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第3章 回想 騎士たちは剣を掲げる ④



「いきなりで悪いんだけど、ここにいる5人の得意な戦い方を教えてもらっても良いかな?」


「得意な戦い方、ですか?」


「うん。班長として、みんなの得意とする武器や魔法を知っておきたいんだ」



 班員を統率するためには、それぞれの得手不得手を理解しておいた方が良いだろう。

 戦闘になった場合、人員の采配が最も重要な鍵になる。

 敵の弱点を見極め、相手にどういった攻撃をぶつけるのが有効か分かれば、勝利に繋がる一手となるからだ。


 団長や他の騎士がいない場合、第二班の指揮は班長の俺がすることになるので、そういった情報は早めに知っておきたい。



「はい班長! あたしは斧が得意だよっ!」


「ミトナさんは斧が得意、了解です」


「ロクス班長、我輩は剣だ」


「ええと、ルーヴェルくんだっけ? 君は剣が得意なんだ。俺と同じだね」



 そう口にすると、ルーヴェルは兜の隙間から爽やかな笑みを浮かべ、こちらに手を差し向けてきた。



「真の漢は剣を極めてこそより美しくなれるのだ。剣を武器とする貴公にならそれが分かるだろう? ロクス班長、いや我が同志よ」


「え? あー・・・・ん?」


「班長、気にしないでください。彼は病気なんです」



 俺とルーヴェルの間に立ち、呆れたため息を吐く碧色の髪をした少女。



「君は確か、リズさんだよね。リズさんも何か得意なものあるかな?」


「私は基本的に剣、槍、斧、魔法、弓、総じて並程度には扱えます。ですが、突出して得意なものというのはこれといって無く・・・・」


 

 そう言って、項垂れるリズ。

 どうやら彼女は、突出して得意なものが無い自分に対してコンプレックスを抱いている様子だった。

 だけど、全てがそれなりに使えるというのは、それ自体が恵まれた才能というもの。

 俺は笑みを浮かべ、彼女の肩に手を置く。



「突出したものが無くても、多くの武器を扱えるっていうだけでそれは特別な力だよ。誇って良いと俺は思う」


「ぁ・・・・ありがとうございます!」



 頬を赤らめて、何度も俺にお辞儀するリズ。

 そんな彼女の横から、気怠そうに長身の青年が現れた。



「こいつは単に器用貧乏なだけさ。あんまり過度な期待は持たない方が良いぜ、班長」


「・・・・オスカー。せっかく褒めて頂いたのに、余計な水を差さないで」



 キッと、長身の青年、オスカーへ鋭い眼光を見せるリズ。

 先程から思っていたが、ルーヴェル、リズ、オスカーの3人は、出会ったばかりとは思えないほどどこか親しげな様子だった。

 もしかしたら、彼らは訓練兵になる前からの知り合いなのかもしれない。



「ひとつ気になったんだけど、3人はここに来る前からの付き合い?」


「あ、はい。実は私たち、同郷で育った幼馴染なんです」


「リズは辺境の地にある豪農の娘でな。オレとルーヴェルはその豪農の家で働いている奉公人の子供って訳さ」


「然り。我輩たちは幼い頃から日々を共に過ごし、同じ騎士になる夢を掲げてここまで来たのだ」


「幼馴染3人で騎士を目指したのですかっ! 何か良いですねぇっ!」



 そう口にし、ミトナは目を輝かせ三人を見つめる。



「幼馴染、か・・・・」



 俺はふいに、故郷の幼馴染みを思い出した。


 幼い頃から、孤児院で兄妹のように一緒に育ってきた少女。


 俺は騎士団へ入団する前、そんな彼女と喧嘩するような形で別れてしまった。

 できたら、また会って仲直りしたい。

 目の前の3人のように、彼女と俺もとても仲の良い友人だったから。



「・・・・っと、そうだ、オスカーくん。君の得意なものって何かな?」


「オスカーで良いぜ、班長。オレは弓が得意だ」


「弓! 今のところ近接武器が主流な人が多いから、遠投武器持ちの人がいて助かったよ!」



 遠くから弓で援護できる者がいるだけで、チームの練度は格段に上がるはず。

 この場に残った第2班の班員は、俺を合わせて近接が3人、オールラウンダーが1人、弓が1人。

 後は魔法が得意な者がいれば完璧だ。



「じゃあ、最後にアンジェリッタさん。貴女の得意な戦術を教えてください」


 

