一筋の希望
見てて鬱な部分は一気に見せようと頑張って書いたけど……力尽きた。
目が覚めたあたしは、自分の部屋のベッドに寝ていた。目の前には、付き添いのメイドさんが居た。
彼女にあの後の状況を聞いたところ……あたしの叫びを聞きつけて、王宮魔術師の人たちが来たらしい。
部屋の惨状と、倒れたあたしを見て対処してくれたそうだ。そして、あれからあたしは二日以上寝てたって……。
……リリィちゃんの亡骸は、王城の裏の墓地に埋葬されるそうだ。村の……リリィちゃんの両親に、引き取れるか聞いたところ。
『兄の死を笑いながら報告し、家族との縁を切るような娘などいらない!』
と言われたそうだ。
ちがう、違うんだよ。あれは、リリィちゃんであって、リリィちゃんじゃなかったの。全部勇者の……。
そう思うあたしだったけど、アレフとリリィちゃんの両親の気持ちを考えると、そんなこと何の慰めにもならないよね。あたしだって、ご両親の立場なら同じことを言ったと思う。
メイドさんは、あたしに食事を出してくれたけど、食べる気にならなかった。だって生きる気力がもうないんだから。
このまま、何も食べずに死ぬのも良いんじゃないだろうか…。そんなことを考えるくらい、あたしは参っていた。
「ただでさえ酷い衰弱状態だったんですから。食べないと良くなりませんよ」
メイドさんはそう言うが、あたしは良くなる必要なんかないとばかり首を横に振って拒否する。
「剣聖ともあろう方がそんなことでは……せっかく女神様から偉大なスキルを頂いたのに魔王討伐なんて出来ませんよ?」
あたしの肩書を盾に、食事を促して来る……だけど。
その言葉は、あたしの逆鱗に触れた。
「なに、それ? まだ、こんな状態になってもまだ、あたしに魔王倒せって言いたいわけ!? 何が使命よ! 何が偉大よ! 何が祝福のスキルよ! こんなの祝福でも何でもない、呪いじゃない!! こんなスキル貰った所為で! あたしは、全部、うしな、って……」
怒鳴っているうちに、段々と言葉に力を失っていく……。
また……あたし、八つ当たりなんかして最低だ。何でこんなに最低な人間になってしまったんだろう。
「……剣聖様。心がかなり傷ついているのですね。こんな時に、献身の聖女様が居たら、その心を癒せますのに」
献身の聖女……? メイドさんはいきなり聞き慣れない人物を挙げる。
いや、何か聞いた覚えはあるんだけど。
こうして正気に戻るまでは、あたしはあの悍ましい男の事で頭を一杯にさせられてたから。
「献身の聖女って……?」
有名な人だったら恥ずかしいなと少し思いつつ、本当に知らないあたしは素直に聞いた。
「あれ? 知りませんでしたっけ。献身の聖女様というのは、最近色々な場所に行き、魔王軍から人々を救済している凄い方なんです」
その後も色々と成し遂げているらしくことをメイドさんから聞かされる。
なんでも、今では勇者パーティとか言われていたあたし達より遥かに勇者らしい人達らしい。
というより、実際はあたし達なんてクズの集まりだっただけで、おそらくその人達こそ真に世界を救えるような人達なんだろう。
「救世の英雄と、献身の聖女……たった二人で彼女たちは魔王軍の四天王も倒してるんですよッ! 凄いですよね! そして……実は私! 献身の聖女様を城に来た時に近くで見たんですよ!」
興奮したメイドさんがあたしに詰め寄って話し始めた。
「すっっっごく綺麗で! 美人……? というよりまだ少女くらいの歳だったんですけど! とにかく女神様のように美しい人で。私を見つめると優しく微笑んで下さったんです!! ああ、思い出してもたまらない! たまらんぞ!」
恍惚の表情で思い出に浸るメイドさん……そんな彼女に、あたしは掛ける言葉が見つからなかった。
「ハッ!?……コホン。それでですね、献身の聖女様は辛い人の悩みとかも聞いてくれるらしいんです。相談した人達は、みんな穏やかな心を取り戻したり、元気になったりと凄い評判なんですよ」
落ち着いたメイドさんが、あたしに献身の聖女の素晴らしさを力説する。だけど、あたしのこの醜い心を癒すことなんて、例え神様でも無理だろう。
「そう、なんだ……でもあたしを癒すなんて、多分誰にも――」
否定しようとするあたしだったが。
「そういえば、勇者様が生きてた頃に、献身の聖女様を見て驚いてましたね。彼女が生きてたんだとか、ブツブツ言って、その後大声で笑ってたからちょっと不気味でしたけど……あっ不敬でした……」
……え?
「生きてた? 献身の聖女を見て、そう言ってたの……?」
「はい? あっ、ええ。そうです。知り合いだったんでしょうかね? あの勇者様と」
勇者はずっとあたし達と居た……だから、その勇者が生きてた、なんて言う人物は一人しかいない。まさか……献身の聖女って。
「ねぇ……」
会わないと。絶対に、会って確かめないとダメだ。全て失ったと思ってた。何もかも……でも、もし、違ったら?
あの底の見えない崖の下で、あの後も彼女が生きていたのだとしたら? それは……まさに。
――あたしの、最後の希望。
「献身の聖女って、今、どこにいるの?」
あたしは、メイドに聖女の場所を聞いた。
「王都の宿屋にいるらしいですよ。あっ、でもそろそろ王都を出るとかお城の高官の人が言われてたので、会うなら急いだほうが――」
メイドさんの話を聞く前にあたしは、今まで寝てたとは思えない素早い動作でベッドから飛び出し部屋の外へと向かう。
急がなければ、確かめなければ、と気が早る。行く際に、剣聖になってからずっと使い続けて来た剣を腰に差す。
この武器も……勇者と行く事が決まったときに、アレフと一緒に武器屋に行き、一緒に選んだ思い出の物だ。
良かった。アレフを感じれる物がまだ残ってて……。結局、ロクな事に、使わなかったけど。
ともかく、献身の聖女に会わないと……! おねがい、間に合って!!
あたしはもう、一人はいやだから。
エピローグ部分も近い。
ちなみにこのメイドさんは、ハヤトの毒牙に掛かってない貴重な人。