」


白音しらね りん土御門つちみかど 健太郎けんたろうが交した契約。凛が100体の霊魂を集め土御門に差し出せば、凛と土御門との契約は完了する。


「今日でこの会社ともお別れね。」


心残りは本郷ほんごう さとし。凛が退職した後には、社員は聡しか残らない。こんな胡散臭い会社に聡を一人残すのは後ろめたいが、凛だってこんな会社には長居したくない。


「君は優秀だよ。」


土御門は言う。


「どうだい?もう一度、僕と契約をしないかい?報酬は弾むよ。」


「お断りよ。」


即答だった。


「それは………残念だ。」


土御門は心底残念そうに煙を吐き出す。


「君のような優秀な人材はそうは居ない。契約期間中であればね。」


「…………。」


「君は利口な女だ。契約が有効の間は僕に逆らう事はしない。しかし、契約が終わった今となってはどうかな。」


「何を………言いたいの?」


「人間の『魂』を集める僕は世間的には異常な人間だろう。それを公表されては困るのさ。」


「そんな事………。凛は口が固いのよ。」


「この場所を知られているのも不味いし、何より………。」


「………………。」


「『アダム』。」


「………………。」


なぜ……………。


と、凛は思考を巡らせた。


土御門が『アダム』の名前を知っているのか。『アダム』の名前など報道では公表されていない。


(そう言えば……………。あの未来産業の人間達も『アダム』の事を知っている様子だった。)


しばしの沈黙の後に白音 凛は土御門に質問をする。


「なぜ社長は『アダム』の名前を知っているの?『アダム』とは………何者なの?」


「それは企業秘密だよ。」


「……………。」


話にならない。


「そう…………。」


ならばと凛は土御門に背を向ける。


「いずれにせよ凛には関係の無い話ね。さようなら社長。…………いや、土御門さん。」


コツン


「逃げられると思うのかい?」


「……………。」


くるりと振り向いた凛の右手に握られているのは真っ赤な短剣『紅桜』。


「土御門さん。あなた………、凛に勝てるとでも?」


凛は巫女の一族の正当なる後継者。異能の力は日本国内でも頂点に近い。


「さぁね。しかし白音君。その負傷中の足で僕と戦えるのかい?」


「たいした事は無いわ。」


「それに、ここは僕の結界の中だ。君こそ僕に勝てるのかな。」


古びた二階建の建物『土御門株式会社』が濃厚な霧に包まれて行く。





「兄ちゃん!起きろー!!」


「ぐほっ!」


「何時まで寝てんだ!茜は学校行くよ!」


「う………。」


本郷ほんごう さとしは、平凡な大学四年生だ。どこにでも居る大学生。しかし、卒業も近いと言うのに、まともな就職先は決まっていない。


聡は枕元にある時計の針を確認する。


(……………まだ8時じゃねぇか。)


なにせ、昨日の夜は大変だった。上野公園までバイクを飛ばし、連続殺人事件の犯人………である悪霊と戦う白音 凛を救い出した。


凛に聞いた話では、凛に銃口を向けていた人間は未来産業の社員らしい。


(未来産業…………何なんだあの会社は………。)


それでも聡にとって昨日は忘れられない一日となった。助け出した凛と遅くまで語り、色々な事を話した。


(今日の待ち合わせは9時だったか………。)


ガバッ


聡は慌てて起き上がると、素早く着替えて朝食を口に放り込んだ。確か昨日の話では、一緒に警察へ行く約束をしたはずだ。


未来産業だか何だか知らないが、人様を拳銃で撃つなど違法行為にも程がある。殺人未遂だ。


チチと鳥がさえずる声がする。


待ち合わせ場所は、土御門株式会社の近くの喫茶店。聡の家からは1時間程度の距離。


(やべ!遅刻だ!)


