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第3章 回想 騎士たちは剣を掲げる ②



「さぁ、準備は良いか? ロクス・ヴィルシュタイン!!」


「・・・・・・・・・・・」



 騎士団宿舎の前にある模擬戦闘場に連れて来られた俺は、現在、模造刀を持たされレヴィニアの前に対峙している。

 どうやら彼女は俺が第2班班長に任命されたことが気に入らないようで、決闘でその座を奪いたいようだった。



(うーむ。いったいどうしてこうなってしまったのだろう)



 そもそも、何故自分が班長に選ばれたのかすら分かっていない。

 客観的に見ても、俺は魔法の才も家柄も何ひとつ持ってないただの凡人だ。

 明らかに班長として分不相応。

 なので、個人的には班長の座を彼女に明け渡しても何の問題も無かった。

 しかしーーーー。



「ロクス、本気でやれ。でなければお前の入団は取り消しだ」



 そんな言葉が、審判を受け持つ騎士団長から飛んでくる。

 せっかく憧れの騎士団に入れたというのに、入って早々除隊は御免被りたい。

 どうやらこれは、真剣に戦わなければならないみたいだ。

 深いため息を吐きつつ、俺は模造刀を眼前に構える。



「おいおい、あいつの構え方は何だ?」


「まるっきり素人じゃねえか! あんなので名門アルケティウス家の御令嬢に勝つつもりか!?」


「剣のセンスの欠片も感じられないな・・・・団長はいったい何故あんな奴を班長に?」



 戦闘場を取り囲むようにして集まった訓練兵たちが、俺の剣の構えを見て皆口々に感想を零す。

 そのどれもが落胆の声だった。



「まぁ、その反応も当然だな」



 何たって俺は、孤児院出身のただの平民だからだ。

 剣の師事を乞う機会などある訳がないので、当然俺の剣は全て我流。

 だから、その構えが彼らにとって無格好に映るのも仕方のないこと。


 俺はレヴィニアの前に立ち、そのまま臨戦態勢を取る。



「・・・・貴様、その構えは何だ? よもやこの私を馬鹿にしているのではあるまいな? 我がアルケティウスの名を侮辱するのなら・・・・一切容赦はせんぞ!! ロクス・ヴィルシュタイン!!」



 レヴィニアが低い姿勢を作り、こちらに向かって突進してくる。

 それは、獣の如き敏捷性による速攻の一撃だった。

 的確に間合いを詰め、相手の懐に剣を放つ完璧な動作。

 体術はおろか、まともに剣の修練を積んだこともない俺に、その神速の剣閃を回避する術はない。

 喉元に放たれる剣をそのまま受け入れることしか、今の俺にできる選択肢はないだろう。

 だけどーーーーー。



「一太刀を浴びせることはできる」



 俺は回避も防御もせず、ただ上段に剣を構え、それをそのまま真っ直ぐ目の前に振り下ろした。

 すると、その瞬間。

 バキッという音を立てて、レヴィニアの持つ模造刀が真っ二つに割れていくのが視界に入った。



「えっ?」



 動揺し、硬直するレヴィニア。

 俺はその隙を逃さず、すぐさま彼女の首に模造刀の切っ先を突き付ける。

 一瞬で勝敗が決まったその交戦に、辺りはしんと静まり返っていた。



「勝者、ロクス・ヴィルシュタイン。レヴィニア、これで私の決定に異論は無いな?」



 審判をしていた騎士団長が、静寂を破るようにそう口にする。

 その言葉にハッと我に返ったレヴィニアは、歯を強く噛みしめ、悔しそうな顔をして口を開いた。



「・・・・・はい。身勝手なお願いを聞いてくださり、ありがとうございました」



 こうして、決闘は幕を閉じる。

 それと同時に訓練兵たちは皆、班決めが行われていた広場へと次々に戻っていった。

 彼らは先程とは違い、皆一言も話さず黙々と歩いて行く。

 俺もそんな彼らに見習い、そのまま戦闘場を後にした。

 だが、その時。



「待て、ロクス・ヴィルシュタイン」


「レ、レヴィニア、さん? 何ですか?」


「・・・・先程の一太刀は見事だった。悔しいが私の完敗だ」


「あ、ありがとうございます。レヴィニアさんも凄かったですよ」


「ふん、世辞は良い。お前が第2班班長なのは納得した。だが、決して忘れるな。いつでもこの私がお前の座を狙っていることをな」



 そう言って、レヴィニアは戦闘場を後にした。

 どうやら彼女の中で、俺は倒すべき相手と認定されたみたいだ。

 これから先、彼女とは幾度も競い合うことがあるのかもしれない。



「はぁ。俺は権力争いがしたいんじゃなくて、国民を守る一助になりたいだけなんだけどなぁ」



 頭をポリポリと掻き、深いため息を吐く。

 そして俺も、静かにその場を後にした。


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