合致した思惑
どんどん嫌な奴になっていく……。
最近、笑える事態が起きてるんだ。おかげで俺様の機嫌もうなぎ上りだぜ!事の始まりは、ハヤト君と再会してからだな。
一か月経って王都を出ようとした俺様たちの前に出て来て、表向きは再開を喜び合ったわけよ。
それで、久しぶりに会ったならって事で、更に王都にしばらく残って話さないか誘われたわけよ。
リノガキやアレフは嫌がったけど、俺様はその話に乗ったんだわ。
こいつ……また面白れぇ事やってくれそうな気配がしたからな……!
アレフの奴には適当に。
「そうですよね……。最近では、良い噂も聞かず。貴方にした過去の行いを見れば、お気持ちは痛いほど、わかります……でも、それでも、信じてみたいんです。今の勇者が、アレフにした仕打ちを反省し、真摯な気持ちで魔王討伐をする方になったのか……」
とか言ったら、渋い面して「……わかった、クリスが信じるなら、俺も信じてみる」とか言い出しやがったんだよ! マジで爆笑ものだわ!
あんな奴が、反省して生まれ変わるわけねーじゃん。クズは、いつまでもクズなんだよバーカ。アレフは相変わらずこえーけど、頭の方が残念なんだよなぁ。
人なんか信じんなよ。信じて良いのは、自分だけだぜ?
おっと、話が逸れたな。それでだ、ここからが最高の笑いどころなんだが。ハヤト君はてっきり、また、美しい俺様を引き留めて魅了スキルでも掛けて来るかと思ったんよ。
久しぶりに頭痛の演技するのも、まあ悪くなかったから気合入れて、ハヤト君の呼び出しに応じたわけだ。そしたらなんと……。
あいつ、リノガキの方に魅了スキル使ってたんだよ!? リノガキってまだ十二歳くらいだぞ! あれは糞やばかったわ。
まさか、下半身パヤパヤト君が、ロリ〇ン勇者だったなんて、糞笑ったぞ。おまえ、何でもイける奴なのかよ……。つか、引き留めた理由って、ロリ目当てかよっ!?
リノガキは必死に魅了スキルに抗ってたけど、今日で丁度一週間くらいは経つんだよなぁ。
しかも、ハヤト君はよほどリノガキとヤりたいのか、一日、三回は会いに来るからよ……食事の時間をお知らせする代わりになるんじゃね。
もう、二十回は累積掛けされてるリノガキは、そろそろ限界に近い。アリア達なんて十回目くらいで、ハヤトにメロメロだった事を考えると、滅茶苦茶、頑張ってんじゃん。
やるじゃん、リノガキ! もうちょいでヤられるけどな、ガハハ。
んで、最近は俺様への態度も大分無理して振舞ってるみたいで、ちょっと良い感じなんだよ。嫌われてるって言えばいいの?
頭撫でると嫌そうな顔して最高なんだが。もっと嫌がれ、俺様の気持ちを知れ。
あのスキルってなんだ? 同性の想い人とかも対象なん?それとも、そういう対象としてリノガキって俺様の事普段から見てたのか? ホラーすぎるだろ……。
これで、俺様に対して徹底的に暴言でも吐いてくれれば、それを理由にこのクソガキともおさらば出来るってもんだ。
本当は感動大作で使いつぶす予定だったけど、それも手間だしなぁ……ハヤト君が引き取ってくれるならそれに越したことはねぇぜ! ロリ〇ン万歳! キモいけど褒めてやるよ!
さて、今もまた、ハヤト君にスキルを掛けられちゃったリノガキに俺様もちょいと便乗参加してやるか。
ハヤト君は早くリノガキを抱きたいんだろうけど、俺様も散々ストレス溜めさせられたからな、少しは遊ばせろや。
「リノ……? 顔色が悪いですけど、大丈夫ですか?(嫌がってる顔してんなぁこいつ)」
「……い、いや、お、おね、えちゃん……大丈夫だから」
「リノ? やっぱり少し変ですよ! ちょっと失礼しますね(はよ、キレろや、俺様に怒鳴れ!)」
そう言って、俺様はリノガキの額に手を当てようとする……すると。
「――やめてっ! そんな手で触らないでよっ!」
「!? リ、リノ? ご、ごめんなさい……私、何か、リノの気に障る事をしてしまいましたか……?(やべ、反応が面白すぎる…なんやねんその顔!)」
「……あっ……ちがっ……わたし、お姉ちゃんに、そんな……あ、あああぁっ!ちがう!ちがうのっ!」
「ごめんね、リノ……。勝手に触ろうとして、少し、びっくりしちゃったんですよね? ごめん、ね(ここで、心の痛みに耐えるような笑顔をあえて、見せつけていくスタイル!)」
……最高や。ウザいくらいに、俺様の時間を邪魔してきた、あの、リノガキが、俺様を、嫌うなんて。
最高過ぎやろ。もうちょっと強い言葉を使ってもいいんだが。もっと、俺様から離れろ。そして消えろっ!
