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第1話 この世の地獄にいらっしゃい。



 この世界には、見た目が10割(ルッキズム)という地獄がある。






 僕、神宮寺じんぐうじ賢一郎けんいちろうは、物心ついた頃からその地獄の釜の底でジリジリと焼かれていた。


 小学校。

 中学校。

 高校。

 教室のなかのその地獄は、ずっと変わらなかった。




「この間、神宮寺に告られたんだけど、本当にキモくてヤバかったぁ!!」


「あいつ、あの見た目なのに、面食いだよねぇ。その上、見た目おとなしい系が好きってわかりやすすぎ」


「体大きいでしょ? 本当に恐くて、2人きりになんてなったら何されるかわからないから、友達3人ついてきてもらっちゃった」


「去年の○○さんの時は、明らかに告白だっていう呼び出し方されたから、無視して行かなかったんだって。正解だよねぇ」


「同じ○組の陰キャだったらせめて、○○くんだったら良かったのにね」




 気にしなければいい、とか、見て見ぬふりをすればいい、と、人は簡単に言うけれど。

 どうしても聴こえてくるものを、どうしたら知らんぷりができるのか、それは誰も教えてくれない。


 言葉にしてしまえば、きっとくだらない。

 だけどどうしても消せない。

 自分への絶望。

 勝手に評価される憎しみ。

 誰かへの嫉妬の炎。



 どんなに勉強をがんばっても。

 どんなに苦手な体育もがんばっても。

 どんなに趣味を隠しても。

 どんなに嫌われないように努力しても。


 結局、僕よりも、容姿が良い誰かが選ばれる。



 せめて、僕がもっと小柄であれば、恐がられることはなかっただろうか。

 せめて、優しい顔立ちであれば。

 せめて、もっときれいな二重まぶたであれば。

 せめて、もう少し顎が短く丸ければ。

 せめて、鼻の肉がもっと薄ければ。

 せめて、唇がこんなに厚くなければ。

 せめて、変なところにほくろがなければ。

 せめて、髪にへんな癖がなければ。


 朝起きたら、その、どれかひとつでも直っているような、奇跡が起きてほしい。

 何度そんな不毛な願いをしただろう。



 そのくせ、僕自身が惹かれてしまう。魅力的な女の子に。

 自分が見た目で評価されて苦しんでるくせに。



 恋なんて、厄介でどうしようもなく醜い。

 消えてなくなればいいのに、消せなくて苦しい。



 自分もまた誰かを顔で、見た目で判断してしまう。

 そして、ふと、見た目で他人を選んでいる自分自身に、意識が戻った一瞬。

 妬んだ誰かへの密かな呪いが、憎んだ誰かへの言葉にしなかった非難が、すべて僕自身に返ってくる。




 ルッキズムの真の地獄はそこだと、僕は思う。




 僕、神宮寺賢一郎は、キモい。




 それは産まれてから18年間、動かしがたい事実だった。




 そう、紛れもなく。動かしがたい事実のはず()()()のに。



◇◇◇



 5月のゴールデンウィーク明け。

 18歳と4か月、大学1回生。京都の某大学。

 スポーツサークルの活動中の、体育館の中。


 いまの僕の目の前には、女の子たちがたくさんいる。

 笑顔のキラキラした、かわいい女の子たちが。


 本来は僕のことなど、視界の端に入ったハエぐらいにしか思わないはずの、かわいい女の子たちが。



「神宮寺くんって、本当に背が高いよねー」

「何センチあるの?」

「文学部なんだ! 何組? 私の友達と一緒かも!」

「どこ出身? わー近いよ! 高校時代にすれ違ってたかもね!」

「ねぇねぇ、第2外国語なににした? 同じ先生だったら一緒に勉強しない?」



 悪魔に魂を売ったわけではない。

 何か、おかしな薬で洗脳したわけでもない。





 一体。

 な に が ど う し て こ う な っ た 。








◇◇◇

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