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短編

雨の思い出、幸せを掴むまで

作者: 佐野義鷹

壊れて歪んだ窓の外では雨が降っていた。思い出せばあの日も雨が降っていた。俺とアイツ、二人して雨と涙に濡れながら別れを告げたあの10年前のあの日もこんな嵐のような空だった。


今でも思うことがあるあの時もう少し俺に自信があれば、もう少し勇気があればアイツは今も隣に居てくれたのかもしれないと。あの日の2ヶ月前、俺は留学すること、遠距離恋愛は不安だということをアイツに告げた。アイツは留学を応援してくれたし遠距離が不安だという俺に毎日電話するからと言ってくれていた。それに前日まで留学の準備なんかを手伝ってくれていた。そうして当日になり、前日は夜遅くまで電話していたのに空港まで送りに来てくれたアイツにしばらく会えない寂しさから「ここまでありがとな、じゃあ言ってくる」と目も合わせないで素っ気なく言ってしまった。多分、歯車が狂い始めたのはこの時だろう、彼女に送って貰えて浮かれていた俺と送りに行ったのに素っ気なく突き放されたように感じていたアイツ、そこからアイツの心が離れていったんだろう。


留学先に着いて早速アイツに電話するといつもと変わらない朗らかなアイツの声が聴こえた。それにホッとして済ませてもらうホームステイの人の話や飛行機から見た日本の感じだとかを話してていると空港で素っ気なく言っていたことに気付き謝った、でも一度疑われるとなかなか信用してもらえないのが人間だ。電話では「分かってる、平気よ」と言ってくれたことに安心していたが、心のなかでは忘れていたことに気付かれていて自分のやったことを忘れていたことに事に悲しみを覚えていたアイツに気付かなかった。その結果、毎日の電話もだんだん事務連絡のようになったり、30分話していたはずが5分もせずに終わったりするようになった。


「貴方が嘘ばっかりつくから」

それがなんで最近そんなに素っ気無いんだ、と聞いた俺に帰ってきた言葉だった。いま思えばそのとおりだが、その時の俺は初日の電話、特に後半の嘘をついた部分はすっかり忘れて留学を楽しんでいたから笑って「そんなこと無いさ」なんて言ってしまった。するとアイツは当然怒り、電話を切ってしまった。そんなアイツになんで切られたのだろうと思いながら再度かけ直そうとすると着信拒否されていた。メールやラインも通じず仕舞いだった。

これが決定的となり、完全に悪いのは自分だったが二人の間に壁が完全に出来てしまった。


翌日、メールにもラインにも返信がなかった事に不安を覚え電話をするも、着信拒否のままにされていることに慌てて飛行機に飛び乗ってアイツと直接話そうと帰ってきた。久しぶりに帰ってきた街には嵐のように大雨が降っていた。

アイツの家の前に着くと丁度アイツも家を出るところだった。

よお、なんで着信拒否にしているか教えてくれよ、それにメールもラインもなんで返信してくれないんだ。そんな自分勝手な事を言おうと口を開こうとするとアイツは久しぶりに会った俺を無視してそのまま出掛けに行こうとした。無視されたことに憤った俺は気づけばアイツの肩を掴み罵詈雑言を投げ掛けていた。それに対するアイツの返答は頬へのビンタ、それで冷静になった俺はなにも言えなくなり立ち去ろうとするアイツを追おうとすることも出来なかった。

そんな俺にたいしてアイツは落とした傘も拾わずに留学中、俺のしてきた事を話し始めた。

途中から涙声になるアイツの言葉に段々自分のやって来た愚かさを感じ始めると俺も情けなさで涙が出始めた。

アイツの話がおわり、泣きながら謝ったがアイツは「もう、遅いのよ。もう貴方を信じることができない」と言って泣き崩れた。


アイツに別れを告げられ、途方に暮れながら帰ろうとすると財布が失くなっていた。アイツに聞いたが知らなかった、家族はもういないから留学先に帰ることも出来なくなってしまいそのまま退学させられてしまった。

そうして、全てを諦めてしまった俺は雨に打たれながらさ迷っていると俺の家に着いた。懐かしい思いに駆られて家に入ると埃まみれの床、掃除をして落ち着くと再び悲しみが心を埋め尽くした。


それからはその思いを忘れるようにアルバイトを熱心に始めた。不憫に思ったアイツもたまに差し入れを持って来てくれたりした。

10年ほど経った今ではアイツとは和解することが出来た。そしてアイツには伴侶もでき、子も授かった。もう二度と俺たちの関係は元に戻らないかもしれないけれど、俺がアイツに教わったことはとても大切なことだ。そうして、再び信用してもらえるようになった今ではアイツの子を二人が居ないときに面倒を見るようになった。そうやって過去を思い出している今も俺の膝に頭を乗せてアイツの子が寝ている。そんな小さな幸せを得ることが出来た。この幸せはあの日、天狗になっていた俺を叩き覚ましてくれたアイツのお陰だ。アイツの幸せを壊さないようにアイツの亭主と共にアイツとこの可愛いアイツらの子を守っていこう。

そんな事を雨を眺めながら思っていた。

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