姉の幸せ、妹の不幸
いや~びっくりしたわ。
ネイトルの野郎から命からがら逃げて、スラムの大通りに出たらよ。アリアの奴がど真ん中で捨てられた女みたいに大声で泣き喚いてたんだからな。思わず、他人の振りして通り過ぎたくなったぞ。
つか、助けを呼びに行ったんじゃねぇのかよ。三回ほど道を曲がった先にいるとか、このブスは何処に向かおうとしてたんだか……。
珍獣みたいな行動するのやめてくれねぇかな。
一緒に居ると恥ずかしいからよ。
「ところで姉さん、どうしてあんなところに?(俺様を助ける気あったん?)」
「うん。その、ね。実は、道が分かんなくて、迷っちゃって……」
「そ、そうだったんですか……(一年以上も王都に住んでて何でわかんねぇんだよ……)」
「ごめんね、クリスが死にそうだったのに。こんな馬鹿な姉で」
マジでな! 馬鹿過ぎてやばいだろお前! まごうこと無きアホじゃねーか。
想像より遥かにやべぇなこのゴミ姉。演技って言われた方がまだ真実味あるわ。
だが、まあ。こいつには最重要任務が待ってるからな! 優しくしてやらんと。
消耗した精神を引き締め、聖女ムーブを発揮した俺様は、手を繋ぎながら歩いていた足を止め、色々と弱ってそうなアリアを抱き寄せながら茶番を始める。
「姉さん。ご自分に馬鹿などと言ってはいけませんよ? 姉さんはとても優しい人なのですから(クソチョロいアリアほど、やり込めやすい奴もいねぇよな)」
「でも、あたしはクリスを見殺しにしそうになって……」
「そんなことありません! 姉さんは、ご自分の身体をご覧になりましたか? あちこち傷だらけで、何度も地面に転んだのか、服もあちこち汚れてます……。私を助けるため、必死に走ったのではないですか?(こいつだけは適当にしゃべって説得しても成功する自信あるわ)」
「そ、それは確かに……そうだけど。でもそんなの結果的に無意味で」
「必死に助けようとしてくれた気持ちが、無意味なはず有りませんッ! 姉さんがそれを否定するという事は、私の事を想う心まで否定することになるんですよ!(よくわかんねぇけどな! 勢いありゃ良いんだよ)」
「!? あ、あたしは……そんなつもりで言ったんじゃ」
もう俺様の説得で堕ちそうだな。雑魚すぎる。お前は自分というモノを持ってねぇのかよ。そんなんだから騙されて、クズ男の手籠めにされ掛けるんだよ。……ハヤト君にはもうされてたか、グヘヘ。
まあいいや、こっからは慈愛モードで畳みかけるぞ!
アリアを慰め殺す! 許し殺す! 癒し殺す!
