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第51話 察してちゃんのつもりはなかったのに。




「……いま、何か困ってるか?」


「え!? いや、なんで!?」



 大きな画面のカラオケリモコンとにらめっこしていたら、鈴鹿くんにすっと話しかけられた。

 なぜ今。いや、困ってはいるけれど。


 魔法がかかったような鈴鹿くんの漆黒と紺碧の瞳が細かに動きながら僕を注視していて、まるで、僕の目玉を通して中身を見てるみたいに見える。



「さっきから目が泳いでる」


「へ? え、そんな、別に……」


「明らかに困ってる目をしていて否定されても、こっちも困るんだが。心の中を読めるわけじゃないから、言ってもらわんとわからん」


「……ごめん、その……」



 顔が熱くなる。


 本当に、助けてもらうつもりはなかったし、何か自力で打開する道はないかと模索してたつもりだったのだけど、見ていた鈴鹿くんからすれば、何かがあるとバレバレだったのか。そして、困らせてしまうものなのか。


 こういうの、思い切り察してちゃんっていうやつじゃないか。うわー恥ずかしい。



「や、曲どうするか、考えてただけだから。

 すっ……鈴鹿くんは何、いれるの。先いれていいよ?」


「ん」



 ……もう、ここは鈴鹿くんが入れた歌を参考にしよう。


 あるいは、もし奇跡的に僕も歌える歌だったら一緒に歌わせて……いや、それは失礼か。

 とにかく少し時間を稼ぎたい。

 そう思いながら、鈴鹿くんにリモコンを差し出す。


 鈴鹿くんは曲をだいたい決めていたらしい。



 さくさくと曲名を入力する。



 《ささきいさお『銀河鉄道999』》



 二度見した。



 《ささきいさお『銀河鉄道999』》



(…………ありなの?)


 いや、鈴鹿くんなら人目も気にせずいれていても驚かないけど。

 大学生のカラオケで、懐メロにカテゴライズしてもいいぐらいのアニソンは大丈夫なの?

 曲名が画面に表示されたけれど、特に他のメンバーは驚いていない。


 なら問題ないということなのか?


 ということは……。


 リモコンを再び手に返された僕は、頭の中にあるありったけの歌を検索しはじめた。


 みんなも知っているだろう曲で、僕が歌ったことがあって、いまでも歌えるだろう曲……。


 合唱曲?

 ……いや、さすがにそっちはないか。


 アニソンだと……そうだ、子どもの頃に見ていたあの長寿アニメの主題歌なら、僕もよく歌っていたし、女子に人気のはずだから……。



「そういえば神宮寺くん何うたうの!?」



 横から急接近してきた女の子に慌てて体を避けたその時。

 ぽち。

 と指が何かを押した。


 曲の予約ボタン。

 そう。最近のカラオケリモコンは高性能で、画面の端の方に、さっき予約した曲について、

『この曲を歌っている歌手の他の曲』

が表示されたりする。


 それを僕は押したわけである。



 曲目 《ささきいさお『宇宙戦艦ヤマト』》



「…………しまっ」「あ、曲いれた? じゃあ貸して?」


 予約を取り消す間もなく、鈴鹿くんの向こう側にいた女の子に、リモコンを奪い取られてしまった。そして次の人が歌い始める。歌をさえぎるのが申し訳なくて口をつぐむ。

 接近してくる隣の女の子の胸に腕が当たらないよう身を細くするのでせいいっぱいだ。


「………神宮寺。なにか今ものすごく困ってるか?」


「あはは………いや、何ていうか」


 なんといったらいいのかわからなくて、もはや笑ってしまう。


「鈴鹿くん、ひとつ頼っていい?」

「ん?」

「……僕、男でこの身長なんだけど、低いキー出ないから、一緒に歌ってくれない?」



 苦笑いして、鈴鹿くんはうなずいた。



◇◇◇



 それからしばらくカラオケをし、他の人が歌っているときに一緒に歌えば練習になるじゃんということを発見した。


 あと、鈴鹿くんは神の喉だった。


 ………イケメンで硬派で空手が強くて歌が上手いって、天は彼に一体何物与えているんだろうか。

 そのぶんお金に困ったりストーカーに悩まされたりでバランスをとっているということなのか。



「なぁなぁ。またこのメンバーで遊びに行こうよ!」



 カラオケが終わって店のそとに出たとき、新橋さんがそんなことをいうんだけど、このメンバーって一体どういうメンバーと呼べばいいんですか。



「海がダメだったら花火とか!」

「そうですねー。どこかお祭りとかないかなぁ。

 神宮寺くん、ずっと実家に帰らないんだものね?」



 新橋さんの言葉に乗っかるサキさんに、僕はうなずいた。



「鈴鹿くんとおんなじでずっと京都。16日は一緒に大文字見ようって話してた」

「ほんと!? 大文字、あたしも一緒に見たい!」

「ええと……」



 鈴鹿くんはどうだろうかと尋ねようとしたその時、僕のポケットのスマホが震えた。

 引き抜いたスマホの画面を見ると、電話着信だ。それも、実家から。



「………?」



 実家に何かあったんだろうか。

 微妙に嫌な予感がしながら、僕は電話に出る。





『………………あ。おにいちゃん?』


「………………………」



 僕のことを嫌ってずっと口も聞かず露骨に避けていた妹だった。



 いったい、なぜ?

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