第61話 親たちと、対話する。
◇◇◇
少し警察の人と話してから、僕と綾矢は警察署に行くことになった。付き添い兼護衛として、サキさんと鈴鹿くんもついてきてくれる。
また、当然、玄関ドアの外で騒いでいた奴ら(みんな男子だった。女の子たちに使い走りさせられたらしい)もパトカーに乗せられ、僕たちと同じ警察署に向かった。
警察署についてからは、同級生たちと顔をあわせなかった。
ただ、明王寺さんの手が回ったのだろうか? 移動中に廊下を歩いていると、青い顔をした見覚えのある同級生の女の子たちが何人も警察官と歩いていくのを見た。
彼女たちが、男子に綾矢を脅させたんだろう。
そしてたぶん、みんなの保護者(←18歳を越えていてもこう呼ぶんだろうか?)も今日のうちに呼び出されるのだろう。
「……綾矢、大丈夫だった?」
聴取が終わって廊下で待つ僕たちのところに帰ってきた綾矢に声をかけると、こくんとうなずいた。
「えっとね、今日のことと、この前のことと、それから脅迫メッセージのことと……。
順番飛んだりいろいろまとまってなかったけど、警察に言いたいこと、全部言えた」
「そっか。がんばったね」
僕の聴取はもう終わっていた。
話したのは、彼らが同級生だったこと、それからかつて同級生たちにされたこと、言われたこと。
…………それからかなり長い時間、僕たちは警察署で過ごした。
駐車場からあわてた様子で走ってくる大人が何人もいた。同級生たちの保護者たちだろうか。
うちの両親には電話で僕から報告し、相談の上で、被害届を書いた。
父親が仕事を早退して、迎えに来てくれるそうだ。
「……嫌がらせとか迷惑行為って、被害届を出しても警察の中での優先順位低いっていうけど、なんか今回しっかり捜査してくれてるね?」
「現行犯だからじゃないか?」
「まほちゃんの人脈の効果だったら、ちょっと恐いね」
鈴鹿くんたちと話しながら、僕は反省していた。
感覚が麻痺してしまって、異常な目に遭っているとわからなかったことだ。
せめて、高校の頃におかしいと声をあげられたら、綾矢をこんな目に遭わせずに済んだだろうか。
味方が誰もいなかったから、どのみち無理だっただろうか。
「…………あ、あの、神宮寺くんかな……?」
声をかけられた。
顔を上げると、見知らぬ男性がそこにいた。うちの父親と同じくらいの歳だろうか?
汗だくで、ハンカチで汗を一生懸命吹いているのに汗があとからあとから吹き出ている。
「…………の父親です。
その、うちの息子がご迷惑をおかけしたそうで申し訳ない。
ご両親は、その……ご在宅かな?」
名前と顔が一致する程度には覚えている同級生の名前を出された。
大事になったことに、不意におびえそうになる自分がいる。
違う。うやむやにされないことが大切なんだ。
「仕事です。父は早退してこちらに向かうと」
「そ、そうですが。
ではお父さんの方にも……」
「うかがってもいいですか?」
深く息を吸って、吐く。
綾矢も鈴鹿くんもサキさんもいる。
言える。
「『おまえの顔を見ると体調が悪くなる』『存在が気持ち悪い』『生きていない方がいい不細工』という言葉は、中傷だと思いますか?」
「!? あ、ああ」
「それらを、1人の人間が大勢から継続的に言われたら、それはいじめだと思いますか?」
「そ、そう、言わざるを得ない、ですね?」
「…………くんが、よく僕に言ってきた言葉です」
「!!」
「問題の根っこがどこから始まっているか、わかっていただければと思います」
「それは…………」
しばらく言葉に詰まり、僕を見つつも時折目を閉じて、悩む男性。
「…………それは、怒って当然だね。
親として知らないまま、止められず、すまない」
僕と話して、被害届を取り下げてもらうとか穏便にすませてもらおうと考えていたのだろうか……?
男性は、深く息をついて、もう一回深々と頭を下げた。
「…………あの、神宮寺賢一郎くん……?」
また別の、今度は女性が声をかけてくる。
「私、…………の母親なんですけど、その、今回迷惑をかけたみたいで」
────わかった。もうこの際何人でも保護者たちに話してやろう。
僕は失った過去を取り戻すつもりで腹をくくった。
◇◇◇




