聖剣の真実
ちまちま書いてるのでかなり遅いです。
ごめんなさい。
漆黒の扉が開き、足を踏み入れる四人。
入った先は円状の広い空間になっていた。
魔王の間にしては、やけに殺風景な印象であった。本当に何もない部屋だ。
その中央には黒の玉座があり、そこには一人の男が座っている。
「余の魔城を突破し、ここまでたどり着いたか……」
そう言うと男は玉座から立ち上がり、こちらの方を向く。
「お前が、魔王か?」
アレフが剣を構えながらそう問うと、男は嗤い始める。
「そうだ。余が魔王。魔王オーマである」
「貴方が……魔王。オーマ……!(反対から読むと魔王じゃねぇか)」
聖女が聞いた言葉を繰り返すように呟く。
人類を苦しめて来た、最大の敵の名前が分かった瞬間だ。
『魔王ッ!! ようやくこの時が来たな!』
意識が覚醒していたシェフスが魔王へと怒りを露わにしていた。
初代勇者である彼は何らかの因縁があるような感じであった。
「ほう、この声は……懐かしいな。よもやそのような姿になっていようとはな」
『貴様を殺すために……地獄から戻って来たぞ』
「俺はシェフスと、シェフスを握って来た歴代勇者達の力と共にここにいる」
聖剣を向けたアレフが魔王に向けてそう言い放つ。
「なに? 歴代勇者と共にだと……? クッ……ククク……ハハハハハッ!!」
すると、魔王は何がおかしいのか笑い出した。
「何がおかしい?」
「お前はどうやら、その剣に一杯食わされたようだな」
「何の話だ……?」
「今まで見た勇者に、そんな剣を使っていた奴など一人もいない」
「なんだと」
魔王が突然おかしな事を言い出す。
歴代の勇者が誰も使っていないのに、何故色んなスキルを使えるというのか。
「シェフス……さてはお前、喰ったな?」
『…………』
「なんだ? 一体なにを言っている?」
魔王が投げかけた言葉で、突然黙り出した聖剣シェフス。
アレフは状況が掴めずにいた。
暫く沈黙が続いたが、唐突に――――
『クヒ……ヒヒヒ。まさか、魔王からバラされるとは思わなかったぞ』
今までの爽やかな声から一転。暗さを帯びた声に変わる聖剣シェフス。
不穏な雰囲気が辺りに漂う。
「どういうことなんだ。お前、俺が剣を抜いた時に言ったよな? お前を握って来た全ての勇者の力が俺に宿るとかって」
『ああ、確かに言ったぞ。嘘は言ってない。アレフ、お前にはな……百人もの亡き勇者の力が宿っているんだからな』
「ひゃく……にん? 馬鹿な、そんなに勇者がいるわけないだろ」
訳の分からない事を言い出す聖剣に、アレフの混乱は深まる。
魔王がすぐ目の前にいるというのに、集中できなくなっていた。
『……私にはな、私に触れたものを侵食して吸収する力がある。強力なスキルを持った人間に目を付けて"君は選ばれた者だ、私を抜いてくれ"などと頭の中に語りかけると、面白いように皆抜いてくれたよ』
「百人を喰ったという事か? それが、この力だと……?」
『喰った人間達のスキルを全て手に入れることは出来なかったが、吸収するたびに私の力は増していくというわけだ』
「なぜ、そんなことを……?」
人類をあれほど大事に思っているシェフスが、まさかその大事な人間を片っ端から喰っていた等とは思わず、アレフはそんな暴挙に出た理由が知りたくなった。
『何故、だと? そんなもの、魔王を倒すために決まっているッ! 私は正義を成すためなら何でもすると誓ったのだ。そのためなら百人や二百人程度の少数の命……貰って当然だろう!?』
「…………」
『私はどんな姿になっても勇者だ! 勇者は魔王を倒さなければならないッ! 世界を救うのは、この私だッ! 異世界の勇者などゴミにも等しいわ! 英雄アレフに力を与えたこの私こそが真の……いや、唯一無二の"勇者"なのだッ!!』
狂気の叫びを上げるシェフス。
聖剣の闇を知ってしまったアレフに動揺はない。
実際、名も知らぬ奴らが何人死のうと別にどうでもいいからである。
それは聖女もリノも同様であった。
(もっと喰っとけば楽に勝てただろ……)
クリスなど心の中ではこんなことまで考えている。
「魔王を倒すためとはいえ……そんな、ひどい」
唯一死んだ者達に心を痛めているのはアリアだけであった。
しかし、そんなアリアの一言はシェフスの逆鱗に触れる。
『ひどい、だと? 役立たずの剣聖風情が、偉く傲慢な物言いをするものだな』
「だって、握った人達だって……あなたと一緒に戦いたかったんじゃないの!?」
『そうかも知れん。だが、私が喰った者達では当時の四天王も倒せなかっただろう。だったら、私のためにスキルと力を差し出すのがもっとも貢献になる事だ』
「あんた……それでも聖剣なの!? 罪悪感とかないわけ!?」
『そんなもの、魔王を倒す上で何の役にも立たん。欲しいのは力だ。世界を守り、魔王を倒す圧倒的な勇者の力! そう、つまり私だ。私が勇者なのだ』
正義と民の平和を重んじる聖剣の、本性を見たアリアは失望して項垂れる。
シェフスは勇者である事と世界を守るという二点のみに終始していたのだ。
「余の事を忘れて話し込むのも結構だが、そんなに余裕があるのなら仕掛けさせて貰うぞ」
魔王はいつの間に手にしたのか、右手に持っている黒の錫杖から衝撃波を放つ。
「危ない! 防御魔法!」
クリスが咄嗟に全体に防御魔法を張る。
しかし衝撃波が触れると防御魔法はバターのように切り裂かれ、そのままアレフとアリアに向かって行く。アレフは超人的な反応速度でアッサリと回避した。
だが――――
「えっ…………あれ、あたしの腕……」
アリアは回避しきれずに、左腕が接触してしまい。ボトリと左腕が床に落ちた。
上腕から先がなくなり、綺麗な切断面が見えている。
小さく呟いたアリアは、腕が切断されたショックでそのまま意識を失い倒れてしまう。
「ね、姉さんッ!!(あれくらい避けろよゴミ)」
内心はともかく、大声で叫び、心配そうにアリアに駆け寄るクリス。
魔王はその様子を見て、溜息をついた。
「ここまで来たからどんな強者と思って見れば……期待はずれにも程があるな」
『馬鹿な娘だ。雑魚の癖に、この私に意見するからあんな目に合う。さあ、聖勇者アレフ! 今こそ魔王を倒し! 世界を救う時だッ!』
「言われなくても分かっている。魔王……その首貰うぞ」
血塗られた聖剣と狂った男が魔王へと目にもとまらぬ速度で駆けていく。
アレフと魔王の壮絶な戦いが始まってしまう。
そんな中。
「ふーん、アリアさん。腕取れちゃったね」
クリスが駆け寄る姿を熱心に眺めつつ、他人事のように興味なさげに呟くリノの声が後方からしていた。
この場にアリアを心から心配している者は、誰も居なかった……。
聖剣が何故奈落の底にあったのか。
それは、危険すぎて昔の人が封印したから……。