リノガキは発狂して、二階の部屋に走って行っちまった。奇行が目立つな、相当イっちまってんなありゃ。お大事に、なんつって。
「リノちゃん、一体どうしたんだろうね。クリスにあんな態度を取るなんて……信じられないよ」
「たぶん、リノは、少し……疲れてるだけなんですよ。色々な事がありましたからね(あいつとの出会いが、俺様の悪夢の始まりでもあったわけだがな)」
ハヤト君が、僕、何も知らないよって感じの臭い演技をしてきたが、機嫌の良い俺様はそれに乗ってやる事にした。ロリを早く堪能したいのを我慢して、そんな演技してるかと思うと、面白すぎだろこいつ……。ハヤト君の評価をちょっと上げるべきかもしれないな。クズから面白クズくらいに。
「そうなんだ、それなら、しばらく休めば元に戻るかもね。それじゃ、僕はまた来るよ。おやすみ、クリス」
「おやすみなさい、勇者様。リノの心配をして頂き、ありがとうございます(奪ってくれて、ガチで感謝してるぞ)」
「そんなこといいさ、僕も話してる内にリノちゃんが心配になって来たからね」
そう言って、ロリ〇ンのハヤトは出て行った。あいつ、もうアリア達に興味ねぇんかな。最近リノガキにしか会いに来ねぇし。この一年で、色情魔に何があったんだよ……。
俺様も、もう寝ようかな。リノガキの様子を見るに明日が峠だろう。完璧にハヤト君のものになったら、王都を出て旅を再開するか。俺様は自室に向かうべく階段を上がろうとした。
「あの、聖女様ですかな? ワシは教会で神官を務めているダナックと申します。少しお話良いですかな?」
「え、あの、神官のダナックさんですか? 分かりました。どんなお話でしょうか?(誰だよ)」
いきなり、変な糞ジジイ神官と、エンカウントしてしまった俺様は、聖女モードに切り替える。訳分からん奴相手に手を抜くわけにはいかん。
「いやはや、こんな時間にすみませんな。ただ、これは大変重要なお話なのですじゃ」
「……一体どのような、お話なのでしょう?(変なタメしてねぇで、さっさと言えよ死にぞこない)」
「さきほど、聖女様と一緒に居た少女……彼女は、女神様の祝福をまだ受けていませんなぁ?」
「リノの事でしょうか……? 確かに、リノは何もスキルを持っていませんが……(親に聞けよ、何でソレ俺様の責任になるんだよ!? ふざけんなっ!)」
「聖女様は当然、知っていると思いますが、あの歳の子供が、教会で女神の祝福を受けるのは絶対です。最優先される事であることは、分かっていると思いますじゃ」
「はい、その通りです。女神様の祝福を受けることは当然の責務であると思います(だから、俺様に言うなよ。あのガキは他人なんだよ)」
「それでは、明日の早朝にでも、あの子を連れて教会に来ていただけますね?聖女様が来れば、教会の者達も大変喜びます」
なんだ、ようするに献身の聖女と呼ばれてるビッグな俺様を呼び出すために、リノガキをダシに使ってるだけじゃねーか!
何が、女神の祝福は絶対だよ。打算に塗れたクソボケジジイが! まあ、俺様を崇めるってんなら、行ってやらんでもないけどな!
「分かりました。祝福を授かっていない子達を案内するのも、聖職者の役割と存じております、私が責任をもって、リノを明日の早朝、教会へ連れて行くことをお約束します神官様(めんどくせぇけど、リノガキとの付き合いもあと僅かだし、教会で最後の別れくらい言ってやるか)」
「聖女様がそう言ってくださればワシも安心というものですじゃ。それでは、お引止めしてすみませんな。これでワシは失礼する」
そう言って、さっさと宿屋を出て行く糞ジジイ。お前、絶対教会に頼まれて俺様を待ってただろ……。まあいいや、俺様も寝るべ。
この日、あの後、結局一度もリノガキは俺様の部屋に来なかった。
――とても、快適だった。
いや、最初からこういう人だった……。