聖騎士と聖女
くっそおおおおお! アリアはどんだけアホなんだよッ!!
だから逃げようって言ったじゃねーか!「ごめん」じゃねーんだよカス。
おかげ様でピンチじゃねーか。どうすんの? 攻撃手段ないんだぞ? バレたら、じっくり料理されちまう。何とかハッタリで誤魔化すか……?
「無駄です! 貴方の攻撃は、私には届きません。降参してください、ネイトル(予想以上に攻撃力が高くてびっくりしたが、俺様の防御魔法の方が上だからな)」
「ちっ! さすが四天王を倒してきた片割れだけはありますね。こんなに強力な防御魔法は初めてだ」
おっ、意外と分かってんじゃんこいつ。俺様の凄さを分かってくれたのが、こんなクズだけなのがちょっと悲しいが。
「なら、お分かりでしょう? 無意味な抵抗はやめてください(ひょっとして、上手くいっちゃうのでは?)」
「……ククク。聖女様、貴女の魂胆は既に分かってますよ」
「……え?(あ? バレてんのか? クズの癖に洞察力高いとかありえねぇよ)」
「貴女、先ほどから防御ばかりで、オレに何の攻撃もして来ないではないですか」
「…………(バ、バレてるぅ~……気づくのはえーよ)」
「攻撃手段がないのではありませんか? 聖女様は慈愛に満ちた方と聞きますからねぇ。守りは出来ても、殺傷は出来ないと見ましたが……当たりですか?」
やべぇ、こいつ……頭良いわ。頭弱いアリアとは大違いだな。
打開策が思いつかねぇんだけど。このまま殺されちまうのか?
防御魔法もどんどん強度が削られてるし、いずれ破られちまう。
なんで、魔王討伐前に俺様が討伐されなきゃならんの?
俺様を討伐して何のメリットがあるんだよ。人畜無害の美少女だぞ。
「私を、殺すのですか?(せめて、条件でも付けて見逃してもらえねーかな)」
「聖女様を殺すなんて、勿体ない事出来ませんよ」
「……見逃して、頂けるんですか?(おお、聖女信者かこいつ。俺様の信仰力も侮れねぇな。ビッグになったもんだぜ)」
「は? 見逃すわけないだろ、こんな良い女を」
「ネイトル、貴方(犯すのか!? おま、聖女に手を出すのがどれだけ不味いか知らねぇの!?)」
聖騎士が聖女を凌辱とか……聞いただけで、教会が激怒するっつーの! こいつマジで聖騎士なんか? ちゃんと教育受けてる? 頭の中に性欲しかないんじゃねーの。
「私は、純潔を失うと使命が全うできなくなります。聖騎士なら分かっているはずですよね?(アレフの時と同じ流れな気がしてならんのだが)」
「知ってるよ。……だから? オレにとっては、貴女にぶち込む方が重要だからさ」
「なっ! 自分が何を仰ってるのか、分かっているんですか!(性騎士は流石だな。ブレねぇ……。何でこんなのが聖騎士になれたんだよマジで!)」
この国の重要スキル持ちって、俺様以外ロクな奴らいねーよな。
剣聖、賢者、アサシンはビッチでアホだし、勇者と聖騎士はクズでヤリチン。
聖女の俺様しか綺麗で素晴らしい人間いねーじゃん?
(まったく、どいつもこいつも俺様の清い身体を狙いやがって! ホモ共が)
目の前のケダモノをどうにかしない事には、貞操も命も失いかねん。
こうなったら……一か八かだな! 次に奴が攻撃してきたら、攻撃を防いだと同時に一気に出口まで走るしかねぇ! 攻撃されてる最中に、意識を敵の方から向けるのは非常に危険だが、防いだ瞬間なら奴の動きも止まるはずだ。その一瞬に俺様の身体能力の全てを懸けるぜ。
(方針は決まった。さあ、いつでも斬りかかってこんかい!)
凛々しい眼差しを作り、ネイトルを見据える。気高き聖女モードになった俺様は、奴の攻撃を待つ。
「ネイトル。私はあなたには、けして屈したりはしません。そのような醜い欲望……恥というものを知ったらどうなのですか?(挑発して、あいつが激昂して来たら都合が良いんだが)」
「そのような安い挑発に引っかかるとでも? 何か、企んでますね? 聖女様も案外腹黒いなぁ」
「私は何も企んでなど……(無駄に鋭くて、もうやだこいつ)」
「そうか。なら、オレも搦手を使わせてもらおう。剣ではどうやら、その強固な防御を崩すのは難しいようだからな」
「私の防御魔法は魔法も防ぎます。聖騎士の剣技以外でどうやって敗れると思っているのですか?(ハッタリだろどうせ)」
俺様の防御魔法は完璧だ。こんなクズにすぐ破れるはずがねぇ。さては、適当ほざいてこっちの動揺を誘おうって腹だな? 馬鹿が、頭の良さならこの俺様の方が数段上で――――
「魔法も防ぐ? へぇ、じゃあこれはどうだ! 解除魔法!!」
「えっ!?(なん……だと……)」
こ、この野郎。習得困難な魔法解除使えんの……?
