説得の始まり
いきなり、アレフがクリスに怒鳴ったの。
怒鳴られたクリスは片手を首に押し当てながら項垂れていて……。
一体、どういう事なの? あたしとクリスは命からがら聖騎士から逃げて来ただけなのに……。アレフは何か勘違いしてるんだ。クリスは何も悪いことなんかしてないのに!
「アレフ! 何でそんな怒ってるの? クリスはあたしとずっと一緒にいたんだよ」
……あたしがクリスの潔白を証明しなきゃ!
二人の仲を応援するって決めたんだから。
大好きな二人がすれ違うなんて悲しすぎるよ。
「ずっと、二人で……? はっ! ははははっ!……そういうことかよ」
「えっ? そういうことって、何が……?」
急にアレフが笑い出したけど、何がおかしいんだろう?
どういう状況なのかさっぱりわからないよ。どうしたのよ本当に……。
「つまり、三人で楽しんでたって事か。……お前の差し金か、アリア?」
「アレフ……。一体何の話なのか、わからないよ……」
「ふざけるなよ。お前の男だろ? クリスをたらし込んだのは」
あたしに男なんていないよ!? そんな話、何処から出たのよ?
それとも、普段からやっぱりそう見られてるって事なの……?
「聞いてよアレフ。あたし達は――――」
「黙れよ、ヤリマン女が!! それ以上しゃべってみろ? 殺してやる」
なんで、あたしに剣を向けるの?
あたし、ヤリマンなんかじゃないのに……。アレフ以外なんて、嫌なんだよ?
そりゃ疑われても仕方ない事して来たけど。
好きな人から面と向かって言われると、つらいなぁ。
ずっと、そんな風に思われてたんだ。
何だか、心が痛いよ……。涙が、止まらないや。
ごめんね、クリス。あたしもう、しゃべれない。
***
迂闊だった! まさか、俺様ともあろう者が、ネイトルのキスマークを首に掲げながら聖女ムーブしてたなんて! あああああ!! 最悪じゃねぇか!?
……何人かには、見られただろうな。そういや、すれ違った愚民の何人かはこっちを怪訝そうな顔で見てたよな。てっきりアリアの情けない姿を見てたんだと思ったが。
俺様の首を見てたんだな! あー、あいつら殺してぇ。この姿を見たものを全員殺してくれ神様。理想の聖女像が、こんなキスマークで汚されちまうとはな。
んで、さっきからアレフの奴がうるせぇんだけど。死んどけよ。
俺様はさっさと部屋に行って証拠隠滅しなきゃならねぇわけよ。
いや、別にここでも治せっけど、騒いだ所為でみんな見てんじゃねぇか。
アリアが何か、俺様の擁護してくれたと思ったら、すぐに下向いて泣き出してるし、使えなさ過ぎだろこのブス。何やってもダメダメじゃねぇか。
「クリス。何故、何も言ってくれないんだ……? 俺を騙してたのか?」
ん、いきなり意味わかんねぇ事言い始めたな。頭大丈夫か。
まさか、首のキスマークで俺様を疑ってんのかよ。
清らかさを擬人化したような俺様を疑うんじゃねぇ。
ああ……もしかして妬いてんのか? ガキか。ありえんわ。
つか、俺様が一年掛けて積み上げた信頼ってこんなもんで揺らぐのかよ!?
「アレフ。全てお話しますから、とにかく私の部屋に来てくれませんか?(ひょっとして、かなりめんどくせぇ男なんじゃねぇのかこいつ)」
「……わかった。だが、もし納得のいく説明じゃなかった時は……俺は、お前を」
……なんだよ!? お前を何なんだよ! 俺様をどうする気なんだよ。
コレが英雄とかマジ世も末だわ。まあ、それの相方してるんだけどな。
「アレフが考えているような事など、絶対にありません。私を信じてください(犬は何も考える必要ないんだよ。魔王討伐装置になってろや)」
「俺だって、信じたいよ。クリスを信じたい」
「それなら、部屋に行きましょう? ほら、姉さんも一緒に(アリアがいないと、説明できんからな)」
「……え? あっ、うん……わかった」
くっそ元気のないアリアを引っ張って、何とか俺様の部屋で話し合う所まで持ち込めたわ。あんま苦労掛けさせんなよ。
はぁ……。宿でも何人かには見られたかもしれん。ネイトルのクソヤロウは必ず、この俺様の手で殺してやる。よくも、完璧な聖女伝説に変なモン付けてくれやがったな。ぜってぇ許さねぇ。
とはいえ、まずはアレフの処理から始めんとな。
暴走されたら敵わん。物理的にも敵わんし。こんなのと結婚とかねぇわ。
さてと、どんな茶番にしてやろうかね。
話しが進まん!




