二人の意思はその心に
ガハハハハハッ! 言ってやったぞ俺様は。最高の聖女ムーブをかましてやった!
アリアを俺様のパーティに入れると宣言すると、アレフの奴の顔が目に見えて歪みやがった……。そんなに嫌か? アリアと一緒の旅は。
だったら、お前への嫌がらせとしちゃ最高のプレゼントだったな。俺様はただ、行き場を失くしたアリアを救ってやったんだから文句言われる筋合いはねぇぞ?
これで、アリアとアレフの険悪な雰囲気を特等席で旅の間、味わえるわけだな。まあ、俺様の方に被害が来ることはねぇだろう。
むしろ、アリアの奴には恩をたっぷり売ったことになるだろうから、俺様の事を全力で護ってくれる駒として精々働かせてやるか。俺様は本当に優しさの塊だよなー。
「ク、クリス? 今の言葉、ホント? あたし、一緒に行って良いの? そんな資格……ホントにあるのかな……?」
アリアが糞くだらん事を聞いてくるが、正直な、その震えたような涙声がうっとおしいわ。
悲劇のヒロインぶってんなよ、クソブスが。か弱い枠も、悲劇枠も、可愛い枠も全て究極の美である俺様だけ居ればいいんだよ。
俺様はうっとおしいアリアに、感情を悟られない様に表情筋を引き締めて接した。
そして、慈愛に満ちた聖女様フェイスを携えて、俯いているアリアに近寄り、ゆっくりと抱き締める。
「罪を償うのに、資格なんて……いらないと私は思うんです(その巨乳も邪魔くせぇからいらないんだが……俺様よりデカい乳とか死ねよ)」
「クリスぅ……あたし、あたしは……付いて行って良いの? こんなあたしが……救われても、いいの?」
「姉さんは、沢山の人を救うために一緒に行くんです。だから、姉さんが救われても……良いのではありませんか?(俺様の名声を稼ぐために一杯救ってくれよ?手柄は全部俺様のもんな?折半とかねぇからさ)」
「ありがとう、クリス……本当に、ありがとね……!」
抱き締めていた俺様を、抱き締め返すアリア。力強すぎんだよクソボケ。俺様か弱いんだから優しくしろ。
つーか断りもなく、俺様に触るなよ。俺様は触って良いけど、お前は俺様に断らなきゃダメだろ? 常識ねぇな……。
それよりも、アリアを仲間にするにあたって……避けては通れねぇ道があるわ。楽しみでもあるんだけどな?
「……その、アレフ。ごめんなさい。貴方の気持ちを無視して、勝手に決めてしまって……(俺様の犬なら、俺様の決定には逆らわねぇよな?)」
俺様はアレフの野郎に、申し訳なさそうな表情を作り、悲しそうな声で語りかける。てめぇはこういう態度取られると逆らえねぇもんな?クックック。
…………いや、はよYES!って言えクソ英雄!俺様を待たせんじゃねぇよ。
俺様は内心ブチ切れながら、申し訳ない感じの表情を張り付けていると、ようやくアレフが口を開く。
「いや、良いんだ。クリス。実は……実は俺も、アリアにそう言おうと思ってたところだった」
「……えっ? ア、アレフ……? あたしのこと、憎くないの……?」
なにやら、変な面白イベントが始まり俺様の怒りは急速に治まった。やるじゃんアレフ。良いサプライズだな! だけど、顔がプルプルしててウケるぞ。
「に、憎くない……といえば嘘に、なるが。お前の剣聖の力は……クリスと、俺には必要だから、な。だから、アリア……俺たちと一緒に来てくれ」
すっげぇ苦そうな顔で呟くアレフ。無理してんのが、これほど分かり易い奴も居ないだろ。
「ア、アレフ……アレフが。あ、あ、あたしと一緒に行きたいなんて……嘘、これ夢?こんなの、夢だよね?……あたしが、あんな事したあたしが、こんな幸せな事、言われるわけないもん……」
おめでたい頭で泣き出しながら独り言をブツブツ言いだすアリア。アレフの分かり易い嫌な表情すら見えてねぇとか……。やべーやつじゃん。
てかさ、泣き過ぎじゃねこいつ? リリィのガキが死んで、フィーネ気持ち悪くなったくれーでよ……メンタルゴミかよ。
俺様たちはな、旅の最中に何人も人が魔王軍に殺されるところを見てんだよ! 人が死んだくれーで落ち込んでる暇なんかねぇだろ!!!
