応援者
短い
あたしは、まだスラム街をウロウロとしていた……。
完全に道に迷っちゃった。クリス達より、王都には長くいたのに、道すら分からない馬鹿だなんて……。
あれから結構な時が経ってしまっている。おそらく、クリスはもう。
「うっううう……! あたしは、なんで肝心な時に何時もこうなの? 妹のために、助けを呼びに行く事も出来ないなんて」
情けなくて涙が出る。道に迷った所為で助けに来てくれた妹を見殺しにしてしまうなど、馬鹿を通り越して愚か者だよ。あたしを、救うためにクリスは来てくれたのに、あたしは。
「結局あたし、何も出来なかった。役立たずのお姉ちゃんでごめんね……」
妹を助けることも出来ず、助けを呼びに行く事さえしくじった愚かなあたしは、スラム街の街中でただひたすら、泣くことしか出来なかった。……もう動こうにも、身体強化の使い過ぎで、身体が重くて動かない。
「姉さん」
なんだか、クリスの幻聴まで聞こえて来た。
見殺しにした罪の意識が、こんな声を聞かせるのだろうか。
「あの、姉さん……こんな所で、何をしてるんですか?」
また、聞こえた。え、これ、幻聴じゃ、ない? 涙で濡れた顔を上げる。目の前には、心配そうな顔をした――――クリスがいた。
「あ、あ、あ……あああああ……」
「姉さん? 本当に大丈夫で――」
気付いた時には、クリスに抱き付いていた。……感触が伝わってくる。これは夢じゃない、嘘でもない、幻覚でもない。確かに、此処に居るんだ。
スラムの街中で、大声でいきなり抱き付いたまま泣き出したあたしに、クリスは困ったような態度を取ってたと思う。当たり前だよね。でも、少し経った頃に宥めるような声でこう囁いた。
「もう、姉さんは最近泣き過ぎですよ?」
そして、笑顔で優しく頭を撫でてくれる。
これじゃ、どっちがお姉ちゃんなのかわからないや。
頭を撫でられ、段々と落ち着いてきたあたしは、そのまま手を引かれながら宿屋への方向に向かって行く。クリスの方が、やっぱりしっかりしてるね。
……クリスなら、アレフを安心して任せられる。
こんなに、優しくて人の事を考えられる子なら。
それなら、あたしがやるべき事は……。
うん、決めた! ずっと意地になってたけど、疼きから解放された今なら心から言える。あたしは、クリスとアレフの仲を応援しようと思う! アレフの事は大好きだけど、同じくらいクリスの事も大好きなんだもん。
だったら、大好きな二人が幸せに結ばれるように協力してあげなくちゃ! 魔王討伐まであと少しだけど……せめて短い間だけでも、出来るだけ二人が恋人同士の甘い時間を過ごせるようにサポートしよう。今回は、余計な事ばかりして来たあたしだけど、今度こそ……!
クリス、安心して! お姉ちゃん、頑張ってサポートするから!
姉が、妹に牙を向く。