接触
はっ!? 悪寒がしやがる。
また、何かロクでもないことが起こる前触れか……?
酒場で、全裸の変態どもを撃退した俺様たちは、扉が壊れた酒場を後にし、移動していた。
アレフの奴をしばらく待つかなって話もしたんだが、狭い室内で追いつめられるのは不味いという事になった。
まっ、アレフは何故か、俺様の居場所が毎回分かるみたいだし大丈夫だろ。
俺様はリノと手を繋ぎ、アリアの後ろに隠れている形で路上を歩いている。
まさか、アリアの奴がここまで役に立つ事になるだろうとは……俺様には、先見の明があるらしい。
「姉さん……ありがとうございます。姉さんが居てくれなかったら、私とリノは今頃……(もうちょっと、護られポジションを強固にしなければ)」
「あたしなんて、そんな……。それに、クリスはあたしの心を救ってくれたんだから、助けるのなんて当たり前だよ」
「当たり前、などではありません……。姉さんは、私たち二人の命を救ったんです。それは、当たり前などではなく、立派な事だと……助けられた私が言うのも何なのですが、そう思います(こういう奴は、とにかく褒めてやれば良いんだよ。褒められて伸びて死ぬタイプだ!)」
「クリス……うん、ありがと。ちょっと、自信持てたかも」
驚いた顔をしたと思ったら、笑うアリア。マジで、褒められて伸びるタイプだなこいつ。とにかく、生存戦略は、今の状況では欠かせねぇんだよ! 使えるもんは、何でも使うぞ俺様は!!
くたばってたまるもんか……! もう、こんなところにはいられない! やってられるか! 俺様はこの街から生きて出て行く!
俺様が生存について熱く想っていると、突然、物陰から現れた全裸男にまた押し倒される。
なんでだよ!? ピンポイントに毎回狙ってくんじゃねぇよハゲ!
押し倒された拍子に、リノと繋いでた手が離れる。
「お姉ちゃん!?」
「なっ……クリスを離せ……!」
リノが俺様を呼ぶ。その声で、様子に気づいたアリアが押し倒してる全裸男を斬ろうとする。
「おんなぁあああああ~……!!」
「こいつら、どこから……!? 邪魔しないで! これじゃ、クリスが……」
しかし、これまたどこに居たのか、大量の全裸共が俺様を助けようとしていたアリアの行く手を遮る。
ここまで僅か、三分程度の出来事である。
どこぞのカップのラーメンが出来上がるくらいの時間で、俺様は再び死にかけている。
(後は、美味しく頂くだけだな!……なんて事、言ってる場合じゃねぇよっ!)
アリアは、全裸共を切り裂いてるが、どう考えても……その間に色々終わる。
主に呼吸が……現に今、首を絞められている。
「あがっ……ぐ、ぅ……だ、だれか……(今日、何回押し倒されてんだ……?)」
二回か?二回くらいかな?酒場では押し倒されたっけか?意識が遠くなりつつ、こんな事を、襲われながら考えていると……。
「水流撃!」
何処からか、呪文を唱える声が聞こえると、濃縮された水撃がこっちに飛んできた。俺様の上に乗っかっていた、全裸男が水圧で吹き飛ばされていく。
なんで呪文使えるん?とか思ったが……。
酸素が流れ込んできたことで、思考が遮られちまった。
「げほ! げほ!……はぁ、ぁ、はぁぁ……けほっ……」
解放され、急に酸素が入って来た結果、猛烈に咳き込んじまったぜ。
しばらく涙目で咳き込んでいたが、段々と落ち着いてきた頃に話しかける声が聞こえてくる。
「大丈夫ですか?」
声のした方を見上げると、黒髪の美青年っぽい、何かいけ好かない奴が俺様に話しかけて居た。
黒髪だけど、ハヤト君より遥かにイケメンだな。瞳はアイスブルーだから似てねぇが。
「ええ、大丈夫です……。あの、貴方様が、私を助けて下さったのですか?(見た感じ、うさんくせぇ奴だな。ぜってぇ信用できねぇわ)」
「はい。か弱く、美しい女性が襲われていたものですから……体が勝手に動いていましたよ」
「……本当に、ありがとうございました。とても、優しいお方なのですね……。あの、もし宜しければ、貴方様のお名前を聞いても良いでしょうか?(キザすぎる……死んでくれ)」
