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勇者に4人の幼馴染が寝取られ……あれ1人様子が?  作者: 鶴沢仁
第四章 魔都アクエリラス
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掌握される心

 

 後方から、豹変し、楽しそうな声で語りかけてくるカル。

 三人の少女たちは、未だに部屋の凄惨さに、動揺が隠し切れない様子だった。


「カル様……これは、一体どういう事なのですか……?」


 不気味に嗤うカルに問うクリス。

 人を信じることを信条とした彼女であっても、流石にこの光景を見て嗤っているカルには、戸惑いを隠せていないような声色だった。


「ああ、聖女ちゃん。ごめん、それ嘘の名前だから。偽名って奴? フフッ」

「……貴方は、何者なのですか」


 クリスの疑問に、愉快そうな顔をしながら答えるカル。


「ボクはカルマ。魔王軍四天王の一人、カルマだよ? 聖女ちゃん……つまり、君の敵ってわけ」

「貴方が……四天王だったのですね」

「へぇ、案外肝が据わってるじゃん。強い意志を感じるよ……。良いね、益々気に入ったよ」


 自分が四天王だと暴露しても、クリスに動揺は見られない。

 献身の聖女として、様々な修羅場を潜り抜けて来たのは、伊達ではないのだ。


 それを見たカルマは、クリスに対する評価を一段階上げた。


「それでこそ、アレフの奴に最高のショックを与えられるってもんだよね~? 君はさ、涎を垂らしてアヘ顔でボクに擦り寄る事になるんだ。清楚であればあるほど、変わり果てた姿に価値が出て来る……分かるだろ!?」


 興奮した様子でクリスに熱弁するカルマ。

 クリスのカルマを見る瞳は、可哀想なものを見るような目となっていた。


「哀れです……。そのような、醜悪な行為をしなければ満足できない貴方は……」

「お姉ちゃん……もう話しかけるのやめなよ。そんなクズと話したら、お姉ちゃんが汚れちゃう」


 動揺から返っていたリノは、氷のように冷たい視線をカルマに向けながら、クリスに言う。

 二人から憐れみと侮蔑の眼差しを向けられても、カルマは特に気にせず言葉を続けた。


「そんなこと言えるのも今の内だよ? 聖女ちゃん……。君はその醜悪な行為で、心も身体も堕ちていくことになるんだからねぇ。フフッ……フフフッ……アヒャハハハッ!」


 狂乱の笑みを浮かべて、クリスを凝視するカルマ。

 目は見開き、口元は歪み、傍から見ずとも危険な存在となっていた。


「その、下衆な目で……あたしの妹を見るな!!」


 カルマに向かって叫ぶアリア。その怒号には、こんな奴を信用してしまった自分に対する怒りも含まれていた。


 いきなり怒鳴られて萎えたのか、白けた表情でアリアを見つめたカルマだったが……ふと、その口元が再び歪みだす。


「ああ、そういえば君も居たね。ボクさ……勇者と君の事も結構覗いてたんだよ」

「えっ……なっ……なに言って」

「情事の最中に君が言ってたアレ凄かったよね! あんっハヤト……素敵ぃ……もっとぉ――あたしを孕ませてぇ!……だっけかな? ぷっくく! 声に出して読みたくない言葉だね!! ハハハハ!」


 腹を抱えて笑い転げるカルマだが、思い出したくない事を。忘れ去りたい思い出を、こんな所で暴露されたアリアは怒りに震えていた。


「ふざけないでよッ! あんなの、あたしじゃなかったの……ちがうんだから」

「いや、君でしょ? 何逃げようとしてんのさ。だけど、君じゃアレフも何のダメージも受けそうにないからなぁ。あんな……ぷぷっ……醜態を既に晒してるんだから」

「ゆ、許さないッ! あんたも、あの勇者(クズ)と何が違うのよ!? 人の心を踏みにじるのを、楽しそうにして! あんた達みたいなクズ、絶対に許せない!!」


 アリアは剣を抜き、カルマへと向ける。

 向ける殺意は、本気だった。


「何がって……勇者と四天王が同じとか、随分な事言うね。だけど、あの勇者のやり方は嫌いじゃなかったよ。ボクとはちょっと嗜好が違ったけどさ」

「死ね! あんたも、あの勇者(クズ)も、生きてちゃいけない存在なんだ! 終わらせてあげる、あたしが、あたしが終わらせないとッ!!」


 なによりも、犠牲になる辛さが分かっているアリアだからこそ、この男は生かしておいてはいけない事が分かっていた。


 四天王とか、そういうのを抜きとして、この劣悪な存在をアリアは許せなかった。アレフとの、絆を引き裂き、彼の心を傷つけさせ、己の身体を汚した、あの男に似た存在を。


 身体強化(中)を発揮したアリアは、カルマへ向かって駆ける……!

 そして、自分に出来る最速の斬撃を、正面から振り下ろした。


 カルマは、武器も何も持っていない! やれる!

 そう確信したアリアだったが―――


 アリアの、最速の振り下ろしは、止められていた。カルマの指一本で。


「……えっ……う、そ」

「わ~、よっわ! あれ~? 英雄の後だからちょっとは警戒したんだけど……弱すぎない君?」


 呆れた顔で、アリアを見つめるカルマ。

 驚愕の表情で、カルマを見つめるアリア。


 力の差は――絶望的だった。


「このまま、殺しても良いけど……つまんないな。あっ! 良い事思いついた」


 アリアの剣を未だに止めながら、閃いたと顔を明るくするカルマ。

 ……嫌な予感がした。


「アリアちゃん、もう一回……最低になってみようよ?」

「えっ……なにいって……」


 訳の分からない戯言に困惑するアリア。

 だがカルマは、それを実現するような呪文を、既に準備し終わっていた。


「ほら、ボクの言う事を聞くんだよ。魅了(チャーム)!」

「あっ……あがっ……ああああ……!」


 カルマが魅了(チャーム)の呪文を唱えると、アリアは剣を離し、苦しそうに頭を押さえ始めた。


「姉さん……!!」


 クリスが事態に気づき、叫ぶが、もう遅い。

 魅了呪文は、魔法耐性の低い剣聖には致命的だった。


 苦しそうに頭を押さえていたアリアだったが、やがて、全身の力が抜けたような状態で顔を上げる。

 その目はトロンとしており、熱い視線をカルマへと向けていた。

 落ちた剣を拾い、腰に差したアリアはゆっくりと、カルマの元へ近づいていく。


「アリア、ボクのこと好き?」


 ニコリとカルマがアリアへと問うと。


「カルマぁ……そんなのぉ、好きに決まってるじゃない。あぁん、好き好きぃ♡」

「ね、姉さん……」


 甘えた声を出し、媚びるようにカルマへと身体を擦り寄らせているアリア。

 それを見て、青ざめた表情で呟くクリス。


 状況は、悪くなる一方だった。

アリア殿がまた寝取られておられるぞ!

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