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逃げた者

 

 リリィちゃんの部屋まで着いたが、フィーネさんの時のような騒がしい様子はなかった。


 というより、静かすぎる……。何か、嫌な予感がした。


 部屋の前を通ったメイドに、あたしはリリィちゃんの様子はどうなのか聞いてみた。


「あの、リリィちゃん……アサシンのスキルを持っている娘なんですけど。朝の様子はどうでしたか?」


 彼女がリリィちゃんの部屋に入ったことがあるのかは知らなかったけど、とにかく何か情報が欲しかった。


「リリィ様なら、まだ寝ているのか……扉をノックしても返事がありませんでしたので。たぶん部屋に居ると思われます。少し急ぎの仕事があるので、私はこれで失礼します」


 メイドはそう言って、あたしに会釈するとその場から立ち去った。


 寝てる……? そんなことあり得ない。あたしは寝てる最中に急に意識が覚醒したようになったんだから。あれを経験して、そのまま寝続けるなんて絶対にあり得ない…。


 でも……起きてるにしてはリリィちゃんの部屋は余りにも静かすぎる。あたしは、大声で叫びまくる位に混乱したのに。


 胸騒ぎがする。あたしは部屋をノックするが、反応がない。やっぱり、これはおかしい。


「リリィちゃん!? 中に居るの? いるなら返事だけでもして!」


 ドンドンと扉を叩くが、リリィちゃんから返事はない。まさか。まさか……!


 あたしは剣聖のスキル、身体強化(中)を使い扉を蹴破ることにした。


「ごめん、リリィちゃん。入るからね!」


 あたしはそう言って、扉を思い切り蹴破った。壊しちゃったけど、今はリリィちゃんの確認が先決だから!


 あたしは、リリィちゃんの部屋に入る……。

 何か、鉄臭い変なにおいがした……。


 そして、目の前を見ると。


 ――部屋の中は、真っ赤だった。


 部屋の床には、血だまりが出来……壁もあちこちに血が付着している。……えっなんなのこれ?


 何なのこれ? 何なの、これ? 一体、なんなのよこれ!? なんで、こんな。


 床の血だまりが出来ている場所には……誰かが倒れていた。

 いや、あたしは……それが誰なのか知っている。


 ただ、信じたくなくて……間違いだったらいいって……。

 こんなこと、あるはず無いなんてことを考えちゃって……。だけど、近くまで行って…顔を確認すると。


 それは、間違いなくリリィちゃんで……。

 手には短剣が握られており、自分の首を……掻き切っていた。


「リ、リリィちゃん……な、なんで? うぷっ!? げっ……おえええ……!」

 

 幼馴染の死に。あたしの、かけがえのない存在の一人だった女の子の死に耐え切れず、床に吐瀉物をまき散らす。


 リリィちゃんが、死んだ。自殺した……? 理解が追い付かない。


 ひときしり吐いた後に、あたしは惨状となっている部屋を見渡す。

 すると、血の付いた机の上に紙が置かれていた。


 紙には、リリィちゃんが最後に書いたと思われる文字で短くこう書かれてあった。


 ”兄さん ごめんなさい すぐに そっちへいきます”


 ああ……そっか。リリィちゃんは、アレフの所に向かったんだね……。


 考えてみたら、あたしより幼いリリィちゃんが……こういう事をしてしまうのは当たり前なのかもしれない。あたしも一回死を考えたくらいなんだから。


 それに、リリィちゃんは……優しすぎたんだ。自分のやったことを、到底受け入れられなかったんだよね。あたしみたいに図々しくなかった、それだけ。


 そんな彼女が、この地獄のような現実から逃げ出したとして、一体だれが責められるというの?


 リリィちゃん……。アレフの事、大好きだったもんね。あたしにやきもち焼いてた時期もあったくらいだもん。ふふっ。


 いつも、あたし達と会うと、アレフの事を話してくれたよね。優しいとか、家族想いとか、兄自慢が凄かったなぁ。それで、あたしとアレフの仲についての話になると必ずこう言うの。


『兄さんは、わたしの自慢の兄なんです。だから、アリアさんでも不幸にしたら許しませんからね!』


 そんな事を言いつつも、あたしとアレフの仲を心から祝福してくれていて……。それなのに、約束守れなくて本当にごめんね。


 リリィちゃんも……あたしと同じ地獄に行くんだろうか? それは、やだな。


 出来れば向こうでアレフと仲直りして、前みたいに、兄妹仲良く過ごして欲しいなぁ…。だってさ。


 そうじゃないと、悲しすぎるよこんなの。アレフも、リリィちゃんも……本来なら死ぬ必要なんてなかったのに。ないはずだったのに。


 二人とも、人が好くて優しくて……そして、とても仲が良い兄妹だったんだよ? それなのに。


 なんでよ、なんでこうなっちゃうの? あたし達、魔王を倒して……平和を取り戻して、みんなで村に戻って、平穏に暮らしたかっただけなんだよ?


 あたしのかけがえのない人達と……大切な人と、平和に、ただ、のんびり暮らしたかっただけなのに。





 ニコニコしていて、誰かに悩みが有るとすぐに親身になって相談に乗ってくれた、少し年上のフィーネさん。


 あたしの妹とは思えないほどに出来た娘で。それでいて、人の事を常に思い遣っていた……純粋で心優しいクリスティーナ。


 お兄ちゃんっ子だけど、気配りも出来て。でも、ちょっと甘えん坊の面もあったり。それでもあたしとアレフの仲を快く応援してくれた、リリィちゃん。


 そして、そして、あたしが……世界で一番愛してた……。結ばれたかった……。一緒に、幸せになりたかった。最愛の男性(ひと)……アレフ。





 みんな、消えちゃった。あたし、一人になっちゃった。


「う、うあああ……」


 もう、無理だ。こんなの、最初から……耐えられるような事じゃなかったんだ。


「あああああああ……ああああ……」


 堪えていた気持ちが、止まらない。


 フィーネさんもリリィちゃんもクリスもアレフも全て遠くに行っちゃったのに。


 なんであたしだけ。


 あたしだけ、生きてるんだろう?


「うわあああああああああああああああああああああ」


 その場で、慟哭したあたしは……精神が限界を迎えた結果。




 気絶した。

不幸の連鎖でフィーバータイム!

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― 新着の感想 ―
[一言] 最近、これぐらいの鬱への耐性があると思ってたけど、今まで読んでいたのが甘かったんだなの痛感しました、これからも(これで興奮できるぐらいまで)精進していきたいですね。
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