歯が浮くような、糞キモイセリフをストレートに出して来る黒髪君に鳥肌が立ったが、それを態度には微塵も出さず、俺様は聖女な対応で接する。
「もちろんです。ボクの名前はカルと申します。美しい貴女のお名前を聞いても?」
「あ、此方から名乗りもせず……大変、失礼致しました。私の名前は、クリスティーナと言います。この街には救世の旅で、悪しき魔王軍から解放するために参りました(こいつ絶対、敵だろ)」
怪しさ満点な、命の恩人様に滞りなく挨拶をする。
「クリスティーナ……? という事は、もしや貴女は、今話題の聖女様ですか?」
「はい。皆様からは、献身の聖女などと呼ばれております。……そのような、大層な人間ではないのですけれどね……(俺様の勇名を知ってるとは……やっぱ、ちょっと良い奴かもしれんな!)」
ちょっと気分を良くした俺様は、ついでに二人も紹介した。
「こちらのお二人もご紹介します。剣聖と呼ばれているアリア姉さんと、妹のリノです(寝取られ姉とスラムのガキでごぜぇます)」
「姉と妹? あなた方は三姉妹なので?」
「あ、いえ、リノとは血は繋がっていません。けれど、私の、とても大切な妹なんです(そう、どっかに捨てたくなるくらいにはな! だけど、最近ちょっと怖えんだよなぁ)」
「お姉ちゃん……」
何時の間にか、近くにいたリノが俺様の紹介を聞いてたのか、顔を赤くして見ていた。
だから、なんで同性なのに……そんなモジモジしてんだ?
「ハハハッ! なるほど、クリスティーナ達はとても深い繋がりのあるパーティなんだね」
「ええ、そうです。あと、もう一人私たちのパーティにはいるのですけど、まだ戻って来てなくて(アレフのクソは、どこで油売ってんだよ)」
「そうなんですか、とにかくここは危険です。ボクはこの街で安全な場所を知っているので、一緒に避難しませんか?」
「え、えーと……それは(罠くせぇ……いや、露骨すぎる罠だ)」
流石にシャレにならんから断ろうとしたが。
「ホントですか!あたし達じゃそろそろ限界だったので、助かります!良かったねクリス。これで休めるよ」
「……そうですね。アリア姉さん。カル様、それでは案内をお願いしても良いでしょうか?(何で余計な事を言うんだよ! 流れ的に断れなくなるだろうが!! このヤリマン!)」
「もちろんですよ、聖女様。フフッ、では、こちらです」
アリアの鶴の一言で、早々に地獄に行きそうな俺様たちは、カルに案内されて歩き始めた。
「アレフ、大丈夫かな……?」
クソ姉が小声で、俺様にアレフの無事を心配してるような声を出す。
「大丈夫です、アレフは、救世の英雄なんですから……。信じましょう、姉さん(他人の心配してる場合じゃねぇだろ、俺様たちは……)」
「うん……そうだね。アレフなら、きっと大丈夫だよね」
危機感ゼロの間抜けなアリアを落ち着かせる。このまま、どこへ向かうのか心配でたまらんのだが……。
その後、無言でしばらく歩いていくと、やがてカルがある建物の前で止まった。
「……ここだよ、ほら、三人共……入って入って」
カルがレディーファーストの構えで入ることを促す。
嫌な予感がしたが、俺様たちは建物の中へ入っていく。
建物の中は暗く、気味が悪かった。不安に苛まれつつ、前を進んで行く。
やがて、扉が見えたので開けて中に入った。
入った途端に、明かりが点く。
……いきなり明かりが点き、眩しさに目を細めていたが。
段々と目が慣れた俺様たちの目に映ったのは。
――傷だらけの全裸の女性達が……鎖で吊るされていた光景だった。
「お、お姉ちゃん……これ、一体……?」
「な、なによ、これ……!? あたし達……安全な場所に来たんじゃ……?」
この光景に困惑する二人だが、俺様もちょびっとだけ困惑してる……なんやこれ、ひでー趣味だな。
「フフフッ、三人共……ようこそ、ボクのコレクションルームへ」
後ろから聞こえてくるのは、滅茶苦茶楽しそうな声。
それを、発しているのはカルだ。
最初から、俺様は怪しんでたんだが、何か、その、想像以上に。
かなり、やべー奴だった……。
クリスホイホイ。




