二人の茶番
短いよ
あたしは、迫って来る全裸のケダモノたちをとにかく斬った。
一目見れば、彼らが魔王軍から何らかの処置を施され、狂ってしまった街の人たちだという事はわかる。
だけど、それを分かっていても、あたしは彼らを斬らなければいけない。
だって……。あたしの後ろには……あたしを孤独から救ってくれた、大切な妹と、その妹が大事にしている小さな女の子の運命が懸かってるんだから!
恨むなら恨んでくれてもいい! 何も悪くない貴方達を斬り殺したのは、あたし……剣聖アリア。だから、街が平和になった際には、皆であたしを恨んでくれて良い。
滅茶苦茶に剣を振り回し、どんどんと彼らを殺していくあたし。
時には腕を斬り落とし、時には腹を裂き、臓物が飛び出し苦悶の声を上げて死んでいく人。
そして、あたしの身体は……そんな彼らの血と臓物に塗れていく。
ああ……。まるであたしの心そのものだ。大好きな人を裏切り、踏みにじり……汚れた、あたしそのもの。
そんな思考をしながらも、あたしは殺す手を緩めない。どれだけ自分を責めたって、後ろにいる二人を見捨てて良い理由にはならないんだから。
最後の一人を斬り殺す……。
一面が血の海になった酒場の床を少しの間、見つめたあたしは……クリス達のいる後ろを振り返った。
―――クリス達のすぐ目の前で、中年くらいの男性が首から血を大量に流し、倒れていた。
その男性を殺したのは……まだ年端も行かない、クリスが妹と呼んでるリノちゃんだった。リノちゃんは、自分がやってしまった事を実感してしまったのか……顔が真っ青になっていた。
「あ……ああ、お姉ちゃん……わたし……ひ、人を殺しちゃ……ひっく……」
返り血で血まみれの姿をクリスに見せ、涙を流し震えているリノちゃん…。
クリスに抱き付いた時にも服に血は移ってたけど、それとは比べ物にならないくらい真っ赤になっている。
あたしは、失敗してしまった。
ケダモノの一人をクリス達の元へ行かせてしまい……幼いリノちゃんのその綺麗な手を汚させてしまったんだ……。
ああ……。なんで……なんで、毎回ツメが甘いんだろうあたしって。
手を汚すのは、あたしだけで良かったはずなのに……こんなトラウマを幼い子にまで与えてしまうなんて。
「リノ、貴女は何も悪くなどありません……。もし悪いというのならば、それは、私です! リノにこんなことをさせてしまった……私の罪です……」
そう言って涙を流し、血まみれのリノちゃんを構わず抱き締めるクリス。
やっぱり、クリスは凄いや……。あたしだったら、あんなリノちゃんを前に、何も言えないよ。
「お、おね゛ええぢゃん! わたしいいい……うう……ぐすっ」
「泣かないでリノ。殺したのは、リノではなく、私なんです。私が、リノに彼を殺させてしまったのです。だから……だからね? リノに罪などないのですよ……」
優しく頭を撫でながら、何度も何度もリノちゃんに言い聞かせるクリス。
あたしは……もっと上手く出来なかったんだろうか。
そうすれば、こんな悲しい光景を回避できたんじゃないの……?
人を初めて殺してしまい……悲しみに暮れるリノちゃんと、リノちゃんの心を守るため、罪を全て自分が背負うと言いながら、リノちゃんを強く抱き締め涙を流すクリスの姿を見て……それでもあたしは。
あたしは、彼女達を護ったなどと言えるの?
ううん、言えるわけない。だって、こんなの。
こんなの、余りにも遣り切れないじゃない……!
お互いを、抱き締め合いながら悲痛に嘆く二人の姿を、
あたしは涙を流しながら、ただ見ている事しか出来なかった……。
リノの演技とクリスの演技が混ざり合い、頭がおかしくなって死ぬ。