「だからね? 姉さんは、もう少しご自分を許してあげても良いのではありませんか……?(アレフと慰め合ってもな、俺様が許す!)」
「クリス……。それでも、あたし、今までやっちゃった事もあるし……」
「私は今、生きて此処に居ます。アレフもです。それでも許せないというのなら、私が姉さんを許します! だから! だから、お願い……もう、自分を責めないで(迫真の演技でアリアも目がウルってるな。アホが)」
涙腺スイッチで大粒の涙を流して、懇願する。ふっ、決まったな。
普段は聖女らしい言動をして、こういういざという時に激情で涙と共に言葉を崩したように見せると、何て言うか、こんなに感情を乱して想ってくれてる~的なのを感じるよな。……全部演技だが、多分感じてるはずだ。
「う゛う゛……ごべ、んなざいグリズぅ……」
「……ずっと辛かったね。姉さんは、私が誘った頃から……無意識に自分を責め続けてたんですよ。でも、もう良いんです。姉さんは凄く頑張ってます。だから、そろそろ幸せになっても良いんですよ(よ~しよしよしよし! アレフ押し付けチャンスきたでええええええ)」
今だろ、このタイミングでアレフと幸せに協力しますチャンスだろ!! 遂に、遂に! この時がきたあああああああああああ!!! やっと、ホモエンド回避出来るわぁ。俺様の計画通りだな。
「姉さんは、アレフの事がまだ好きですか?(はぁはぁ……失敗は、許されねぇぞ……)」
「……う、うん。好きだよ」
「それなら、アレフとも仲直りしないといけませんね(よぉし、脈あり!)」
「え、でもアレフは、許してくれるって」
「いいえ。そうではなく、恋人としての仲直りです(よっしゃああああ! 遂に自然な流れでここまで来た)」
勝ったッ! チョロいアリアなら、まず勝てる!! アレフの情婦に押し付けれるぞ! あああああ……ようやく悪夢は終わったんだなって……。脅迫婚約されてから、本当にしんどかったぜ。
「それはダメッ!! クリス、それは絶対ダメだよ!」
「姉さん。これは私の願いでもあるんですよ(何がダメだよ。ダメなのはてめぇの全てだろ)」
「何でクリスの願いなのさ! そんなのおかしいよ!」
「……村に居た頃に見た、アレフと姉さんの仲睦まじい姿がどうしても忘れられないんです。うっうう……わ、私はぁ……アレフと姉さんが結婚したら、素敵だとずっと思ってました(頼む頼むぅ、絆されてくれクソアリアぁ……)」
迫真の涙を流して、必死に訴える。正直、マジで今泣いてるかもしれん。
それだけ、ホモで純潔を失うのは嫌なんだよ。勘弁なんだよ!!
「だから、そんな姉さん達の仲を……引き裂きたくないんです! 私は、二人がそのまま幸せになることを……ずっと、ずっと思っていました(アリア一生のお願いだ……俺様を助けろ)」
「クリス……そこまで、あたし達の事を?」
「私はッ! 姉さんからアレフを奪いたくないんです。そんな、最低な女になりたくないッ! だからお願いです、姉さん……アレフともう一度よ――――(りを戻してパコって……は?)」
おい、大事な事言う前に強く抱き締めるのやめてくんね? 白けるんだが。
今良い所なんだからさ、空気読めよアリアは……。
「クリス、大丈夫だよ。クリスは全然最低なんかじゃない。最低だったのは、あたしなんだから、そんな事言わないでよ」
「姉さん……(あ? 何だこの流れ)」
「あたしさ、さっき決めたんだ。クリスとアレフの仲を応援するって! その想いが、益々強まったよ。クリスがあたしに、そんな遠慮してたなんて思わなかった」
「えと、私は(おいおいおい、また何か勝手モード入ってんじゃん)」
応援? 応援ってなんだよ? 応援どころか、後ろから撃ってんぞお前?
やめてくんねぇかな。恩を仇で返すんじゃねぇよ。……やめろ。
「あたしは、アレフが好き。付き合いたくないって言ったら嘘になるよ。だけど! クリスとアレフが憂いなく結婚してくれる方がずっと嬉しい! だって、あたしは二人とも大好きだから。大好きな人達には、ずっと笑っていて欲しいもん」
「そ、それは私も同じです姉さん! 私も姉さんには笑っていて欲しくて(ひぃ、拗らせてるうううう)」
「あたしは、笑えるよ? 二人が幸せになってくれれば、きっと笑える。アレフの相手が他の女だったら、笑えなかったかも知れない。けど、大好きなクリスだからこそ、笑えるの!」
「…………(まさか、好感度を上げ過ぎたのか……?)」
「だからね、クリスの言葉。今度はあたしから返したいんだ」
は、はははは……。
ははははははは……。
「クリス、あたしの事なんか気にせず、アレフと幸せになっても良いんだよ」
ふ ざ け ん な ブ ス !!
やっぱり、ダメだったよ。あいつは話を聞かないからな。