喫茶店に着いた時間は9時を少し回っていた。カランと入口の鈴を響かせて聡は古びたドアを開いた。店内を一望出来る小さな喫茶店だ。


(凛はまだか……………。)


ほっと息を着いた聡は窓際の見晴らしの良い席に座った。行く先が警察とは言え、喫茶店で女の子と待ち合わせなど久し振りだ。凛と過ごした日々の殆どは仕事としての付き合いで、プライベートでの待ち合わせは初めてだった。


チクタクと時計の針が足早に進んで行く。


(9時30分…………。)


少し遅いな、と思った時、カランと入口ドアの鈴の音が鳴った。


「凛!遅い………………。」


「あら?あなたは……………。」


何と言う偶然なのだろうか。喫茶店へ入って来た少女は凛ではなく、昨日の一風変わった少女。


「イヴ?」


黒い長髪はそのままだが服装はオシャレな感じに変わっている。イヴは少し驚いた様子で俺を見ると、すぐ隣の席へ座った。


「マスター。グリーンティーを一つ。」


手慣れた様子で注文をしたイヴは嬉しそうに俺の顔を見た。


「昨日はごめんなさい。途中で帰ってしまって。」


「いや、それは構わないけど。」


ドキドキと胸の鼓動が鳴る。


(この女、何の躊躇ちゅうちょもなく、何で隣に座るんだ?凛に見られたら………。)


「私ね………。こんなに平和な感じ久し振り。」


「え?」


「ううん。それより貴方……。えっと………。」


「本郷 聡だ。」


「聡君、ここで何をしてるの?」


それはこっちのセリフだった。





『殺し合うのだ。さすれば人類は助かるであろう。人類滅亡の危機が生殖機能を活性化させ、やがて人類は繁栄の時を迎える。』


人類が助かる手段。


それは戦争。


それが世界最高峰の頭脳を持つ人工知能『アダム』の出した結論だ。


「いだぞ!殺せ!」


バシュ!


シュン!


ユーラシア大陸の極東に位置する世界統一国家の首都『ネオ東京』は戦果に包まれていた。首都と言っても人口は僅か300万人にも満たない。何せ世界の人口が1億人を割り込んでいる状況だ。子供が産まれない世界では、人口減少が留まる事を知らない。


「ちっ!『アダム』の犬めが!」


男は吐き捨てるように怒鳴りつけた。


ネオ東京と同じく世界中が真っ二つに別れて戦争を開始したのは5年前。人類滅亡の予言が事の発端だった。


「馬鹿馬鹿しい!人類滅亡の危機だと言うのに、何で俺達は戦っているんだ!」


「そう怒鳴り散らすなよシュン。」


世界が統一国家となって久しいこの時代。大量破壊兵器なるものは存在しない。戦争をする敵国がいない状態では兵器など無意味。


大陸弾道ミサイルも戦闘機も戦車すら無い時代に産まれたシュン達の戦闘は対人戦闘を余儀なくされた。


主要な武器はソウルガン。


僅かに残された人類は、ソウルガンを片手に敵側の兵士をひたすら殺す。


『アダム』の予言を信じ国家に服従する正規軍と、『アダム』の予言に疑問を持ち『アダム』の破壊を目的とする反乱軍。


くしくも世界は、『アダム』が出した結論の通り、戦争を継続していた。


「このまま戦えば『アダム』の思う壺だ。」


「しかし『アダム』の警護は厳重だ。とても侵入なんて出来ない。」


「しかし『アダム』を破壊しなければ戦争は終わらない。」


「………………。」


「方法が一つだけある。」


「な………に?」


それは途方もない方法であった。





西暦2031年


かつて世界は200にも及ぶ国家に別れ、国家は人間が支配していた。それまでの人工知能には限界があった。いかに演算処理能力が優れていても人工知能には感情が無い。感情が無い機械に人々を統治出来るはずがない。そんな常識が支配していた時代。


