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勇者に4人の幼馴染が寝取られ……あれ1人様子が?  作者: 鶴沢仁
第二章 聖女と救世の英雄
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狂気の勇者

 

 クリスが自室に去った後。


 残された勇者とリノの間には緊張が走っていた。勇者は困惑、リノは憤怒の感情を走らせている。しばし見つめ合う二人だったが、沈黙を先に破ったのは少女の方だった。


「勇者、さん。少し、話がしたいんですが……良いですよね?」

「話かい? 何かな……僕で話せることなら何でも聞いてくれていいけど」

「それじゃあ、ちょっと宿を出て場所を移しましょうか? 勇者さんが、ここで良いというなら構いませんけど。あなたの、スキルについての重要なお話なんですけど、ね?」

「……わかった。それなら人気のない場所に行くとしよう。何が目的なのかは知らないけどさ」

「ありがとうございます……では、行きましょうか?」


 半ば脅しのような、リノの提案で勇者とリノは宿を出る。外はもう、深夜なのか真っ暗になっていた。リノは勇者(ハヤト)と共に、スラム街にある、人が滅多に来ないような裏道へと場所を移す。


 着いた場所はあの時、リノが襲われた行き止まりの通路だった。


 ここなら仮に何かがあったとしても、朝になるまでまず、誰も気づかないだろう。


「――それで、なんの用かなリノちゃん。僕に対して脅すような事を言うなんて、何を考えているんだ?」


 宿の時にリノにしていた丁寧で優しい口調を捨て、忌々しいものを相手にするようにハヤトがそう吐き捨てる。


「何の用、じゃないでしょ……? あなたが、わたしにあんな悍ましい心を植え付けたのはもうわかってますから……。わたしの心を侵して、おねえちゃんを傷つけさせたのは、勇者……アンタだっ!!」


 リノは激昂してハヤトを糾弾する。瞳は憎しみと、怒りに塗れ、心は悲しみで一杯な少女は、我を忘れて勇者に詰め寄る。


 リノの全てともいえるクリスへの想いを、土足で踏み荒らされ、穢されたのだから当然だ。


「……へぇ~、やっぱり気づいてたのか。どうも、君の様子がおかしかったからね。僕の魅了も全然効果がないように見えたし、一体どんなカラクリなんだい?」

「全部、お姉ちゃんのおかげ……お姉ちゃんが! わたしに、アンタの穢れた汚らしい汚染を乗り切る力をくれた。だから、わたしは今もお姉ちゃんの傍にいる」

「なるほど、女神の祝福……かな。やれやれ、厄介だね。あのまま僕の虜になってたら良かったものを」

「誰が、アンタみたいな……屑男の虜になんて――」


 リノがハヤトに向かってそう言った瞬間、リノの顔に凄まじい衝撃が走り吹っ飛ばされる。ハヤトがリノの顔面を、殴打したのだ。


 もちろん殺さない程度に手加減はしてるが、子供のリノにとってはしばらく起き上がれないくらいには強力な一撃だった。


 しばらく蹲っていたが、やがて起き上がったリノの顔は鼻血が噴き出ており、左の頬が腫れ、可愛らしい顔が痛ましい変貌を遂げていた。


 ハヤトがここまで、女性に対して物理的な暴力を働いたのは初めてかも知れない。


「……ごめんごめん。レディには優しくする僕でも、流石にさっきの君の暴言には耐えられなかったよ……君の顔を殴ってしまったのは悪かったけどさ、僕の心の痛みに比べたらそれはまだマシな怪我だよ?」


 形だけは謝罪する、ハヤトの顔は加虐に満ち溢れており、唇は歪んだ笑みを作っていた。それは、弱者(リノ)をいたぶる者の顔だった。彼は殴っているときに快感を覚えていたのだ。


「そんな顔をして、謝られても……反吐が、出ます。あなたは、最低の屑野郎ですね……」

「躾が足りなかったかな……? もう片方の綺麗な頬も、惨たらしくなってみるかい?」


 ハヤトは、殴られ吹き飛んだリノに近づいていく。リノは後ずさり、ハヤトから距離を取りながら、息も絶え絶えに会話を続けていく。リノも、殴られた痛みで少し心は冷静になっていた。


