時代
あたしが目覚めると、なんだか辺り一面が真っ白な場所に居た。
ここってどこだろう? そもそも何してたんだっけ……。
確か……魔王の攻撃を避けきれずに、喰らっちゃって。それで。
……ああ、この感じだと……死んじゃったんだね、あたし。
ホント、最後まで情けないなぁ。結局何も出来なかったし。あはは……。
……アレフ達は、大丈夫かな。魔王を無事に倒せたのなら良いんだけど。なんてこと、あたしみたいな弱いのが心配しても仕方ないか。真っ先に死んじゃったし。
……少しは、償えたかな? ねぇ、あたし……頑張れたかな?
わかんないや。でも、クリスはもう楽になっても良いって言ってくれたっけ。
優しいクリス。アレフも、あんな事したあたしを何だかんだ信頼してくれたんだから……。良い幼馴染を持ったよね、あたし! リノちゃんも、怖い所あるけど……基本優しいし。
……うん。本当に、良い人達ばかりで……。何だか、贖罪の旅って事を忘れちゃってたりして……とても楽しくて……。
リリィちゃん……。もう、そっちに行っても良いかな。
そろそろ、リリィちゃんの顔も久しぶりに見たいんだ。
まだ泣いてそうで心配だよ。
そっちにアレフが居ないなら、誰に謝れば良いのか分からないもんね。
だから、あたしが一緒なら……寂しくないはずだ。
『アリアさんは、まだ来ちゃダメだよ』
リリィちゃんの声がする……。けどこれは、あたしが作り出したものなのかも。
「来ちゃダメって言われても、あたしもう死んじゃったし……」
何で話しかけてるんだろうあたし。こんなの、自問自答してるようなものだよ。
『アリアさんは、まだ死んでないよ』
「……えっ?」
『だから、こっちに来ちゃダメ』
これ、あたしが作り出したんじゃないの? じゃあこのリリィちゃんは。
「本当に、リリィちゃんなの?」
『そうですよ。いきなりどうしたんですか?』
「いやその、あたしが作り出した幻聴かと思って……」
『アリアさん、わたしを作り出せるほど頭良くないじゃないですか』
ひ、酷い! でも、幻じゃないなら。
幽霊? 怨念? 何でもいいや……声が聞けたんだから。
「どこにいるの? 姿を見せてよ」
『ダメです。アリアさんは……まだわたしに会うには早すぎますから』
「……あたしなんか、まだ役に立つのかな?」
最近は戦力にもならないし……。
アレフもあたしを見るたびに辛いとか言われたし……。
あたしにしか出来ない事なんて、あるのかな。
『アリアさんが居ないと、みんな悲しみます。兄さんも……』
「そう、なのかな。あたしなんか居なくてもアレフは」
『いいえ、兄さんは……必ず悲しみます。そんなの許せません』
悲しんでくれるなら、嬉しいなぁ。少しでも悲しんでくれるなら……。
だってあたしは、やっぱりアレフが好きだもん……。
『それに、前に言いましたよね。兄さんを不幸にしたら許しませんって』
うん、聞いたよ。今でも覚えてる……。
約束は守れなかったけど。
『だから生きてください。ほら、アリアさんを呼んでる声が聞こえるでしょ?』
――――……姉……さ……ん! ………し……だ。
この声は……クリス?
――――……姉さん!……目を……覚ま……さい!
『少なくともクリスちゃんは、アリアさんに死んでほしくないみたいですよ?』
――――……姉さん! 死んじゃいやですッ! 起きてください!
クリスが! あたしを、呼んでくれてる!
――――……姉さん! ……お願い、私を一人にしないで……。
『……ほら、さっさと行ってください。泣かせてるじゃないですか」
そうだね。妹を泣かせるなんて……姉失格だ。
リリィちゃん。あたし、もう行くね!
『ええ、しっかり生きてから……また来てください』
うん! 行ってきます!