極東の地に一人の天才が現れた。


「感情が無いなら感情を植え付ければ良い。」


「なんだと?そんな事が出来る訳がない。」


「既に感情のある人間の製造には成功しているさ。」


「人間の製造?君は何を言っておるのだね?」


「彼女は人工的に造られた人間だ。僕が造った。どうだい?人間のそれと変わらないだろう?」


ゴクリ


その少女の見た目は人間そのもの。とても人工的に造られたものとは思えなかった。


「同じ事をすれば良い。なに、準備は出来ている。僕はね、出来ない事は口にしないタイプなのさ。」


世界を統率する程の人工知能、それに見合うだけの人間の感情を組み入れる事が出来れば問題ない。


その天才は言う。


「およそ2万人だ。」


ゴクリ


「2万人の人間の魂を、人工知能に組み入れるのさ。そうすれば『アダム』は完成する。」


「『アダム』だと?まさか、あれは君が………。」


「その時、悪魔は神となる。どうだい?世界を支配したいと思わないかい?僕ならそれが可能だよ。日本は世界に先駆けて、真の人工知能『アダム』を手に入れるのさ。」




西暦2029 年2 月


土御門株式会社の近くにある喫茶店


パリィーン!!


ズキューン!!


「!!」


「!?」


ガバッ!


バタッ!


本郷ほんごう さとしとイヴは同時に座席を立ち上がり顔を見合わせた。


(今のは…………!?)


霊感の強い聡が感じ取ったのは、結界が崩れ去る気配。同時に銃声の音が響いた。土御門株式会社が建っている方角だ。


(土御門さんが張った結界が何者かに破られた?)


そして銃声…………。


「土御門さんが襲撃されている!?」


ピク


シャキィーン!


『ソウルガン装着。モードデストロイ』


狭い店内に機械音声の音がする。イヴの持っている拳銃から発せられた音だ。


「ちょっと、イヴ?」


驚いた俺を見てイヴは顔色一つ変えずに答える。


「敵襲でしょう?早く行きましょう。」


「いや、そうじゃなくて…………。」


「大丈夫です。」


そしてイヴは力強く言い放った。


「戦闘には慣れていますから。」






【第五話 凛の魂】


古い歴史書によれば、世界最高峰の人工知能『アダム』が誕生したのは西暦2036年。極東の地ネオ東京、旧日本国の首都東京シティで造られた。


「これが第2世代『アダム』と呼ばれている。」


「第2世代?どう言う意味だ?」


「まぁ、焦るな。資料を開示しよう。」


ピッ


モニターに映し出された資料は極秘中の極秘文書であり『アダム』誕生の記録が記載されている。


「よくこんな資料が手に入ったものだ。」


「同士諸君、ここを見てくれ。」


民間企業である未来産業は経済産業省の協力を得て世界最高速度の演算処理能力を誇るスーパーコンピュータの製造に成功。この技術を人工知能技術へと転用する事により、日本国は世界に先駆けて実用可能な巨大人工知能システムの試験運用を開始した。試験運用をするにあたり、およそ2万人の人間の霊魂を吸収した特殊霊体『アダム』をシステムへ組み入れ……。


「特殊霊体?」


「何だそれは…………。」


「人工知能になる前の『アダム』。それが第一世代と呼ばれている。」


「2万人の霊魂とは………正気かよ。」


「で、結局のところ何が言いたいのだ。早く結論を言いたまえ。」


人類を戦争の狂気へと導く人工知能『アダム』。反乱軍の目的は『アダム』の破壊だ。第2世代『アダム』が完成したのは西暦2036年。


「すなわち、人工知能『アダム』が完成する前の霊体『アダム』を殺すか………。」


「その製作者を殺すって訳か。」


「そうだ。」


「……………。」


「不可能だ。」


「…………。」


「馬鹿馬鹿しい。」


「何を言い出すかと思えば………。」


タイムワープ理論は既に確立されている。


人類が初めて時間遡行に成功したのはおよそ70年前。その後、多くの科学者達がタイムワープの実用化に取り組んだが『56分の壁』を越える事は出来なかった。


そこには『56分の壁』がある。


それ以上の時間遡行を行えば人体内部にある成長ホルモンに著しい影響を及ぼし、人体は急速に老化する。そして60分以上のタイムワープを行って生きて帰った者は存在しない。