まあ、俺様は誰が何百人くたばろうが、どうでもいいが……。人が死に過ぎると、俺様を称える奴らが居なくなるだろうが。
愚民は俺様を称えてこそ、一人前の仕事をしたと言えるんだからな。死ぬならせめて、献身の聖女の事を宣伝してからにしてくれ!
おっと、そろそろフォローしてやらんと。アレフの奴も固まってねーで俺様の為にアリアを受け入れろ。
「姉さん、泣き止んでください……。アレフも、私も困ってしまいます。救世の旅に行くなら、泣いたままでは行けませんよ……だから姉さん、笑ってください。姉さんの笑顔を、見せてくれませんか?(涙と鼻水でグチャグチャの顔がデフォルトになって来たなこいつ)」
「クリス……でも、あたし……。あたしだけが、救われて良いのかな?フィーネさんや……リリィちゃんと同じことをした、あたしだけがこんな……」
あああああああ!! めんどくせぇっ! 何だよこの糞塵女はさっきからよ! メソメソウゼェ! ガキが一匹死んだくれーで、一々何なんだよ!! 黙って来いよボケ。
「姉さん……。リリィちゃんや、フィーネさんは……ここに居ますよ(もう、適当な事言ってさっさと立ち直らせよっと)」
「えっ? クリス? それ、どういう」
「リリィちゃんと、フィーネさんの心は、意思は! 姉さんと共にあるんです。私には、分かります。姉さんの心の中に二人は……確かにいるんです。だから、だからね? 一緒に連れて行ってあげませんか……?(ここで、涙腺スイッチ入れて、涙をダバ―と流せばイケるべ)」
即座に涙腺をコントロールし、熱い涙を大量に流し、アリアを見つめる俺様。
アリアの奴……信じ込んでる顔してるわ。ぷっくく……死んだ人間が一緒に行けるわけねーだろバーカ。おめでたすぎる。
しかも、フィーネとか死んですらいねーのに……大丈夫かよこいつ。
「クリスぅ! あたし……! あたし、行くよ……。二人の心も一緒に連れて行って……あたしが、頑張って多くの人たちを……救って……!いつか、三人共……天国に行けるくらい頑張るからっ!」
「ええ、姉さん……一緒に、頑張りましょう……? フィーネさんと、リリィちゃんのお二人も……きっと、そう望んでいます(知らんけどな)」
「うん……うん!クリス、ありがとう。あたし、クリスと心に居る二人のおかげで、またこうして……頑張れるから……」
ようやく、やる気スイッチをONにした馬鹿を見て俺様は満足するが、それ以上に何か疲れたわ……。
後は、アフターケアもしなきゃな……管理職かよ俺様は。
「アレフ。姉さんのこと……本当に、ごめんなさい(秒で許せよ? 俺様が悪いなんて絶対にあってはならねぇんだよ)」
「クリスが、謝る事じゃない。俺も、アリアの力が必要だった……本当だ。クリス……お前が気にする必要なんて全くない。だから、そんな顔をするな」
「……ありがとう、アレフ(それでいいんだよ犬)」
落ち込んだ顔から笑顔を作り、アレフに微笑む俺様……。
もう過労死しそうなんだが。
俺様が始めたことなのに、毎回なんで疲れてんだろ?
もしかして、何か失敗したのか?
ともかく、これでアレフの心のケアも十分だろ。これ以上は、追加料金頂かなきゃやってらんねーわ。
今回は下僕も一人増えたし、収穫はあった……はずだよな。
「お姉ちゃん……もうそっち行ってもいい?」
あっ……。リノの奴忘れてたわ。
めんどくせぇ……。けど、もう一仕事しなきゃな。
こうして俺様はうんざりした心境で、だが……表情は慈しむような笑顔を顔面に張り付けて、リノをアリアに紹介した。
リノはアリアを、心底どうでも良さそうな顔で見てたわ。
俺様が言うのも何だが、態度悪いなお前……。
ダシにされた二人。