あっ、やべぇ。防御魔法が解除される。こんな使い方ありかよ。
くっそおお! 掛けられた直後だと掛け直しても弾かれやがる。
も、もう嫌だ! 逃げよう! ダッシュッ!!
「逃がしませんよ? 聖女様」
身体能力がゴミ過ぎて、あっさり腕を掴まれた。まあ……無理だよな。わかってたよ、うん。何か起死回生の呪文はねぇのか? 考えろ、考えるんだ、今考えないと、貞操を失っちまう。
「いやっ! やめてくださいっ! は、離して……(ヤリチンにあっさり奪われるのだけは嫌じゃああ)」
「う~ん、良い反応だねぇ! 聖女様は。アリアちゃんよりよっぽど興奮するよ」
ああ、逆効果だったわ。ヤリチンに対して拒絶反応は駄目なわけか。でも、擦り寄ってもそれはそれで喰うんだろ? マジで死ねよ。
「聖女様って処女なんだろ? 誰か好きな男とかいるの? もしいるなら言ってみなよ。流石にオレも想い人がいる人を犯すのは良心が痛むからさ」
「想い人……(何でちょっと良いやつなん? 嘘で良いなら言ってやるぞ?)」
別に想い人なんていねぇけど、それでヤるの止めてくれるならアレフの名前を使って乗り切ろう。大丈夫だって、後でアリアから寝取ってもらえばいいんだからよ。
「わ、私は! 魔王を倒したら、アレフと……救世の英雄と結婚するんです。いえ、したいんです! だから、身体を穢すのだけは、やめてください(ほら、言ってやったからもうやめろ)」
「うん、知ってたよ。アリアちゃんに聞いたからね! いやー、本当だったんだ。救世の英雄様と聖女様がお互いを好き合ってるって」
「え、知ってたって……(クソゲス野郎の予感しかしねぇ)」
「なんだか、本人から改めて言われると……興奮しちゃうよ。相思相愛の英雄から聖女を奪うなんてさ」
うん、寝取り趣味のゴミクズじゃねぇかよ。ハヤト君と、どこが違うんだこいつ? 歩く犯罪者を野放しにしてんなよ。あの愚王はこんなの野放しにして何とも思わねぇのかよ。
俺様が国を憂い思ってると、寝取り聖騎士からベッドへと力任せに放り投げられる。腕折れるからやめろ。めちゃくちゃ痛かったぞ……。
そして性騎士はそのまま、覆いかぶさってきた。最近よく押し倒されるよな俺様は。もう慣れたもんだぜ! いや全然慣れねぇけどな! こんな感じでお茶らけてるが、余裕なんぞないぞ?
「ねぇ、キスして良い? 聖女様……いや、クリスちゃん?」
「絶対に、お断りします。早く上から退いてください(俺様の唇をこれ以上、大安売りしてたまるかよ!)」
ただでさえ最近アレフの野郎から希少価格を落とされてるのに、このヤリチンにまで口づけされたら、暴落してしまう!! あってはならねぇことだ、俺様は全世紀で一番貴重な女なんだ。
「つれないなぁ。じゃあ無理やりするね」
「……や、やめっ!(うぎゃああああ! 回避ぃ!!)」
首を横に捻って緊急回避したものの、ヤリチンの唇は俺様の首に吸い付いた。
うげえええ。この白く美しい肌に跡が残ったら、どうしてくれんだよ。
ホント何でこんな目に合ってんだ。アリアをアレフへの身代わりにしようとしたら、俺様がヤリチンの情欲の身代わりにされてんじゃねぇか……。因果応報とでも言いたいのか? ふざけんなよ!
ぢゅるぢゅると、首を吸い続けるヤリチンに精神がガリガリと削られていくんだが。俺様はキスフレでも何でもねぇんだから気安く触んじゃねぇ!!
いや、これマジでヤバくね? 頼むから誰か早く助けろッ!!
その頃、アリアはまだ道に迷っていた……。
しばらく書き留めますね。