統計によれば27人。27人の人間が急速な老化によりミイラ化または白骨遺体となりマシンから降りる事もなく発見された。


「それを西暦2036年?お前、正気か?」


「まさか、何万回とワープを繰り返すなどとは言わないだろうな?エネルギーがいくらあっても足りないぞ。」


「マシンに搭載出来るエネルギー量は最大2回分。往復の時間遡行までしか想定していない設計だ。どんなに頑張っても2時間も遡れない。」


周りに居た同士達の全てが、この計画に反対したが、それでも男は、計画の説明を続けた。


「一人だけ、タイムワープに耐えられる人間がいる。」


ざわ


「彼女には成長ホルモンが存在しない。」


ざわざわ


「数百年も昔に産まれ、今もなお、産まれた時と同じ姿で存在する人物。」


その名は『イヴ』


「ダメだ!」


「ふざけるな!」


「『イヴ』は我々の切り札だ!」


「『アダム』に対抗する為の象徴である『イヴ』を危険な目に合わすなど言語道断!」


「私、やるわ。」


「!!」


「……………イヴ。」


「イヴの時間遡行の成功確立は97%を越えている。理論上では問題無い。」


「皆さん!やらせて下さい!『アダム』を造った狂気のマッドサイエンティスト!彼を殺さなければ人類は滅亡します!」


「………………。」


「他に方法は無い。」





西暦2029 年2 月


土御門株式会社を覆っていた結界は既に崩壊し、古びたコンクリートの建物は一般人でも目視出来る状態になっていた。


その建物の前に人影が2つ。


土御門つちみかど 健太郎けんたろう白音しらね りん


土御門は感嘆の声をあげた。


「白音君。やはり君は素晴らしい。僕の結界を破るとは驚いた。」


「く…………。」


迂闊だった…………。


只者では無いとは思っていたが、凛と互角に渡り合う術者だとは………。


だからこそ凛は、土御門の術式に注意を払い、万全の対策を施したのだが、それが裏目に出た。最後の最後で土御門は、陰陽師の術ではなく拳銃で凛を撃ち抜いたのだ。


まさか拳銃を隠し持っていたとは………。


(昨日の今日で同じミスを…………。私もまだまだ未熟……………。)


腹部の傷口から流れる血はもはや止血出来る段階ではない。土御門は銃口を凛に向けたまま、もう片方の手に持つ呪符に念を込める。


(この傷では逃げられない…………。残る手段は一つ…………。)


ズキューン!


「きゃっ!」


カラン


カラン…………。


『紅桜』が…………。


土御門が撃ち抜いたのは右手の甲。凛の最大の武器である『紅桜』が虚しく地面に放り出される。


「そろそろ終わりにしよう。」


「何を…………。」


「大丈夫さ。君の『魂』は永遠に生き続ける。『アダム』と共にね。」


そして、土御門は念を込めた『呪符』を白音 凛に差し出した。


シュバッ!


「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」




聡とイヴが現場に駆け付けたのは、そのすぐ直後であった。真っ赤に染まった地面の中央で倒れていたのは、白音 凛だ。


「凛!!」


聡は凛の名前を呼び、凛の身体を抱き抱える。


「凛!凛!しっかりしろ!!」


凛はピクリとも反応しない。


「嘘………だろ?」


なぜ、凛が殺されなければならないのか。何者かが土御門株式会社を襲撃し、そこに居合わせた凛と戦闘になった。そう言うことか。


『ソウルカウンター装着』


シュン


(やはり…………。)


イヴは、そっと聡に近寄る。


「聡君……………。まだ、間に合うわ。」


「………………な………に?」


腹部から大量に流れるおびただしい量の血が、聡の服にも染み込んで行く。それでもイヴは、まだ助かると言う。


「何を根拠に……………。」


「冷静になって下さい。聡君は人間の霊魂が見えるのでしょう?」


「!」


「その少女の名前はリンと言うのね。」


「白音 凛だ。」


「そう…………。」


イヴは少し俯くとソウルカウンターの反応を確認する。


「遠ざかるソウル反応が2つ。一つは犯人のソウル。そしてもう一つはおそらく………。」


「凛の…………『魂』か!」


そう言う事か!


