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勇者に4人の幼馴染が寝取られ……あれ1人様子が?  作者: 鶴沢仁
第二章 聖女と救世の英雄
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取り消せない言葉

ハヤトのスキルに掛かった人は、みんなこんな感じで堕ちました。

 

『――やめてっ!そんな手で触らないでよっ!』


『ごめんね、リノ……。勝手に触ろうとして、少し、びっくりしちゃったんですよね? ごめん、ね』


 お姉ちゃんを、怒鳴ってしまった……。

 大好きなはずなのに。本当の家族になりたいって、そう心から思ってたはずなのに。わたしを撫でてくれるお姉ちゃんが大好きだったはずなのに。


 わたしの体調を心配して、優しく声をかけてくれただけなのに。


 その、おねえちゃんを、わたしは、拒絶して、あんな。


「――……あっ……あああああぁ……なんでっ……なんで? わたし、どうしてあんなこと」


 大切なのに、わたしを救ってくれたのに、わたしを受け入れてくれたのにっ! それなのに、何であんなひどい事できるのわたしは?


 だって、お姉ちゃんはわたしの中で()()()に大切な人で。


 あれ、二番目って、なんだっけ。一番目ってだれ? そんなひといないはずっ?……えっ、なんなの、この感情。


 こんなのわたしじゃないよ? ホントの、わたしだったら、一番大事なひと、決まってるもん……。


 そうだよ、わたしの一番大事な人は()()()()で二番目がおねえちゃ……。


 っ!? ちがうっ……ハヤト様って、なに? だれ……。あの勇者の人? おか、しいよ、だって、わたしは、あんな人好きじゃなかったはずだもん。なのに、わたしの心は、何で、あの人を求めてるの?


 これが、恋なの? 恋って、こんなに気持ち悪い感情なの? だって、こんなのまるで、わたしが乗っ取られていくみたいで……。


 わたしじゃない誰かみたいで……。


 お姉ちゃんへの大事な気持ちがどんどん塗り替えられていくような、そんな……。やだ……。


 やだ! やだ! やだ! やだ! やだ! やだ! わたしが好きなのはお姉ちゃん! おねえちゃん! おねえちゃん! おね……ちゃ……おね……ハヤト様。


 ハヤト様が……わたしは、すき……? ハヤト様……すき……あっ……ああ……。


「ぐぷっ!……うえっ! うぇぇ……!」


 変わっていく、気持ちの悪い自分に耐え切れず、わたしは部屋のゴミ箱に胃の中の物を吐いてしまう。おねえちゃんがどんどん消えていく。消えて行ってしまう……。


 おねえちゃんの代わりに、ハヤトという存在が……ああ、ハヤト様すき……どんどん、わたしの心を侵していく。一体、わたしは、どうしちゃったの……?


 お姉ちゃんに怒鳴るわたし……。おねえちゃんを嫌悪するわたし……。そんなの、死にたくなってくる。いっそ、死んだ方がマシだよ。


 誰かたすけて。このままじゃ、わたしがわたしじゃなくなっちゃう……。おねえちゃんに酷い事をする、最低のわたしになっちゃう……。


 なりたくないよぉ。


 きらわれたくないよぉ。


 すきなはずなのに、もういやだよぉ……。


 独りぼっちには、もどりたくないよぉ……。


 ひぐっ……おねえちゃん、わたしを、たす、けて。



 ***



 早朝、俺様は邪魔者(リノ)に乱入されることもなく、たっぷり二時間自分を見つめ英気を養えた。久しぶりに俺様の顔を見たが……やはり、銀河一と言っても過言ではない程に、美しかった。


 気分は最高潮! 上機嫌の俺様はリノガキの部屋をノックする。めんどいが、神官ジジイの用事を果たさないと教会からの評判が悪くなっちまう。


 聖女である俺様が神を称える教会と仲が悪くなるのは、絶対に避けるべきだわ。神を称えるって事は、ようは、俺様を称えるのに等しいからな!


 しかし、出てこねぇなリノガキ。この絶世の美少女にして神である俺様を待たせんなよスラムの出涸らしが。ドアノブに手を当てると、なんと開いてんじゃん。もう入るわ。


「リノ……? 入りますよ? ごめんなさい、失礼します(言葉のキャッチボールくらいしろよ、出来損ない)」


 俺様が扉を開けると、ゲロの臭いとベッドの上に座ったまま微動だにしてないリノガキがいた。ゴミ箱に大量に……してやがる……ちょっと服にも付いてんぞ。うわぁ、これは、ドン引きだわ。


「リノ! 具合が悪くて吐いたのですか!? どこか苦しい所があるんじゃ……(汚ねぇな)」

「おね、ちゃん。だいじょうぶだから……。わたしのことは、ほっといて」

「そんな状態を見て放っておけるわけないじゃありませんか!ほら、こちらに――(こないで)」

「いいからっ! ほっといてって言ってんのっ!!」


 怒鳴られた、二回目かこれで。やったぜ!