白い空間からどんどんと離れていき、あたしは段々と意識を取り戻していく。
そして――――
目を覚ますと、大粒の涙を流したクリスの顔が目の前にあった。
クリスが泣いた涙のしずくが落ちてきて、あたしの顔を濡らしていた。
ごめんね。こんなに泣かせて……こんなに心配かけて。
でももう大丈夫だよ……だから、泣き止んでよクリス。
貴女には、笑顔が一番似合うから――――だからね。
「ただいま、クリス」
あたしは微笑みながら、生還の挨拶をする。
「ぐすっ……おかえりなさい、姉さん」
まだ泣き止まない状態のクリス。
けど、ぎこちなく笑いながら言葉を返してくれた。
ああ――――やっぱり。
まだまだ、死んでられないや。
***
アリアがくたばったと思ったから、悲劇の妹ムーブでもしようかと考えてたら復活しやがった。ゾンビかよお前は。ヤリマンブスの癖に頑丈過ぎる。それとも回復魔法を掛け過ぎたか?
(せっかく悲劇度がアップするチャンスだったのによ。空気読んで死んでろよ)
まあいいや。魔王も死んだし、アレフもゴミ化したから俺様の人生は安泰だ。
このアリアも、探せば何か使い道あるかも知れんしな。
「姉さん、大丈夫ですか?(さっさと起きろカス)」
「うん、ちょっとふらつくけどね……あっ……」
今アリアの奴、無くなった左腕で起き上がろうとしてやがったぞ。
さっき斬られた事くらい覚えておけよ。お前の腕はもうねぇよ。
「姉さん……その、左腕は……(義手でも付けとけば平気だろ)」
「い、いいの! 分かってたことだから……生きてただけでも、幸運だよ」
「姉さん……(良くわかってるな。お前の腕なんか無くなっても問題ねぇわ)」
「もう! なんでクリスの方が落ち込んでるのよ。あたしは大丈夫だから!」
「……はい(むしろ幸せの絶頂期なんだが?)」
相変わらずアホだなこいつ。俺様が心配してるとでも思ってんのかよ。
いや心配してる演技はしてるから、むしろ俺様が凄すぎるというわけか。
まあ、ウジウジと腕が! 腕が! 言われるよりかはマシだな。
「クリス!……アリアも無事だったか。まあいい、全て終わったよ」
無能と化したアレフがここで合流する。
これで後はもう、帰るだけだな!!
「これでようやく平和が……。それでは、帰りましょう。王都に」
俺様が少しタメながら帰還を促すと、下僕共はみんな賛成した。
「クリス、王都に帰ったら……お前と」
アホな妄想を垂れ流してるアレフが、俺様に手を差し出してきた。
突っぱねても良いんだが、流れ的に手を取る感じなのが何とも。
「アレフ……(もう、お前如きには好き勝手出来ないぞ)」
力のないゴミが相手だと余裕が生まれるもんだ。
どうせ、無理矢理どうこうも出来ねぇしな。
とりあえず、アレフの手を取ってやったんだが――――
「!? がっ! ぐっげぇっ! あああ、あがあああああああああ!!」
俺様に触れた瞬間、アレフの奴が苦痛の奇声を上げて転げまわりやがった。
マジかよ、何か呪いでも受けたん? もしかしてあれか? 死んじゃうのか?
「ア、アレフ!? いきなりどうして……(よし死ね)」
「アレフ! 一体なんなの!? 何が起こってるのよ!」
「アレフさん、苦しそうですね」
リノ、お前……他人事すぎるだろ。せめて表面上だけでも心配しろよ。
最近のこいつはどうも、人間的にやべぇ奴になって来てんな。
それはそうと、アレフまだ死なねぇのかよ。はよ死ね。
激痛なのか、叫び続けながらアレフが転げまわってやがる。
こりゃ、今まで俺様に迷惑かけて来た報いが来てんだな。
メキメキと身体が変な音を立てながら、悲鳴を上げていたんだが。
やがてアレフの奴はうつ伏せに倒れて動かなくなった。
――――俺様の時代、来たか!
来ますかね……。