本郷 聡はようやく状況を理解した。人間の『魂』を人体から引き離せる人間などそうは居ない。ましてや、人間の『魂』を収集している人間など聡は一人しか知らない。


土御門株式会社は襲撃された訳ではない。


「土御門!あの野郎!凛の『魂』をどうする気だ!」


「聡君、こっちよ!付いて来て!」


「イヴ!」


聡は地面に落ちていた短剣を拾い上げると、すぐにイヴの後を追った。


ダッ!


イヴの話では、白音 凛は死んでいない。凛はまだ助かると言う。


しかし、この状況でイヴは、何でそんな事が分かるのか。土御門が『魂』の収集をしていた事を知っている聡でさえ、すぐにはその考えには及ばなかった。


イヴはいったい何者なのか……………。


(いや、今は余計な事は考えるな。)


最優先は凛の『魂』の救出。土御門の野郎を倒して『呪符』を奪い取る事が先決だ。



雑多な路地を数分ほど走り抜けると、聡は土御門の後ろ姿を捉えた。


「土御門ぉぉ!」


聡の声を聞いた土御門は、驚いたように振り向くと「ほぉ………。」と声をあげる。


そして、土御門は俺に言う。


「本郷君、どうしたんだい?そんなに慌てて。」


白々しいセリフだ。


「なぜ凛を襲った!凛の『魂』をどうするつもりだ!」


「……………。」


土御門は聡の事を見た後にチラリとイヴの方へと目をやった。


「…………本郷君。誰だい?その少女は。」


「そんな事はどうでも良い!凛の『魂』を返せ!!」


しばしの沈黙。俺は土御門を睨みつけ相手の出方を待つ。


「何を怒っているんだい?白音君を襲ったのは僕じゃあない。見ただろう?僕の張った結界が破壊されているのを。」


「う……………。」


「僕は犯人を追っている所だ。君は危険だから帰った方がいい。」


(……………どうする。)


土御門は犯人では無いのか?


「では、なぜ凛の『魂』を抜き取った。お前の持っている『魂』も襲撃犯の仕業だと言うのか。」


「白音君の『魂』…………。君の霊感はそんな事まで分かるのかい?凄いね。霊感だけなら本郷君は僕や白音君を上回る素質があるかもしれない。」


土御門に動揺している素振りは感じられない。


「まぁ良い。白音君の本体は危険な状態だ。あのまま放置していたら本当に死んでしまう所だった。だから僕が助けたのさ。」


「なに?」


「呪符に封印された『魂』は浄化しない限りは安全なのさ。こうするしか白音君を助ける方法は無かった。分かって貰えたかい?」


「……………。」


「それでは僕は行くとしよう。犯人を追う必要がある。」


土御門は俺達に背を向け足を踏み出そうとしたその時。


バシュ!


