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第35話 テスト帰り、明王寺さんに拉致される。

◇◇◇



 祇園祭宵山から10日が過ぎた、7月末。

 大学はテスト期間に入り、うちのサークルも活動が休みになっている。


 その日のテストすべてを終えた僕は、自転車を置いている学生食堂に向かって歩いていた。



「神宮寺クン」



 歩いていた僕の前に、特徴的な声の女の子が立ちふさがった。


 華奢な体、きれいな黒髪に、猫系の美貌。

 今日はノースリーブのボウタイブラウスにコルセットと、ふわりと広がる黒のスカート。明王寺まほろさんは今日も、スリーサイズのコントラストをファッションで強調していく主義らしい。



「……明王寺さんも全学共通科目(ぜんきょう)の試験?」


「ううん? 神宮寺クンが取ってる講義の試験スケジュールから分析して、今日はこの時間にここを歩いて通る可能性が高いと判断したの」



 待ち伏せは迷惑防止条例違反って三条さんが言ってたけど。

 むしろなぜ僕の取ってる講義を知ってるのかの方が気になるけど。

 ストーキングを堂々と公言するのもどうかと思うけど。

 そのあたりもろもろ、今日は言葉にするエネルギーがない。



「『こんなところで会えるなんて運命だねー☆』とか言った方が良かった?」



 ぶりっ子ジェスチャー&作り声で明王寺さんは言ってくる。


 顔は美少女だし表情のつけ方もアニメ声も上手いから、うちの先輩たちには好評なんじゃないかな。


 この前、三条さんにガッツリ〆られたって聞いているけれど、今日もいつも通りだな。



「……そうだね、じゃあ」



 明王寺さんの横をすり抜けて僕は歩く。

 後ろから、明王寺さんにぐわっと腕をつかまれ引っ張られた。



「神宮寺クン。どうしたの?

 なんだか、今日は魂が抜けているよ?」


「ああ……大丈夫。

 人面の鳥になってそのうち戻ってくると思う」


「……キミ、いつからエジプト人に?」



 むしろいま抜けてるのはバー()じゃなくてカー(精神)かもしれないけど、まぁ、心配されなくても生存はしているので大丈夫です。


 無気力な僕に、突っ込みではなくボケに回られてしまった明王寺さんは、とてもやりにくそうな顔をしてる。

 困った顔。ごめんね。屈原の詩でも唱えてるよ。



「顔色が悪い。食べてる? 寝てる?」


「生存できてるから大丈夫だってば……」


「……なにが、あったの? サークルの誰かとか……」


「なにもないし、しばらく誰にも会ってない」



 気力がわかなくて、橋本さんにも誰にも、ずっと会わないようにしてる。



「鈴鹿尋斗が、また何か!?」


「ああごめん、鈴鹿くんとだけは、顔合わせてる……」



 同じクラスだし、テストかぶるし。


 明王寺さんは、何かこらえかねたように、僕の手をとる。

 その手のひらを、自分の胸に押しつけた。



(…………あれ。いったい何やってるんだろう、この子?)



 無気力な僕の頭は、人目を集めながら明王寺さんが何をやっているのかわからなかった。


 手のひらに、まあるい、今まで触ったことのない何かがあるのはわかったけど、どういう感触でとか、何も感じられなかった。



 僕の手を自分の大きな胸に押しつけながら、僕の目を探るようにしばらく見ていた明王寺さんだけど、途中から深く息をついて、やがて手を離した。


 そして背伸びした明王寺さんは、ぺしり、と僕の頬を一発平手打ちする。全然痛くない。むしろ華奢な明王寺さんの手の方が痛いのでは。

 その手は、ぺしり、ぺしり、とさらに往復する。

 うん、何度やっても全然痛くないんだけど、本当にこの子、公衆の面前で、いったい何をやってるんだろう……?



「神宮寺クン、おいで」


「……え」


「いいから。ボクのうちにおいで」



 明王寺さんはタクシーを止めると、ドアが開いたとたん、僕の体をその中に突き飛ばした。



◇◇◇

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