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第62話 終わっ……たっ……

◇◇◇



「終わっ……たっ……」


「神宮寺くん大丈夫??」


「うん、生きてる……なんか信じられない。今日1日で何人に謝られたんだろ」


「1組会うだけでもかなり消耗するだろうからな。よく話したな。がんばった」



 警察署からの帰り。


 父親の運転する車の後部座席で、僕はぐったりとシートに埋もれて、同じく後ろに座った鈴鹿くんとサキさんと話している。

 綾矢は助手席に乗っていた。



(…………ほんと、信じられない)



 自分は最低最悪の見た目の最底辺の人間だった。少し前までは。


 この土地で人間扱いされることさえまだ慣れないのに……。


 親たちは、みんな最初から真っ青になって平謝りだった。


 とにかく穏便に済ませてほしいという態度で、僕が小中高でその人の子どもにされたことのエピソードを話していくと、どんどん顔色が悪くなっていった。


 子どもにも頭を下げさせようと一緒に連れてくる親もいたけれど、むしろ当事者のはずの子どもの方が警察沙汰になったという事態の重要性をわかりかねているようで、

『そうはいっても神宮寺じゃん?』

みたいな顔をして、その場で親に泣かれたり怒鳴られたり、ビンタされる子もいた。



『違うの!! 高校時代は周りがやれっていうから……本当にごめんなさい。今回はね、あまりに神宮寺くんが素敵になってたから……どうしても会いたくて……いま彼女いるの?』


『すごいね神宮寺。そんなカッコよくなれるんだったら高校時代になっててほしかったよ……だったらいじめられなかったと思う。今回のことはほんと悪かったと思う。ごめんね。お詫びに付き合ってあげてもいいよ??』


『本当は高校の頃から好きでした!』



 そんな風に謝罪のなかで口説いてきた子たちにはさすがに『頭大丈夫?』と返してしまった。



 …………ちなみに途中、明王寺さんから電話がかかってきて、誰がどういう態度だったかを細かく聞かれて、同級生と保護者両方について詳しく話した。


 話した結果

『わかった!ありがとう。追加制裁を考えるね』

とサラッと言っていたので、何が起きるのか恐いんだけど、考えないようにしてる。



「……………………賢一郎」



 呼ばれ、バックミラー越しに父を見る。



「悪かった。本当に、申し訳なかった。何にも気づけなくて」


「ああ、うん…………こっちももっと頼ればよかった」



 これは嘘だ。


 今回周りのみんながうまく警察沙汰にしてくれたから信じてくれたのであって。

 あの頃に僕だけの言葉で両親にそれを伝えても、信じてもらえなかったんじゃないかなと思う。


 忘れたかった過去に向き合うと、自分がされてきたことがいかに酷かったか気づかされて、気持ちが重くなる。

 あのときは慣れたように過ごしてきたそれらの記憶が、まるで解凍されたようにいま思い返す方がずっとつらい。長年麻痺させられていたせいなのか。


 ネットでよく聞く、

『被害を受けた直後にはそれが被害だったとわからなくて、何年とか何十年もしてからようやくそれが被害だったと気づいて声をあげる』

っていうのは、こんな風に何かのきっかけで痛みが“解凍”されたのだろうか……。



「まだしばらく続くんだろうが、これから先、親同士で話すから。本当にごめん」


「うん。いま危ないのは僕じゃなくて、ここにいる綾矢の方だから。しっかりあの人たちと話をつけて」


「わかった。…………友達がたくさんついてきてくれたんだな」


「…………うん。みんな京都でできた」


「そうか…………ごめんな。良い友達ができて、よかった」



 昔、悪気なく『うちに友達とか連れてこないのか?』と尋ねてきたことでも思い出したんだろうか。



「あとのことは、父さんと母さんが責任もってやるから。賢一郎は京都でしっかり勉強してこいよ」


「…………うん」



 陳腐で表面だけを気づかったような会話だけど、僕は、全然それで良かった。



 ─────こうして僕の地元での一騒動は、一応の決着をみたのだった。



◇◇◇

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