「動かないで!犯人は貴方よ!」


イヴのソウルガンが土御門の足を掠めた。


「痛…………。」


そして土御門はイヴを睨み付ける。


「君は誰なんだい?何でそんな事を断言出来る。」


ゴクリ


「古い歴史書によれば……………。」


「……………。」


そして、イヴは語り始める。


「白音 凛の『魂』はある実験の為に使われる。」


「…………実験?」


(『アダム』の事か?なぜ知っている。)


人間の魂を人工知能に組み込む計画は、一部の人間しか知らないはずだ。


「どこでその話を聞いた。君はどこまで知っている。『アダム』計画の事を知った人間は生かしてはおけない。」


スチャ


土御門は懐から取り出した拳銃をイヴに向ける。


「『アダム』………計画?」


(『アダム』とは昨日、凛が戦った悪霊の名前だ。なぜここで『アダム』の名前が出て来るんだ。)


ソウルガンと拳銃を互いに向け合う2人を聡はじっと見る。


口を開いたのはイヴだ。


「『アダム』………。違うわ。白音 凛の『魂』が使われるのは『アダム』にではない。」


「な……に?」


「人工知能と『魂』の融合。『アダム』に先立ち貴方はもう一人の人工知能を持つ人間を完成させた。」


「イヴ…………。何を…………。」


「それが私。白音 凛の『魂』から造られた人間『イヴ』。お久しぶりです。土御門博士。」


「……………なん……と………。」


さすがの土御門も、ぽかんと口を開けたまま言葉が出ない様子だ。


「そして、さようなら。貴方は死ぬ必要があるわ。人類の未来の為に…………。」


『モードデストロイ。照準完了。』


バシュ!!


イヴが持つソウルガンから発砲音が聞こえたのはその直後だった。






【最終話 LINK】


時間遡行を可能にしたマシンに乗り込むイヴの腕をシュンは握りしめた。


「………シュン?」


「イヴ………お前は分かっていない。」


「大丈夫よシュン。」


タイムワープによる成長ホルモンへの障害はイヴには適応されない。そもそもイヴには成長ホルモンが存在しない。イヴは人間であって人間ではない紛い物なのだから。


「違う!お前は分かっているのか!!」


シュンは大声を張り上げる。


「シュン………。最後くらい怒鳴らないでよ。」


「分かっているのかイヴ!『アダム』の製造者である土御門博士は………。」


「私の製造者でもある。分かっているわ。」


「ならば!」


土御門博士を殺した瞬間『イヴ』は消滅する。これはそう言う任務だ。


「『アダム』も消滅するわ。」


イヴは微笑んだ。


「人工知能に統治されない社会。人間が人間らしく生きる社会。それが私達の願い。」




『モードデストロイ。照準完了。』


バシュ!!


(シュン………。これで任務完了よ。)


イヴが持つソウルガンから発射された光線が土御門に向けて飛んで行く。


「うぉおぉぉぉ!!」


「!」


ビカッ!


バチバチバチバチッ!!


その間に割って入ったのは本郷 聡。どこにでも居る平凡な大学生だ。


しかし


バチバチバチバチッ!


