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勇者に4人の幼馴染が寝取られ……あれ1人様子が?  作者: 鶴沢仁
第五章 聖騎士と平和で歪んだ日常
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小さな殺人者

 ヤリチンのキスを避けたものの、未だにスッポンのように首にくっ付いてる。これを何とかしなくちゃ不味いぜ……。が、救援も期待できそうにねぇな。


 大体こんだけ叫んでもアレフが来ない所を見ると、今も宿屋に居る可能性がたけぇ。肝心な時に役に立たねぇ野郎だな。その癖、頭痛の種になってるとか、もはや敵だろあいつ。


 考えろ! 俺様は一人でもやれる漢のはずだ。こんなの危機の内にも入らんはずだろ? 俺様は……魔王を倒す男なんだからな。雑魚聖騎士に苦戦してどうやって魔王が倒せるんだよ。


 防御魔法(プロテクション)は確かに今張れねぇ。だが……。俺様には数多くの習得した魔法があるんだよッ! 見せてやるよ、聖女パワーって奴をな。


「首も美味しいけど、そろそろ唇も頂きたいかな」

「…………(タイミングが重要だ。この糞虫に目にもの見せてやる)」


 俺様の顔を強引に真正面に固定したヤリチンが、下卑た笑みを浮かべながら、ゆっくりと顔を近づけて来る。俺様は目を瞑り、備えた。


「おや、諦めたのか? なんだかちょっと拍子抜けだなぁ。まあ、いいや……据え膳食わぬは男の恥と言うしね? じゃあ、遠慮なく貪らせてもらうよ」


 勘違いした奴が、キスしようと間抜け面を近づけて来た。

 馬鹿が! 油断大敵って言葉を忘れてんじゃねぇよクズ。


「――――強烈な光(インテン・スライト)ッ!!」

「なっ!? がぁッ!! あああああああ!!! 目がぁあああああ」


 クックック。この強烈な光(インテン・スライト)はな、本来は深淵の洞窟みたいな一切光のない場所でも、強烈な明かりをもたらしてくれるんだよ。間違いなく便利な補助魔法のひとつだぜ。


 だがな……。補助も扱いを間違えりゃ、立派な凶器だ。光の一切ない場所でも猛烈な光をもたらすものを、人の至近距離の顔にぶつけたらどうなるか?


 答えは簡単だ、目がやられる。しばらくは何も見えねぇだろうな。失明しねぇだけありがたく思えや。つーか、俺様もちょっと目がやられてるわ……。目はちゃんと瞑ってたはずなんだがなぁ。


「がぁあああああ! 糞女がッ! このオレに対して、よくもおおおお!」


 聖女に対して糞女とは、失礼な野郎だ。まあいいや、この隙にさっさと部屋を出るべ。幸い、光をモロに喰らった奴は俺様から離れて、顔を両手で押さえながら床に転がってるしな。


「しばらくは目が見えないでしょう。その間に、自身がしたことを反省してください(復帰される前にさっさとズラからんと)」

「ぐううう、覚え、とけよクソ聖女。オレを怒らせた責任は、必ず取らせてやる」

「私は、逃げも隠れもしません。人々を救うため、ただ使命を果たすのみです。それでは失礼致します(最後に聖女っぽい事を言っておくか。このクズじゃ、あんま意味なさそうだが)」


 片腕がちょいと痛むが、貞操も、唇も、聖女としての気高さも保ったまま何とか無事に乗り切ったな。……アリアの奴には、必ずアレフを引き取らせてやる。


 とにかく疲れた……。宿でまず休まねぇと。聖女ムーブの維持も限界があるわ。


 俺様の悲願まで、もうすぐなんだ。こんな所で終わるかよ。




 ***




 クリスが立ち去った後、ヤリ部屋には光で目がやられたネイトルが一人無様に転がっていた。強烈な光(インテン・スライト)の効果はすさまじく、いくら聖騎士と言えども多少の時間では視力が戻らない。


