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勇者に4人の幼馴染が寝取られ……あれ1人様子が?  作者: 鶴沢仁
第五章 聖騎士と平和で歪んだ日常
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新たなる災厄

 クリスの部屋に集まった三人。そこは緊迫した状況にある。


「まずは、落ち着きましょう」と、クリスは椅子を用意したのだが、アレフはそれに座らず、立ちながら対面で腕を組みクリスを見つめている。そのエメラルドの瞳は深く濁っており、内には嫉妬と怒りが滲み出ていた。


 見つめられているだけで、精神がガリガリ削られていく瞳攻撃を受けながら、クリスは状況を出来るだけ勘違いのないように説明しようと固く誓っていた。


 アリアは先ほどの言葉にまだ立ち直れないのか、椅子に座ってはいるものの、ずっと下を向いて微動だにしない。この調子ではクリスの援護は無理だろう。


「アレフ、まず最初に言っておきます。この首に付いたキスマークですが、これはアレフが思っているような状況で付いたものではありません」

「へぇ? 俺の思う状況って何なんだ? クリス」

「で、ですから! 私は、アレフに隠れて、その、そう言う事はしていないという事です」

「その姿を見て、信じろと言うわけか。俺だって出来ればクリスを信じたいよ。だが、それはどう見ても不貞の証だ。クリス、正直に言ってくれ。その男とどこまでヤったんだ?」


 信じたいと言いつつ、欠片も信じてねぇじゃねぇか! と心の中で愚痴るクリスだが、そこは面の皮がオリハルコン並みに固いので、表情には一切出ない。


 この男には真実を簡潔に言う他、誤解を解く方法はないと即座に理解したクリスの行動は早かった。自身の危険時には、結構頭の回る男もとい女なのだ、クリスは。


「何もしてないです。このマークは、姉さんを襲おうとしていた聖騎士(ネイトル)と争っていた際に付けられてしまったものなんですよ! 凄く、怖かったんですから……」


 そう言って、クリスの目には零れそうな位に涙が溜まっていく。もちろん、お得意の涙腺操作なのだが、傍目には襲われた時の恐怖を思い出したように見せている事であろう。


「なに……? 襲われたって、どういうことだ!?」


 事態の深刻さに漸く気付いた、狂人英雄のアレフ。先ほど信用しないという態度だったのに、クリスの一言でもう信用してる辺り、この男も相当にチョロい男だ。


 もっとも、今回ばかりはクリスの言う事は全て真実なのだが。


「今日の朝、姉さんの様子がおかしかったので私は出かけたんです。街に出ると、聖騎士と姉さんがどこかへと向かっていたので、心配になり後を付けたんですよ」

「クリスの言う通りだよ。あたしは、ネイトルと、その……うん」


 クリスの言う事に同意しつつも、アリアは言葉を濁してしまう。

 まさか、疼きを治めるためとはいえ、ネイトルに抱かれるために一緒に行った等とはとても言えなかったのだ。言ってしまったら、先ほどのアレフの言葉を肯定してしまうようだと。


「……それで?」

「私が行くと、聖騎士は無理やり姉さんに迫っていました。間一髪で私が助けに入ったのは良かったのですが、私達二人ではとても敵わなくて、姉さんを先に逃がしたんです」


 本当は、アリアに助けを呼ばせに行ったと言いたかったが、アレフの所にアリアが来てない以上、下手な事は言えなかった。


「迷って宿屋に行けませんでした」とか口を滑らせると、今のアレフならアリアを殺してもおかしくないと思ったのだ。自身の部屋で殺人が起きるのは流石に不味い事くらい理解していた。


「私は一人で逃げる隙を伺っていたんですけど、油断してしまい、聖騎士に押し倒され――」

「押し、倒され……? クリス、まさか……犯されて」

「されてません! 話を最後まで聞いてください!」

「あ、ああ……わかった」


 致命的にメンドクサイ英雄様に、クリスの内心はもう罵倒祭りだ。心の中では既に死ねと三十回はアレフに言っている。表面には全くでないが。


「唇にキスされそうになり、私は首を捻って躱したんですけど、その際にコレが付いてしまったというわけです」

「それで……結局逃げられたのか?」

「ええ、油断したところに強烈な光(インテン・スライト)をぶつけて、目をやられている内に無事に逃げれました」

「そうか……。良かったよ。クリス、ごめんな。疑ってしまって」


 顛末を聞き、安心したように呟き、軽く詫びるアレフ。

 だが、クリスの真の狙いはここから始まるのだ。


(よし、誤解を解いたところで、婚約破棄と行こうじゃねぇか)