「ぐぉおぉぉぉ!!」


その手に握られている短剣は只の短剣ではない。


神具『紅桜』


巫女の一族に伝わる伝説の剣がソウルガンより発射された光のエネルギーを弾き飛ばした。


バシュン…………。


「聡君!何を!?」


「土御門ぉ!質問がある!!」


「!」


ズサリ


そして俺は叫んだ。


「凛の『魂』をどこへやった!!」


「!?」


「聡君、何を………。『魂』なら土御門博士が持っている。ソウルカウンターにも反応があるわ!」


「違う!それは凛の『魂』じゃあ無い!!」


「!?」


「見ろ!」


すかさず聡は内ポケットから真っ赤な札を取り出した。凛の血液を染み込ませた紅色の『護符』。


「気配が違う!土御門!お前の持っている『魂』は、昨日、凛が封印した悪霊のものだ!」


白々しいにも程がある。


土御門は凛の『魂』を封印なんてしていない。凛の『魂』は凛が造った『護符』で護られているはずだ。あの短時間で封印は出来ない。


シュボ


土御門はタバコの先端に火を付けて「ふぅ」と一息吐いた。


「今日は本当に驚く事ばかりだよ。さすがの僕も思考が追い付かない。」


バサッ


「!」


土御門は持っていた拳銃を地面に捨てて、両手を挙げる。


「僕からも質問しよう。イヴ君と言ったか。」


「…………。」


イヴのソウルガンは土御門に照準を合わせたままだ。


「まず僕は博士なんて呼ばれる柄じゃあない。僕は陰陽術師であっても科学者じゃない。」


「…………そんな屁理屈。」


「そして本郷君。」


「………………。」


「君の霊感能力には怖れいる。確かにこれは白音君の『魂』じゃあない。」


「土御門………。ならば凛の『魂』は……。」


「それは、こっちが聞きたいくらいだよ。」


「な………に?」


「あの時、僕は確かに白音君の『魂』を封印しようとしたのさ。しかし出来なかった。それは『護符』に護られていたから………では無い。」


土御門は言葉を続ける。


「あの時 既に、白音君の『魂』は抜け殻だったのさ。まるで、この世界には居ない空虚なものさ。」


「何を………言ってるんだ?」


「考えられるのは…………。LINKリンク。」


「リンク?」


「そう………………。」


ズキューン!!


その時、銃声音が聞こえ


「ぐほっ!」


土御門は大量の血を吐き出した。


「聡君!こっちへ!」


「!」


バシュ!


バシュ!


イヴは銃声が聞こえた方へとソウルガンを発砲すると、素早く聡の手を引いて走り出す。


ズキューン!


ズキューン!


「うぉ!」


「大丈夫!狙いは私達ではない!」


「な………?」


ズキューン!


ズキューン!


容赦の無い銃弾の嵐が、土御門を目掛けて次々と撃ち込まれた。


「うわ……ひでぇ………。」


「あれでは助からないわ。土御門は死んだわね。」


走りながらイヴは言う。


「つまり、私を造った人間は彼では無い。」


土御門博士は…………


……………………………別に存在する。






数十分後


「ここまで来れば安全よ。」


イヴはソウルカウンターの反応で追手が来ない事を確かめる。


「凛は………生きているのか?」


聡の目は真剣そのもの。聡はイヴの肩を両腕で捕まえて離さない。


「痛いわ……。冷静になるのよ。」


「しかし…………。」


「私が生きているの。少なくとも凛さんの『魂』は消滅していない。」


(そうだった…………。)


イヴは白音 凛の『魂』で造られたと言う。にわかには信じられ無い話だが、今はそれを信じるしかない。


そして、イヴは腕に装着している時計のようなボタンを押した。


ブン


「うぉ!?」


現れたのは…………車?


「タイムワープマシン。早く乗って!」


「えぇー!?」


「時間が無いの!もう10時を越えている。早くしないと、間に合わない!!」


「何を………!?」


「ようやく見つけた『アダム』への接点、土御門からは聞きたい事が山ほどあるわ!」


「ちょっ!」


「凛さんを助けたいなら早く!」


『タイムワープ準備完了。』


ビビビビビビッ!!


「ええい!どうにでもなりやがれ!」



タイムワープマシンに乗り込んだ聡は、操縦席のイヴの肩をポンと叩いた。


「な!………に?」


「いや、すまなかった。ありがとう。」


「変な人ね…………。」



ビビビビビビッ!!


シュン…………………。


そして、2人を乗せたマシンは、その場から完全に姿を消した。






「土御門 健太郎の『魂』か…………。」


既に殺された人間の『魂』など、それほど美味いものではないな。


(これで33人目…………。)


アダムは、ゆるりと振り向くと、未来産業の重役である弥勒に笑い掛けた。


「貴様……………その姿………。本当に『アダム』なのか?」


アダムは答える。


「僕は僕さ。君達は今まで通り僕(土御門)の指示に従えはいい。」


シュボ


「ふぅ…………。」


そう言ってアダムは、タバコの煙を気持ち良さそうに吐き出した。








                      LINK 完








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― 新着の感想 ―
[良い点] 長文でしたが、区切りがきちんと入っていて読みやすかったです。 [一言] 続きが気になります。
2020/09/27 22:24 退会済み
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