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第15話 たまには『役目』を放棄したい日もある。

◇◇◇



 ――――逃げよう。


 サークル新歓コンパの終了時間寸前、ようやく僕はその決意を固めた。


 さすがに、お酒まで強いられると、色々と無理だ。

 前みたいに精神面で限界を迎えて、フリーズすることになってしまうかもしれないし。

 新入生女子をつなぎとめるという役目が僕にあるとしても、新歓コンパの今日だけは、逃げても許してくれるんじゃないだろうか。みんな入部届け出した直後だし。



 腹を決めると、どうしたらいいか色々頭が働き始めた。


 たぶん、明王寺さんは、1回生全員には二次会のことを言わないはずだ。

 どうにか一瞬の隙をついて、明王寺さんと、その周りの二次会の話を聞いていた女の子たちから、逃げなきゃ。



「――――神宮寺クン、どこ見てるのかな?」



 グイ、と、明王寺さんが僕の腕を引っ張ってきた。

 逃すまいとばかりに、多きな胸の谷間に僕の腕を挟むようにしながら、しかも、ひそかにロングスカートの下のやわらかいふとももで僕の手の先を挟みながら、がっちりと腕を組む。



 いや、ちょっと、あの………!?

 どこに挟んでるんですか!?


 しかもまた、周りの空気がピキッと凍っているし、どうしよう。。。



「あと10分で終了だから、撤収準備はじめてくださーい!」

「勝手に追加オーダーしたやつ、その分の金払えー!」



 少し離れたところで、さっきのメガネの1回生男子と、幹事の女性の先輩が声を張っている。僕も手伝う側に行きたい。ていうか、ここから離れたい。誰か助けて。



「え、飲み放題の範囲外の、追加オーダーですか?」

「そう。なんか、よくわからんカクテルを頼んだ奴がいて……」

「あ、大丈夫です、俺、これさっき頼んでた人知ってます!」

 


 僕が心中でSOSを出していたのが届いた、というわけじゃないだろうけど。

 幹事の先輩と話していたメガネの彼が顔を向けたのは……僕の方だった。

 いや、僕の腕に絡みついている、明王寺さんだった。



 ………ん?

 ということは?



「明王寺さん、さっき飲んでたアレって、飲み放題の範囲内?」

「…………………………」 



 一転。

 あっちを向いてしまった明王寺さんは、僕の問いかけにも、だんまりで答えない。

 この子、都合悪くなると黙るタイプか?



「明王寺さーん。さっきグラスホッパー飲んでたよね?

 追加料金ぶん、払ってね?」



 幹事サイドににこやかに声をかけられ、明王寺さんはしぶしぶ、僕の手を放し、立ち上がり、自分のバッグを取りに向かう。

 チャンスだ。

 僕は荷物をさりげなく持つと、早めに出るふりをして個室の外に出た。



 ――――新入生は今回(基本的には)おごられる側だ。

 僕はもうお店の外に出てしまっても大丈夫だろう。

 先に帰ったということだけ、新橋さんに連絡いれておこう。


 そう、思って、個室を出た。

 そして、通路を少し歩いて、ひとつ僕は自分のミスに気がついた。

 店の構造がいりくんでいて、どこが出口かわからない!?


 途方にくれて立ちすくむ。

 そこに。



「神宮寺くん、こっち、こっち」



 聞き覚えのある声を僕にかけてくる人がいた。



「橋元さん?」



 声のする方を見たら、橋元サキさんが、ある一本の通路で、手招きしてる。

 いつの間に橋元さんも外に出た?



「お店の出口はこっちだよ」



 僕は彼女が手招く方にむかう。

 たしかに、入店の時見た入り口がそちらにある。ホッとした。これで明王寺さんたちに捕まる前に、帰れる。



「ありがとう! 助かった…!!」

「どういたしまして。

 その代わりに、ひとつお願い聞いてもらっていい?」

「え? 僕にできることなら、いいけど………」



 橋元さんは続けた。



「ね。このあと、ちょっとおしゃべりしよう?」

「………!?」



◇◇◇

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