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第14話 お酒とタバコは二十歳から。

◇◇◇



「―――――いや、なんでみんな飲んでるの?」


「え? 逆に、なんで飲まないの?」



 おかしいな。お酒とタバコは二十歳からだった気がするんだけど、僕の周りの一回生女子全員がアルコール系飲料を注文している。

 確か浪人して入った子はほとんどいなかったはずだ。


 これはいったい?



 いま、僕たちがいるのは、新歓コンパの会場の居酒屋だ。宴会用の、座敷の形になった個室で、テーブルの下は掘りごたつのように足を下ろせる形になっていた。



 まともに飲み会という場に参加したのは初めてで、マナーを色々予習した上で望んだ……のだけど、目下それを発揮する機会はなかった。

 僕の周りには、女子たちが綺麗に取り分けてくれた料理があり。

 いつの間にか誰かが換えてくれた新しいおしぼりがあり。

 これもいつの間にか誰かが換えてくれた小皿があり。

 ――――いったいどこのVIPだ?

 と突っ込みを入れたくなる状況にあった。



 そんなにこちらに気を使わないでほしいと、みんなに言おう言おうと思いながら、悶々としていたときに。


 僕の飲み物(ウーロン茶)が空になり。


 ピッチャーをスタンバイした山田さんにビールを注がれそうになって、断ったことからお酒の話になり、僕はその時やっと、みんなお酒を飲んでいることに気づいた(遅い)。

 もうそろそろ飲み放題のラストオーダーの時間なのに。



 さっき僕に、『なんで飲まないの?』と突っ込みを返したのは明王寺まほろさん。

 流してくれても良かったのに、じっと僕の答えを待っている。

 僕が聞いたこともない名前のカクテルを両手で握りながら、猫のような目で、長い黒髪を揺らし、じっと僕を見つめて。



 なんでと言っても、当たり前すぎる理由なんだけどなぁ。



「……あのさ、法律で禁じられてるし、特に飲みたいと思わないし、飲んだこともない」


と、すごく当たり前じゃないの?と僕が思う答えを返す。

 これで、納得してくれるよね?と思ったら。


「そうなの?」

「ずいぶん真面目なんだね」

「もったいない。飲もうよ。

 飲んだことないならちょっとぐらい試してみたら?」

「ね。ね。これ、飲んでみる? 美味しいよ?」

「絶対飲まず嫌いだよ!」

「…………………」



 謎に周囲からぐいぐいとお酒を勧められる。



 ………え。みんな高校の頃から飲んでたの?

 なんでそんな当たり前のことのように勧められるの?


 確かに僕は、お酒は飲んだことないけど、まぁいつかは飲むんだろうなとは思っていたけど、いまか。いま勧められるのか。法律を破るのは罪悪感がきつい。困った。正直困った。



 ――――とか、思っていると。



 僕の手元に「はいウーロン茶お待ちー」と、差し出してくれた人がいた。


 橋元さんだ。どうやら店員さんから受け取って持ってきたらしい橋元さんは、手渡しながらニコッと微笑む。

 地獄に仏。

 僕は思わず少し大きな声で「ありがとう!」と言ってしまった。


 ピキッ…………


 しまった。


 僕の背後の空気が凍った、のを感じた。

 僕の悪いところで、空気を読んだり機転を利かせるのは苦手なくせに、こういう、空気の悪化だけは、敏感に察知してしまう。

 だから、誰かひとりに特別好意を示すような言動はしないようにずっと気をつけていたのに。



「ねーぇ、神宮寺くん……」



 橋元さんにかなり対抗心を抱いているらしい明王寺さんが、つつつ、と僕の背中を指でなぞってきた。


 どうしよう、この空気………!!!



 ――――――「はい、かいしゅー」



 僕の胃がきりきりと痛みだしたとき、明王寺さんの手からカクテルを奪い取った手があった。



「え……なっ!?」


「ごめんねー。サークルの飲みで未成年者が酒呑むな、呑むならプライベートでやれ、って、今日の幹事からのお達しでーす」



 動揺する明王寺さんに、穏やかでまじりけない笑顔で言ったのは、メガネをかけた男子だった。確か、僕と同じ一回生。名前は…ええと…。



「……な、え?」


 動揺する明王寺さんに、彼はニコニコ続ける。


「あと、呑みたくない奴に呑ませてたら、幹事自ら制裁だそうですので」



 今日の幹事は、厳しい&恐いことで定評のある女性の先輩だったからだろうか、女の子たちは彼の言葉に、うぐ、っとつまったような顔をするなり、次々にグラスを置いていった。


 そして回収担当?の彼は、じゃーねー神宮寺ー、と手を振ると、すぐ他のところに回っていった。


 サークルもプライベートといえばプライベートなのでは……と心のなかでそっと突っ込んだけど、とりあえず、幹事の先輩には感謝。



 と、僕が思っていたら。


 しばらく悔しげに爪を噛んでいた(ネイル欠けるけど大丈夫なのかな……)明王寺さんが、ふと、気がついたように、


「プライベートなら、問題ないんだよね?」


と、不吉なことを言い出した。



「いやいや、20歳未満だからね!?」


「いまきめた。一回生だけで二次会するから。

 神宮寺クン、来るよね?

 ボクが幹事やるから」


 独特な色のネイルが入った手で、僕の顎をクイッと上げながら(明王寺さんの方が小さいから意味ないんだけど)、毒々しい笑みで彼女は言った。



◇◇◇

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