 誰にも見えない様、ほくそ笑みながら、自身の完璧なプランに酔いしれるクリス。相変わらずの慢心具合である。


「それでクリス。その聖騎士の場所はどこに」


 すぐさま、クリスにこのような仕打ちをした聖騎士を殺しに行こうとするアレフだったが、それはクリスの言葉によって止められた。


「アレフ。それよりもまず、お話したいことがあります」

「なんだ? 聖騎士を殺してからでも良いんじゃないか?」

「いいえ。大事なお話ですから」

「分かった、どうしたんだ?」


 クリスは目を暫く瞑っていたが、やがて決意したようにその目を開き宣言した。

 何か重要なことを言うときも、演技ありきなのだ。


「アレフとの結婚、なかったことにさせて下さい」

「…………は?」


 アレフは暫く、言われた意味が理解できなかった。

 結婚を約束してくれたクリスがそれを反故にしたのだ。

 これは重大な裏切り宣言と言えよう。


「……何故だ?」


 ようやく出せた言葉は、その一言だけだった。

 ショックがデカすぎて、怒鳴る事すら忘れているようだ。


「私は、一年間アレフと二人で共に旅をしてきました」

「ああ、そうだ。俺とクリスはとても上手くいってて」

「しかし、それは恋人というよりも、パートナーとしてだったのではありませんか? パートナーとして信頼できても、恋人として信頼できなかったから、今回のように疑ってしまったのではないでしょうか?」

「そ、そんなことは」


 ない。と言いきれなかったアレフ。

 確かに、クリスとは一緒に居る時間は長かったが、それは恋人というより、聖女と英雄としてだったのだ。それを指摘されてしまい、言葉が出ない。


 更にクリスは、遠回しにアレフを責めているのだと気づいてしまった。「愛しているはずの私を、どうして信じてくれなかったんですか?」と、そう責められているとアレフは感じていた。


「結婚するにしても、もう少し、恋人らしいことをしてからの方が良かったのかも知れませんね。私達は……」


 まるで別れ話を切り出す女のような口調でクリスは語り出す。

 もうノリノリである。心には翼が生え、今にも羽ばたいて行きそうなほどだ。

 厄介な事から解放されつつある、男の喜びがそこにはあった。


 しかし、この一言が余計だった。


「……まだ、間に合うよ。すればいいんだよ、恋人らしいこと」


 死んでいたアリアが復活した。

 そして、彼女は動く。離れつつある二人を何とか引き戻すために奮闘する。

 余計な事しかしない女が最高の手腕を持って臨んできたのだ。


「えっ? 姉さん、ちょっと……」

「恋人らしいこと? どういうことなんだアリア」


 アリアの希望の一言によって、停止寸前だったアレフまで動き出した。

 クリスと何が何でも別れたくない男の執念が希望を感じ取ったのだ。


「デートだよ。二人ともデートしたら良いんだよ。お互いの事をもっとよく知らないなら、今から知ればいいんじゃないかな……?」


(もう別れる所だったのに何言ってんだこのブス)と、クリスは激怒した。

 同時に、この嫌な流れを変えなければと、直感的に感じた。


「姉さん、そう言う事ではなく。私は」

「確かに、俺たちは恋人らしいことを何もしてこなかった。仲を深める努力もせずに、いきなり結婚なんて言われてもクリスも迷惑だったろうな……」

「アレフ、大丈夫だよ! クリスとアレフはお互いを好き合ってること、あたしは良く知ってるから」

「二人とも、私の話を」

「アリア……そこまで俺たちの事を考えてくれていたのか。それに、クリスもやはり俺を……」


 いい加減にクリスの話も聞いてやれよと思うのだが、普段清楚ぶってる所為で怒鳴るわけにもいかず、クリスの話は二人には聞き届けられない。


 そして、気が付いた時には――――


「それじゃあ、クリス。明日のデート……。楽しみにしてる」

「え……? あ、は、はい……?」


 何かデートすることになってしまった。

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