 ひたすら唸っていると、ふと――――扉が開く音がした。


 聖女が戻って来たのか? そう思ったネイトルは、よろよろと起き上がる。

 だが、目をやられた所為で立ち姿はフラフラと揺れ、弱弱しい。


「クリス……か? よくも、戻ってこれたものだな」


 ネイトルは焼けつくような光でやられた目を手で押さえながら、怨嗟の声で語りかける。しかし、聖女からは返事がない。ただ、こちらに向かってきているような足音はした。


「な、なんだ、オレに犯されに戻って来たのか? なんのつもりだ?」


 ネイトルが再び言葉を向けると、ピタッと足音が止まる。目の前にいるのかどうかもわからない。目が見えない所為か、何故かネイトルは不安に駆られていた。


「何か言ったらどうなんだ、このクソ聖女が舐め――――」

「お姉ちゃんの、侮辱は……許さないですよ?」


 返事の声が返ってきたが、それは聖女では無く。

 聖女(クリス)に狂った少女の声だった。


「うふふ、流石お姉ちゃんだなぁ。咄嗟に目を潰して乗り切るなんて素敵です」

「な、お前、いったいだれ―――あぎゃッ!!」


 謎の少女の正体を問おうとしたネイトルだったが、最後まで言葉を発することは叶わなかった。立っていた右脚の付け根に強烈な痛みが走ったからだ。何か、鋭利な刃物で刺されたような。


 目の痛みに加えて、突然発生した激痛に仰向けに倒れ込んでしまうネイトル。脚を押さえると、何かドロリとした液体の感触があった……それは、脚から噴き出した血液の感触だった。


「ぐあ、あああ! な、なんだ!? 誰なんだよお前! 何が目的でこんな」


 いきなり、脚に刃物を刺して来た謎の少女に恐怖が隠せないネイトル。

 確かに多くの女性に酷い事はしたが、こんな大胆に殺しに来るような女は覚えがない。


「お姉ちゃんに乱暴したから……。だから、死んで?」


 淡々とした声で少女らしき人物は、そのままネイトルの頭に、別の手で持っているモノを振り下ろした。何の躊躇もなく。


 ――――ブチュリと、部屋全体に嫌な音が響く。

 振り下ろされたものが頭に刺さった途端、ネイトルの身体が痙攣する。


 少女はソレを何度も何度も頭に振り下ろす。確実に殺すように、ネイトルの頭が潰れるまで何度も……。振り下ろしてる最中、少女の口元はいびつに歪み、笑みを作っていた。


 終わった頃には、苦痛に歪んだ表情を作ったネイトルの死骸が其処にあった。

 聖女(クリス)剣聖(アリア)が束になっても敵わないと言われていた聖騎士。

 それが、少女らしき人物にアッサリと殺されたのだ……。

 (クズ)の物語は、聖女に仕返しも出来ず、こんな結末に終わってしまう。


「うふふっ♪ これでまた、お姉ちゃんに褒めてもらえる」


 聖騎士(ネイトル)を殺した少女が呟いた独り言は、人を殺した感想ではなく、聖女から褒められ頭を撫でて貰える幸せな未来だ。既に人を殺す忌避感など、少女にはとっくに存在しない。


 一仕事したような顔をした少女が部屋の扉を開け、外に出る。


 部屋から出て来たのは、青い髪のショートボブをした、可愛らしい少女。

 だが、その姿は血に塗れていて、とても穏やかな姿ではない。

 右手には手斧を携え、左手には小型のナイフを持っていた。


 聖騎士を殺したのは、救世のパーティにいる、クリスの義妹。

 偏執的なまでに聖女(クリス)を愛し、欲し、家族となった化け物。

 こんな場所まで付け回していた、狂った少女。


 ――――殺人者は、リノだった。

魔王討伐メンバーが何もせず消える。

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[一言] よっしゃまた一個人型ゴミが片付いた
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