 部屋の隅で座り込み、今までずっと沈黙を貫いていた紫髪の少女にそう声を掛ける。

 だが、彼女から返事が返ってくる様子はまるで見られない。



「アンジェリッタさん?」



 不思議に思った俺は、アンジェリッタの側まで近付いてみる。

 すると彼女は何かの本を読み、小さな笑い声を上げていた。



「グフッ、グフフフ」


「グフ?」



 その様子に不思議なものを感じながら、俺はアンジェリッタの持つ本に視線を向けてみる。

 すると、そこにはーーーー裸の男が抱き合っている絵が描かれていた。



「え゛?」



 思わず困惑の声を上げてしまう。

 その声に気が付いたアンジェリッタは、顔を上げ俺の瞳をぼんやりと見つめていた。



「・・・・・・・・」


「・・・・・・・・」



 至近距離で見つめ合う俺とアンジェリッタ。

 そして数秒後、顔を真っ赤にしたアンジェリッタは勢いよく立ち上がると、物凄い速さで屯所から走り去って行った。



「いや、あの、アンジェリッタさん!?」


「ぴゃああああああああああああああああああッッ!!!!!!」



 謎の雄叫びを上げながら、彼女の姿は瞬く間に見えなくなっていく。

 そうしてその後、辺りに静寂が訪れた。

 誰もが目の前に起こったその出来事に、唖然として動かない。



「ん? 何だお前ら、まだ屯所に残っていたのか?」


「騎士団長!」



 突如屯所に姿を見せた騎士団長に、俺たち5人は一斉に立ち上がり敬礼をする。

 そんな俺たちに対して、騎士団長は薄く微笑みを浮かべていた。



「おうご苦労。他の訓練兵たちは皆会合を終えて、それぞれの寮で休息を取ってるぞ。お前らも第2班の寮に行って早く休むと良い」


「はい! そうさせてもらいます!」


「にしても残ったのは4人か? ロクス班長、大変だな」


「え?」


「騎士団には貴族や豪族の血族が多くいるからな。お前みたいな平民の者が上に立つことをよく思わない連中は大勢いただろ?」


「・・・・・団長はこうなることを分かって俺を班長に?」


「あぁ。と言っても、別に意地悪しようとしてお前を選んだわけじゃないぞ? 俺はお前に才能を感じたから班長に任命したんだ。現に4人も、お前を慕う奴ができてるじゃないか」



 そう言って騎士団長は、背後に並ぶ4人を指差す。

 後ろを振り返ると、彼らは俺に優しい笑みを向けてくれていた。

 その姿を見ていると、何故だか心がじわじわと暖かくなってくる。



「さて、今日はもう寮に帰って休め。明日からは忙しくなるぞ。訓練兵として目一杯働いてもらうからな」


 

 そうして、騎士団長は屯所を後にした。

 俺たちも屯所から出て、そのまま寮を目指す。



「よーし! 明日から頑張るぞーっ!」


「ミトナさん、張り切っていますね。私も負けていられません。必ずや、第2班を支えられる一柱になってみせましょう」


「はぁ。2人は元気で良いねぇ。オレはほどほどに働いてほどほどに金が貰えればそれで良いや」


「オスカー、貴様それでも騎士か! 我輩がその小根叩き直してやろう! 剣を握れ、剣を!」



 満天の星空の下、俺たちはたわいもない会話をしながら道を歩く。

 こうして騎士団へ入団を果たした記念すべき1日目は、何事もなく終わっていった。


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