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第6話 女の子恐怖症で自滅してひとり反省会。

◇◇◇



 数十分後。

 今日のサークルの活動場所である、鴨川(かもがわ)河川敷(かせんじき)芝生(しばふ)にて。



「……え~と、どしたの神宮寺?」



 新橋さんに怪訝(けげん)そうな顔をされたけど、のどが詰まって言葉がでてこない。


 わー、なんか女の子がたくさんきたー、かわいー、と、高揚した気分になったのは、ほんの一瞬だった。


 すぐに、『現実』を思い出した。


 僕は、女の子に笑いかけてもらえる側の人間じゃない。

 小中高、それはずっと変わらなかったじゃないか。


 ―――唇がキモい。

 ―――全体的にキモい。

 ―――キモいくせに面食い。

 ―――背が高くて恐い。


 言われた言葉の数々を忘れられない。

 動揺のあまり血の気が引いてしまったのが、自分でもわかる。

 いや、動悸がひどい。

 胃がぐるぐるする。

 吐きそうだ。


 同じ場に、女の子たちがたくさんいて、顔をあげると目があってしまう。

 この僕が、視界に入ってしまうんだ。

 それが恐くて嫌で、僕は彼女たちに背を向けて芝生の上に体育ずわり、動けないまま、新橋さんの方を、ずっと向いていた。


 どうして、自分がこんな状態になっているのかわからない。

 僕は、友達を作りたかったんじゃなかったのか?


 でも、恐い。

 心臓を悪魔にぎゅっと掴まれたように、恐くて、息苦しい。



「あ、あのね!

 ここで活動する日は、柔軟性強化の日やねん。

 芝生の上でストレッチしたりとか……」


 

 背を向けた方から、水上さんの声が聞こえる。

 女の子の見学者たちを応対しているのは水上さんと、部長、その他先輩たちだった。


 だめだ。僕ももう入部した部員だ。

 一緒に働かないと。

 だけど。


 女の子のかん高い話し声が恐い。

 女の子の笑い声が恐い。

 女の子の視線が恐い。

 恐い。

 恐い。

 恐い。



「…………神宮寺くん」



 気がついたら、後ろに水上さんが来ていた。

 息苦しいのが伝わってしまったのか、僕の背中に手を伸ばして、撫でてくれた。

 女の子は恐いけど、水上さんは恐くない。

 だけど、恥ずかしさで顔が熱くなる。



「ちょっと、荷物持って、来て」

「はい……?」

「いいから」


 よくわからなかったけど、靴を履いて水上さんに促されて、僕は河川敷から上がった。


「え、なに、水上……?」


という、新橋さんの声も無視して。なるだけ、周りの人を見ないように、僕はついていく。また猫背になっているけれど、そこはがんばれなかった。

 水上さんが僕をつれて行ったのは、近くにある、こじんりとしたカフェだった。


「え、あの……?」


 ぐいっ、と店に僕を押し込むと、水上さんは僕を椅子に座らせ、僕の手に1枚、千円札を握らせる。



「あんなぁ、まず、なんでもいいから、一杯飲み?」


「え………」


「温かいものがいいかな。

 飲んで、休んどき」


「え、いや、でも、新勧が……」


「好きなだけ休んでから、来れるって思ったら来て。

 人集めてくれただけでも、もう仕事してくれてるから」


「集めて……?」



 僕が人を集めて、とはどういうこと?

 首を捻る僕に、水上さんは微笑んだ。



「大丈夫。じゃあ、私は行くな?」



 ぽん、と、僕の肩に手をおいて、水上さんは店を出ていった。

 一転、僕を静寂が包む。

 僕は手に握らされた千円札を見つめた。

 何か飲み、と言われて渡された。

 先輩のお金、悪いと思いながら、言われたことにはそのまま従ってしまう性質の僕は、カフェラテを注文する。



 ―――なんでこんなことになったんだろう。



 僕はカフェラテの表面がくるくると回るのを見ながら、さっきまでの自分の状態を振りかえっていた。


 今日来た女の子たちは、誰も僕のことを知らない。

 水上さんと新橋さん以外の、他の先輩たちともあんまりまだしゃべってない。

 いちから友達になることだって、できるはずなのに。


 窓ガラスに映る、僕の顔。

 吐き気がするほど大嫌いな僕の顔。

 でも。今までと少しだけ違う僕の顔。

 変えてくれた部分は、僕じゃなく、先輩の手がしてくれたことだ。



 …………僕は、ぐいっとカフェラテをあおった。



 なんのことはない。

 僕は目の前の人を見ておびえたんじゃない、過去の同級生たちにおびえただけだ。


 甘えるな。甘えるな、バカ。もともと最底辺だろう。

 思えば、大学のクラスでだって、講義でだって、入学してから1か月あったのに、誰ともろくに話さなかった。

 誰ひとり僕のことを知らない場所だったのに。

 文学部だから、クラスには女子も多かったのに。

 自分で自分を変えようともしないで、先輩に優しくしてもらって、おんぶに抱っこか。甘えるな。



 僕は、そんなおまえに一番吐き気がする。



 腹をぎゅっと押さえ、僕はカフェラテを飲みほした。


 サークルの場所に戻ろう。

 でも、今日はうまくできない。それはわかる。

 だから、明日から、別な努力をするんだ。

 うまくできるようになるよう、少しでもマシになるよう、一歩一歩。

 やれることはまだある。まだあるんだよ。

 絶望するのは、それをやってからだ。



◇◇◇

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