 おうおう、俺様に随分な態度じゃねぇか。控えめに言って、最高かな? こりゃ、見立て通りに今日でケリが付きそうだな。


 グッバイ、リノ……。

 最後に名前くらい呼んでやるよ。俺様、優しいからさ。


「リノ……ごめんなさい、分かりました。あの、昨日、神官様が来て、リノと二人で教会まで来るように言われたので、落ち着いたら来てくださいね。私は、下で待ってますから(その汚らしい服は絶対に取り変えろよ、俺様が穢れるから)」

「……わかったから、もう、行ってよ」

「うん、待ってるからね、リノ……(お前を待ってるのはハヤト君だけどな)」


 部屋を出る直前に「おねえ、ちゃ……」とか言ってたけど、ウケるな。お前はもうおしまいだよ、お前もう終わり! 人生終了だから!


 その手は、俺様を掴むことは二度とねぇんだよ。魅了に負けちゃう雑魚は本当に大変だな~。マジで同情するわ。


 俺様のように、高潔な精神を持たない己を恨め恨め!または、ハヤト君を恨めよ!


 俺様が宿屋の一階まで降りて二十分くらい、たっぷりとリノは俺様を待たせた後に、降りて来た。俺様は、すかさず手を繋ごうとリノに手を差し出してみたが、嫌な顔をされて無視された。


 この調子でクライマックスまで、ワルガキ(ヘイト)ポイントを貯めて行こう。満タンで、パーティ追放の特典!


 俺様は寂しい表情を作り、リノにわざと向けながら出発を促した。リノはすげぇ辛そうな顔をして、俺様から少し離れて付いてくる。


 この距離感を最初に保ってくれれば、俺様も、もうちょっとお前の事を好きになってたかもしれねぇのに。俺様の貴重な時間を邪魔するなんて、愚かな事をするからだよ。馬鹿が。


 教会に行くまでは終始無言で、居心地の悪い、居心地の良さが俺様を包んでいた。俺様にとっては、天国。リノにとっては、地獄の始まりになるであろう、教会へはすぐに到着した。


 中に入ると、俺様を引き留めた糞ジジイ神官と、複数の間抜け面した神官共が俺様たちを待っていた。献身の聖女である俺様を一目見たくて、こんなにゾロゾロ集まりやがったのか。


「聖女様! お約束を守っていただき感謝ですのじゃ! ささ、その少女に早速、女神の祝福を与えるので、そこの少女はこっちに来るのじゃ!」


 糞ジジイはリノに手招きすると、リノは祝福を授かる、中央の台に行こうとする。


「リノ……その、祝福を受ける前に、話をさせてくれませんか?(さて、仕上げと行こうか!)」


 俺様は最高のタイミングで声を掛ける、リノがスキルを手に入れたことを契機に、この関係を一気に終わらせるために、仕込みをするんだよ。


「……なに? 祝福を受けてからじゃダメなの? 神官さんが呼んでるから忙しいんだけど」

「うん、ごめんね。あのね、リノ、私の事を今でも家族だと思いますか……?(怒りを引き出すための手順をキチンと守れば、絆を壊すことなんざ朝飯前よ)」

「は……? いきなり、なに、いって」

「思ったんです、リノ。ううん、リノちゃん。やっぱり無理して私と、家族になろうって、手を取ってくれたのではないのかなって(無理だったのは俺様の方だけどな、ぐひひひ)」

「な、なんで? そんなこと、思うん、ですか? いみ、わからないんだけど」

「だって、最近のリノちゃん……とても辛そうじゃないですか。本当は私と居ると、苦痛なんじゃないかってっ……そんな事、思ってしまうんです。リノちゃんは……私の事、まだ、好きですか? 私は、リノちゃんの家族に、なれていますか……?(しぶてぇなこいつ、何でまだ堕ちないんだよ)」

「おねえ、ちゃん……そ、それは……わ、わたしは……あっ」

「リノちゃん! 正直に言ってください。私は、リノちゃんの家族でいても良いんでしょうか? リノちゃんは、今幸せですか? 私は、リノちゃんには、幸せでいてもらいたいのです……私より、もっと、好きな方が……リノちゃんに、相応しい人がいるなら……教えて欲しいんです(おら、さっさと拒否れよ! ここまで演技してる俺様に恥をかかせる気かよ!)」


 両肩を触り、リノに顔を近づける俺様。魅了でほぼ堕ちかけているこいつにとっちゃ、こりゃ最悪の対応だろう。本人にも制御できないくらいには、な?


「!! やめてよ! 触らないでって言ったでしょ! あんたなんか嫌い! わたしは、あんたなんかより! ハヤト様の方が好きなんだから! ハヤト様がわたしの家族だったら良かった! あんたなんか――わたしの家族じゃないッ!!」


  リノは俺様に教会中に聞こえそうなデカめの声で罵倒した。


 ククク、ハハハッ、フッハハハッ!! 言いやがった! こいつ! とうとう言いやがったぞ! 後戻りできない言葉を! 俺様に、言いやがったこいつ!


 家族を捨てたんだよてめぇは! 寄生虫が巣立った! 地獄へと巣立った! 歓喜! 歓喜! 歓喜! 俺様は勝利した充足感を味わっていた。


 いやー、見事な展開だわ。ハヤト君様様だなこりゃ。


 お礼と言っちゃなんだが、俺様も全身全霊の悲しみ演技をお見せしなきゃならねぇな!みんな泣き叫ぶような悲壮感溢れる締めにしてやるよ。


 さあ、俺様の最高の劇場の始まりだ。

もう、こいつは、ハヤト未満なのでは……。

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