「なんのために……わたしに、あんなことをしたんですか……? わたしの身体が、目当てなの?」

「ぷっ! 君の身体を? その貧相で、味気なさそうな? ふっは……ははは! あまり笑わせないでくれよ、君、中々冗談が上手いじゃないか」

「わたしはっ……じょうだんなんかで、こんなこと聞いてません」

「ふっくく。ごめんごめん。ああ、君を魅了した目的だっけ? そんなのさ、ちょっと考えれば分かりそうなもんだけどね。リノちゃんさぁ、君、頭悪くない? ひゃははは!」


 リノに指を差して馬鹿にするハヤトに、再び憎悪と憤怒が宿るリノ。こんな、冗談交じりに、自分の人生を破壊しようとしたのか? と。


 リノは、目の前のクズ男(ハヤト)を、殺したくなった。


「バカにしないで、答えてください。なんでわたしにあんな……」

「クリスが目当てだからに決まってるだろ? 彼女はね、僕の嫁の一人になる女性なんだからさ」

「……え……? お姉ちゃんが、目当て……?」

「僕のスキル、魅了の眼って言うんだけどね。このスキルって女性を僕の物に出来る、神様が僕にくれたご褒美のようなスキルなんだよ。だけどさ、クリスって聖女なのか、高潔なのか、どっちが原因かは知らないけど、僕の魅了を耐えちゃうんだよ? 苦しそうにしてさ。凄いよね、彼女ってさ!」


 ベラベラと、自分の心境と欲望をリノに話始めるハヤト。どうせ、リノを殺すつもりだからこんな話を始めたのだろう。穢れた男の告白は続く。


「結局、僕と一緒に旅をしてた頃は、アクシデントで彼女を手に入れる前に逃しちゃってさ。一年間燻った想いのままに、ここ王都で、好き勝手に女を魅了して遊んでたんだよ。いや、遊んでたって言うより……腐ってたというべきかな?」


 ハヤトにしては珍しく、自虐も含めた言い方で話し続ける。この一年の生活は、女を抱きまくり、性的欲求は満たされていたが、自尊心も高いハヤトにとって、あまり満足な生活ではなかったのだ。


「魅了を使い続けるうちに、精神的に動揺してる女性(ひと)ほど、僕のスキルに掛かり易くなることが分かってさ、僕はどんどんスキルを使うのが上手くなったよ。まあ、王都に居る尻軽共は小細工抜きで、ただ、スキルを使うだけで勝手に堕ちて行くようなのばかりだったけどね」


 肩を竦めて呆れたように言い放つハヤト。スキルを使ってその女性たちの人生を壊した者とは思えない、他人事のような言い回しだった。


「そんな女ばかり相手をしててさ、僕も堕落するところだったんだよ……でも、丁度その時に、クリスは僕に会いに来てくれたんだ! 嬉しかったなぁ! 一年前に見た頃よりも、遥かに美しくなっていた彼女! 一目見ただけで、まだ純潔を保ってくれていると分かる、あの清廉潔白な雰囲気……! 僕の為に! 僕の為に彼女は! 処女を残しておいてくれたんだッ!! この僕の為にぃッ!」


 感情に任せ、聞くに堪えない妄想をどんどんとリノにぶつけていくハヤト。彼を見るリノの目は、既に汚物よりも穢く、気持ち悪いものを見るような、冷たい視線となっていた。


「……気持ち悪い」

「何とでも言えよクソガキが。お前はもう用済みなんだからな。クリスは、もうすぐ僕の虜になるんだからね?」

「何を言ってるの? お姉ちゃんは、あなたに何か負けな――」

「あれぇ?さっき、君が止めたのって、分かってて止めたんじゃないのかい?クリスはずっと、僕の洗脳を跳ね除けて来てたのに、さっきはさぁ……」

「……ま、まさか、まさかッ! あなた、お姉ちゃんに……! お姉ちゃんに!?」

「掛けたよ、洗脳を。そして、掛かったんだよクリス。僕もびっくりしたよ。ホントはさ、クリスが大事にしてそうに見えた君を魅了で洗脳したら、君にクリスの存在を徹底的に否定させて、精神を弱らせて、じっくりとスキルを掛けようと思ってたからさ」

