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第8話 呼ばれてみたら合コンだった件

◇◇◇



 ゴールデンウィーク初日。


 僕は一念発起して、部屋の片付けをしていた。



 同じクラスのほとんどの一回生は、この連休、実家に帰るという選択をしているようだ。

 だけど、関東に実家があり、妹に蛇蝎(だかつ)のごとく嫌われている僕は、実家に帰るのを遠慮した。


 妹は、意地悪な子でも性格が悪い子でもない。

 むしろ、周りからは真面目で優しい子だといわれているようだ。

 だけど、どうしても僕を生理的に受け付けないらしい。

 いつのころからか、僕の方は断固として見なくなり、話もしなくなり、とにかく同席や接触を避け、全力で僕をシャットアウトしようとしている。


 蛇蝎っていうのはヘビとサソリっていう意味で、僕はどっちも好きな生き物だ。

 だけど無理な人には無理なんだろう。

 たぶん妹も、そんな感じで僕が『無理』になったのだと思う。

 ……考えると悲しくなってくるので、できるだけ考えないようにしている。



 話をもとに戻すと、そんな僕が部屋の片付けを始めたのは、この間の『サークルの練習途中退出事件』と、『鈴鹿尋斗くんは中身もイケメンでした事件』が関係していた。


 前者により、僕は、人とちゃんと関わっていくにはメンタルが弱すぎることを痛感した。

 人と話す機会を自分でもつくって鍛えようと決めた一方で、メンタルコントロールの一環として身の回りを整えてみようと思ったのだ。


 後者については、和顔愛語(わげんあいご)を僕は気にしていたけど、それ以上にやってる行動の中身が大事なんだなと実感もしたから。

 月並みだけど、中身がイケメンって、強いなぁと。



 ちゃんとしよう。

 自立した人間になろう。

 そう思いながら、僕は捨てるべきものをまとめた。

 うん、だいぶ部屋が綺麗になった。

 いざ、次に雑巾がけに取りかかろう。

 ……とした、そのとき。



 ―――――携帯の着信音。


(ん?)


 表示された相手は、新橋さんだった。

 新橋さんもゴールデンウィークは帰省しないのかな、そう思いながら僕は電話を取る。



「はい、神宮寺です」

『あ、もしもし神宮寺? 今日の夜空いてる?』

「えーと、はい、空いてます」



 また何か買い物かな。

 そう思い、僕は正直に予定を答えたのだけど。



『ごめん急で悪いんだけど、飲み会で1人、来れなくなってさ』


「飲み会? ですか?」



 意外な答えの上、それは僕としては不安しかなかった。



「えっと……新橋さんのご友人方と、ということでしょうか?」


『うん、そうそうー。

 予約済みだから、困っちゃって。来てよ。来れない?』


「年齢的にまだお酒は飲めないですが……」



 僕は、断る、ということが苦手だ。

 でも、一方で、この間のようなことになったらどうしよう、という不安がすごくあった。

 飲み会の席でひとりフリーズしてる奴がいたら、完全に不穏でしかない。


 そりゃ、ひとと話す練習になるかもしれない。でも。

 女の子がいたら完全に無理、だとも思う。



 ぐるぐるぐるぐる考えている間に、

『18時45分に祇園四条駅集合だから! じゃあよろしく!』

と、新橋さんに電話を切られてしまった。


(………ええ―――)


 いや確かに、当日人数減らすとかできないのだろう。

 お店の人にも迷惑だからな……。

 そう、僕はため息をつきながら、先輩に恥をかかせないような格好はしていかねば、と決めた。



 そのとき、僕は気づいていなかった。

 集合場所が、大学から妙に遠いということに。

 普通の飲み会なら、大学の回りにいくらでも飲めるお店があるというのに。



◇◇◇



 その日、19時。

 その僕の鈍さが、最悪な結果を生んでしまったことに、僕は自分を内心罵って震えていた。



「はじめましてー。○○大学3回生のミヤマサクラですー。

 今回女子側の幹事です!

 新橋くんとは高校が一緒で――――」

「同じく○○大学1回生のハシモトサキです!

 ミヤマ先輩のサークルの後輩で、今日誘ってもらってとっても楽しみにしてましたっ!」

「サクラ先輩と同じ高校出身で、△△大学2回生のナカイミワです!」

「ミワ先輩の後輩で1回生の――――――」



 すごくおしゃれで小綺麗なバーレストランっぽいお店の、なぜか個室。


 僕が座っている長椅子には、僕と新橋先輩いれて男が4人。

 テーブルを挟んで、僕の前には、女の子が4人。




「男側幹事の新橋ですー!よろしく!

 今日は俺の知らない子も来てくれて、ありがとーー!!」




 …………騙し討ちで合コンに呼ばれるなんて、バブルの頃の出来事だと思ってたのに。




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