「なっ! あなた、という人は……そんな、ことを、させようと、わたしを……わたしの、心を?」


 ハヤトのやり口は、人間がやるようなことではない。人と人の絆を壊して、弄んで、あまつさえ、それに付け込んで、更に人生を壊してくるようなやり方……人ではなく、人でなしの所業だ。


「でも、成功したからね。……もしかして、君さ、クリスに対して」


 ハヤトは、リノがもっとも後悔している、忌まわしい出来事を抉るかのような質問を叩きつけて来る。


「――何か、言っちゃったのかなぁ?酷い事を……クリスの精神が、弱っちゃうような事をさ」

「――――」


 リノから表情が消える。悲しみも、怒りも、憎しみも、この一瞬だけは何もなかったかのように。


 そう、心当たりはあった。クリスは今まで強靭な精神力で、ハヤトのスキルを跳ね除けて来たのに、何故、今日に限って、ハヤトの術中に堕ちてしまったのか。


 ハヤトの話を聞いた時から、本当は、分かっていたのだ。原因が自分(リノ)であると。


 教会で叩きつけた、大好きなクリスを否定した、醜い言葉が、クリスの精神を、魅了が掛かってしまうほど、弱らせてしまったのだと。


 ――自分の存在が、クリスの心を侵させてしまったのだ。このケダモノに、心を侵させることを許してしまった。


 激しい自己嫌悪、激しい、自己への怒り……だが、やがてそれは、自己ではなく、他者へと向かう。


 目の前の、自分にあんなことをさせた、人の皮を被ったケダモノへと…。


「アンタが、言わないでよ……。わたしに、あんな悍ましい事をさせた、アンタが……アンタにだけはそんな事言われたくない!」

「やれやれ、自分のやったことを人の所為にするのかい? 可哀想な、クリス。愛情を向けた君に、さぞ酷い事を言われて悲しんだんだろうね。酷い奴だ君は」


 くつくつと笑いながら、ハヤトはリノに非難の言葉を浴びせる。


「黙れ! 黙れ! 黙れ! 黙れ! 黙れ! アンタなんか、殺してやるッ! お姉ちゃんに、あんな事させたアンタなんか! アンタみたいな、クズは、死ねよ!!! 死んでよッ!いま、すぐ、死んでしまえッ!!」

「……そんな汚い言葉遣いをして、下品な子供だね全く。クリスの傍に、君のような下品な輩は似合わないよねぇ?」

「汚いのは……アンタでしょ……この、腐れ外道」


 売り言葉に買い言葉の二人、もはや会話が成り立たないレベルの感情をぶつけ合う。それも、ハヤトが腰にある、英雄の剣を抜いたことで均衡が崩れた。


「さて、おしゃべりはもうこの辺にして……そろそろ、休もうかリノちゃん? 大丈夫だよ……クリスは僕がちゃーんと譲り受けて、しっかりと大事にするからね」


 ハヤトがリノに剣を向け、ゆっくりと近づき始める。

 リノは、悔しさを滲ませた顔をしながらも、ハヤトに敵わないのは理解しており、後ろに下がっていく。


 だがやがて、リノの背中が行き止まりの壁に当たり、距離を離すことは出来なくなってしまった。ゲームオーバー、勇者の勝ちである。


「お散歩の時間は終わりだよ? さあ、リノ。そろそろ眠った方が良い。大丈夫、最後の情けとして、痛みを感じないくらい、一瞬で終わらせてあげるからね? ふふふ……」

「アンタ……なんかに、わたしは……」

「殺されるんだよ、僕なんかに、君は。だって君は僕より弱いから。弱いものは、全部失う運命なのさ。君は、クリスも、絆も、命さえも、失ってゴミのように消えていくんだ」


 ハヤトは愉快そうに、リノに語りかけた後にゆっくりと。


 英雄の剣を、リノに向かって振り下ろした。

ちなみに、神がハヤトに魅了スキルを授けた理由は、面白そうだったから、だとか……。

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[一言] 邪神やんけ神ごと死ねや
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